高校3年の夏、美雪の学校に保彦(阿達慶)という少年が転校してくる。ある小説に憧れて300年後からタイムリープしてきたという保彦と秘密を共有することになった美雪は、彼に恋をするが…。

松居大悟監督と脚本家の上田誠が初タッグを組み、法条遥の同名小説を原作にオール尾道ロケで映画化したタイムリープ+青春ミステリー『リライト』が、6月13日から全国公開された。本作で高校生と、その10年後の美雪を演じた池田エライザに話を聞いた。

-最初に脚本を読んだ時の印象は?

 タイムリープものやパラドックス系の作品は、私も好きでいくつか見たことはありましたが、こんなにやっちゃうのという感じでした。もちろん、私は主人公の美雪の目線で読むわけですから、途中で手を止めたくなるというか、これ以上先に進みたくないと思うような展開がいくつもありました。でも、一視聴者の視点で考えると、エンターテインメントとしてとても面白いと思いました。実は脚本の上田(誠)さんの時間ものに私が未来人役で出たことがありました。なので、今回は未来人ではなく、未来人を迎える側になるというのは面白いなと思いました。それに松居(大悟)監督なら、人の心の機微みたいなのを的確に表現してくださるし、ただのエンターテインメントでは終わらずに、情感あふれるものになりそうだと思ってワクワクしました。

-実際に演じてみてどんなことを感じましたか。

 松居監督の演出は、「ここはこうしてください」ではないんです。こういうお話だから、あとは皆が思うままに、自由にやってみてほしいと。もしそこで感覚が違えば何かおっしゃるんでしょうけど、基本的には私たちが自由に楽しくお芝居ができる環境を用意してくださったので、脚本で読んだ時以上に物語が立体的になっていく感じがしました。

-タイムトラベルものを演じる難しさや楽しさについてはどう思いますか。

 今回は、監督も上田さんも、スタッフの皆さんも、全てを理解して現場に臨まれていたので、俳優の負担はとても少なかったです。特に私が演じた美雪は、頭を使っていろいろと考えるというよりも、受け身というか起きることに素直にリアクションをしていくことが大切な役だったので、そのあたりは監督を信じて、毎日、新鮮な気持ちでそれぞれの役者さんたちと向き合えばいいという気持ちでいました。

-今回は、高校生とその10年後の20代を演じ分けましたが、いかがでしたか。

 最初は高校生のところは照れました。大人の美雪と同じように、私にとっても高校3年生は10年ぐらい前のことですし、私以外もほとんどの共演者が20代後半だったので。監督からの要望は「身振り手振りを大きくして」ということで、そこに全てが詰まっていると思いました。やっぱり大人になると良くも悪くも洗練されていって、人からの目線で自分を形成していくけれど、子どもの時って余計な力が入っていないんですよね。なので、それに慣れてくるととても心地よかったです。久しぶりにがに股でずんずん歩けて楽しいなとか、あの頃に戻った感じがしました。でもそれは、尾道のあの環境で制服を着ていたからこそできたことなので、環境に救われたと思います。

-美雪のキャラクターについて感じたことを。

美雪の学生時代のバランス感覚や大人になってからの旦那さんとの関係性のどちらにも美雪らしさがあります。独特の距離感や、ちょっと内弁慶で甘えん坊なところとか。だからお母さん役の石田ひかりさんにも旦那さんに対しても、大人なのに大人っぽいお芝居をしていません。私は美雪のそんなところが好きです。

-この映画は『時をかける少女』など、大林宣彦監督作品の影響がとても感じられました。昔のものを見たりはしましたか。

 あまりにも有名なので、気付いたら何回も見ていたという感じです。でも、今回は気付かないようにしていました。美雪としてそこに気付くとおかしなことになるので。例えば、大林作品に出られた尾美(としのり)さんや石田ひかりさんが出ていますが、美雪としてはそのイメージは全くないので。それに『時をかける少女』がなくて尾美さんが先生をやっている世界線の話なので、私は意識しないようにしましたが、やっぱり監督たちは、尾道でロケをしたのももちろんですし、すごくリスペクトを持ってやっていらっしゃるというのは感じました。

-尾道でのロケはどんな感じでしたか。

 おととしの真夏に撮影したので、本当に暑かったんです。暑くないと出ない汗、暑さによって透けてくる血管、頬っぺたの外側まで赤くなったりとかは、霧吹きやチークでは決して表現できないものです。高校生の時はほとんどメークもしていなかったので、汗が透けて出てくるというのは、尾道の空気や湿度や温度を映像の中に閉じ込めてあげられたような気がして、よかったなと思いました。尾道は新旧が混じり合っている感じがするところがいいですね。それから、私が倒れるシーンの時にチームの皆さんが、アスファルトが熱くなってるからと毛布を敷いて熱を取ってくださったんです。そういう現場の愛情を感じると、この映画を絶対に成功させなければという責任感も生まれます。そんな現場の雰囲気の良さも映ったんじゃないかと思います。

-松居大悟監督の演出で印象に残ったことはありますか。

 特に細かい指導をされる方ではなくて気持ちの確認をする程度です。その時私がどういう気持ちでお芝居をしたかを説明して、監督がそれに納得すると、もうどこかほかの所へ行ってしまったりします。もちろん、こだわってらっしゃる部分はあって、例えば手や指の重なり方とか、手をつなぐ瞬間とかの指導には熱が入ります。やっぱり美しいシーンを撮る時の美的感覚は素晴らしいと思います。

そういう時以外は基本的にニコニコしていらっしゃって、自由にやらせていただいたので、本当にお芝居がやりやすい環境でした。そういう感覚は、映画の中にも出ていると思います。学生たちの自由度を見たら分かると思いますが、皆怒られることを恐れていないし、やりたいようにやっていますから。

-完成作を見た感想を

 ネタバレを避けるのが難しいですけど…。私は美雪として見ましたし、自分が出ていないシーンを映像として目撃するのは初めてだったので美雪が知らなかった物語にショックを受けましたし、青春を奪われたような複雑な気持ちになりました。でも、映画を見た後の余韻が気持ちよかったです。主題歌を作ってくださったRin音さんの紡いだ歌詞が物語と重なって、エンドロールで初めて涙が出ました。最初に聞いた曲の印象と、映画を見た後で聞こえてくる曲の印象が全く違って、見た後の主題歌が心に染みて、すごくすてきな映画だと思いました。

-これから見る観客や読者に向けて、ネタバレになるので難しいですが、見どころも含めて一言お願いします。

 この映画は、夏に上映することを心から望んでいた映画です。夏を閉じ込めた映画を夏にお届けしたいと。自分たちが生きている現実世界から映画館に飛び込んで、この物語を見て、劇場を出て余韻に浸りながら、また熱い夏という現実に戻る。

「あれは何だったんだろう」という不思議な夏の思い出として心にとめていただければと思います。ぜひ劇場で見ていただきたいです。何回も見るといろいろと分かることが違ってくるかもしれませんよ。

(取材・文・写真/田中雄二)

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