WEST.の濵田崇裕が主演する「歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~」が、6月30日から上演される。本作は、福田転球が脚本、河原雅彦が演出、濵田が主演を務める「市場三郎」シリーズの3作目。

今回は、冥土を舞台に、三郎が女性と出会い、恋に落ちていく様子を人情味あふれるエンターテインメントとして描く。濵田に本シリーズへの思いや公演への意気込みなどを聞いた。

-7年ぶり、シリーズ3作目の公演となりますが、公演が決まったときのお気持ちを教えてください。

 初演(2016年)からはおよそ10年経っていますし、今回は7年ぶりの作品となるので、新規のお客さんが付いてこられるのかなと心配ではありましたが、今回の台本を読んで、初めて見るお客さんも「そんなことあったんだ」と楽しんでいただけるのではないかと思っています。とにかくくだらないことに特化した作品なので、僕も楽しみにしています。

-濵田さんもこのシリーズをもう一度やりたいと思われていたと聞いています。

 はい、やりたいなと思っていました。演出の河原さんも「出演者の皆さんが元気な限りいけるぞ」とおっしゃっていたので「めちゃくちゃいいじゃないですか!」と話していました。

-そんな本作は、濵田さんにとってどんな存在ですか。

 僕の代表作だと胸を張って言えます。これまでで一番、くだらないことを全力でやっています。ですが、そこには河原さんとの稽古の時間と本気のぶつかり合いがあります。

実は、僕の初座長公演だったので、(初演時には)こんなにもばかばかしい話なのに稽古で号泣してしまったんですよ。うまくいかなすぎて。それくらい思い入れのある作品ですし、いろいろ教えていただいた作品です。

-号泣してしまったという初演ですが、当時は、どんな心境だったのですか。

 めちゃくちゃプレッシャーを感じていましたし、ぎこちなかったと思います。(WEST.の)メンバーにどうすればいいのかを聞いたりもしましたが、とにかく緊張しかなかったです。初日の記憶はあまりないです。

-これまでのシリーズで思い出に残っていることは?

 常に笑いが絶えない現場ですが、初演のときは僕はひたすら苦戦して。稽古の二日目に嗚咽(おえつ)を漏らしてしまいました。大人になって初めて、Tシャツで顔面を隠しながら「うわぁ~」って声を出しながら泣いてしまって。今、考えたら河原さんもかわいそうでした。(河原は)「俺も泣かせたくないんだよ。

嫌だよ、俺だって」って(笑)。でも、「かっこいい俳優さんはたくさんいるけど、芯までしっかり俳優と言えるくらいの人になってもらいたい。この先に年を重ねたときに『やっぱりあの人がいいよね』となってもらいたいから、俺は厳しくしている」と河原さんがおっしゃっていて今はそうして厳しくしていただけたことは本当に良い経験だったと思います。

-そうしたシリーズも今回で3作目になります。この「市場三郎」シリーズの面白さは?

 全てアカペラで歌って、効果音から波の音まで自分たちで音を出します。それが「歌喜劇」という新しいジャンルかなと思います。台本にせりふとして音符マークが付いているんですよ。でも、どんな歌なのかは聞かされていないんです。そんな中で、稽古の最初の日に本読みをするのですが、河原さんから「音符マーク付いているから歌ってください、どうぞ」と言われて(笑)。自分の番がきてしまったら、自分で音楽をつけて歌うしかない。台本に「波の音が入る」と書いてあったら、みんなで「ザザーン」と言ったりして(笑)。最初はカオスでした。

そうやって全員で作っていくんです。もちろん、河原さんから「こうしよう」という演出もありますが、キャストみんなで意見を出し合いながら作っていくので、自分たちで作っていくという作業をしています。

-濵田さんは歌がお得意ですが、アカペラは大変でしたか。

 (普段の歌唱と)全然違います。アカペラは本当に難しい。出だしの音を間違えた瞬間に、もうハモれないんです。しかも、僕は舞台袖で音程を確認する時間もないので。その難しさがこの歌喜劇の肝だと思います。今回、7年ぶりのアカペラなので、もう1回トレーニングし直しです。みんなで手をつないで発声と歌の練習をします。カンパニーの仲が悪かったら成立しないんですよ。

-濵田さんから見た市場三郎というキャラクターの魅力を教えてください。

 三郎はとんでもなく不器用で、いちずでまっすぐな男です。どんくさくもあり、まっすぐすぎるがゆえに痛い目に遭う。「正直者がばかを見る」というのはこのことだと思います。ですが、こうなりたいなと思わせてくれる古き良き男です。

-三郎は当て書きだそうですが、ご自身と似ていると思いますか。

 似ているとは思わないです。僕も変ですが、ここまで変じゃないと自分では思っていますから。ただ、うれしいことに(福田)転球さんたちは「濵ちゃんしか演じられない」とは言ってくれます。

-今回の台本を読んだ感想は?

 面白かったです。ストーリーも想像していなかった展開になっています。これまでのシリーズを見てくれている人には分かると思いますが、“ホットパンツの妖精”が今回も登場します。“ホットパンツの妖精”が現れると恋が始まるので、今回はどのタイミングで出るのかも楽しみにしてもらいたいと思います。

-濵田さんはドラマやバラエティーなどさまざまな活動をされていますが、その中で舞台でお芝居することの魅力はどんなところにあると感じていますか。

 舞台は“ワンカメ”ですが、お客さんが好きなところを見ることができるというところが魅力だと思います。「この人をずっと見ていたい」「2回目だから、気になっているところを見たい」とそれぞれ見たいところを見られるのが舞台の良さかなと。それから、演じる側も生身で演じているので、その時々で体調も違うし、時にはかんでしまったりもするし、そうした生感が良いのかなと思います。その時によって、お客さんの笑いのタイミングも変わるんですよ。僕たちとしては定番の笑いが欲しいので、勘弁していただきたいですが(笑)、同じようにやっても違います。

-最後に、公演を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

 シリーズ1作目の「温泉宿の恋」から見てくださっているファンの皆さんにとっては、とてつもないレアキャラが登場するなど、面白いことが盛りだくさんの作品になっていると思います。「グアムの恋」、そして今回の「冥土の恋」から見てくださる方もすぐに付いてこられる物語なので、安心してご覧ください。慰安旅行に行く先で起こる出来事を描いたシンプルなストーリーです。見終わったとき、何か心に残る思いがあったら、それを大切にしてくださったらうれしいです。

(取材・文・写真/嶋田真己)

 「歌喜劇/~蘇る市場三郎 冥土の恋~」は、6月30日~7月27日に都内・東京グローブ座、8月1日~10日に京都劇場で上演。

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