福田正博 フットボール原論

■現代サッカーにおいてかじ取り役の中盤の選手であるボランチの重要度はさらに増している。日本代表はこのポジションでキャプテンを務めた長谷部誠が代表を引退後、今後、軸となるのは誰になるのか? 元日本代表の福田正博氏に聞いた。

 ボランチの役割のひとつは、広い視野を持ったうえで、フィールドの味方11人と相手の11人すべてを把握して、どういうふうにチームをまとめていくか道筋を決めていくことにある。日本代表の森保一監督は、現役時代にこのポジションを務めたこともあり、監督としても後方から支援していくタイプと言えるだろう。

 まずチーム全体を見て、各選手のいいところを伸ばし、足りないところは誰かがカバーすればいい。彼自身は現役時代、ラモス(瑠偉)さんの守備の負担を軽くするために、ラモスさんの後ろで走り続けていたことがまさにそれにあたる。現在の日本代表のチームの作り方もそのプレースタイルに近いのではないだろうか。

 古今東西、いつの時代も「あの選手は、もうちょっと守備ができると…」または「攻撃ができると…」と言われることがある。

だが、守備力がやや心もとない選手でも、それを補って余りある攻撃力があるのであれば、守りは守備力の高い味方がカバーすればいい。両方やらせようとするのではなく、得意分野の能力を最大限発揮できるようにすることが重要だと私は考えている。もちろん、攻守両面で高いレベルを要求し続けることも一つの考え方で、否定はしない。しかし、それは「ないものねだり」になりかねない。無理に不得手なことをやらせるのではなく、個々の特長を発揮できるようにすべきだ。

 たとえば、久保建英について守備面に不安があると言う人がいる。

もちろん、最低限チームのためにやらなければいけないことはやるべきだが、そこにエネルギーを使いすぎることで、彼が持っているストロングポイントを失ってしまっては本末転倒だろう。

 森保監督の場合、チーム全体でバランスをとって、個々の能力が最大化できるようなチームづくりをしていると私は考えている。招集した選手それぞれの能力が生きるかたちをどう監督として見出すか。11人が自分の長所をフルに出せたら、それは足し算になるが、全員が自分の苦手なことばかりを一生懸命やり始めたら、それはチームの総合力がダウンすることになる。現役時代、「かじ取り」役としてバランスをとっていた森保監督らしいマネジメントと言えるだろう。私自身も、それが本当にチームで戦うという意味だと思っている。

 現在、日本代表のボランチは、先日のパラグアイ戦とミャンマー戦では柴崎岳、橋本拳人が先発で起用されていたが、これもある程度の補完関係、バランスを考慮しての配置だろう。

長谷部誠後の日本代表キャプテン像。必要なのは闘将よりも頭脳派...の画像はこちら >>

コパ・アメリカでキャプテンマークを巻いたのは柴崎岳だった

 このボランチについては、長谷部誠が代表を引退したあと、若い世代も伸びてくるなかで、森保監督は柴崎を中軸に考えているのではないか。ロシアW杯の時に、柴崎がいいタイミングでレギュラーとなり、一部には柴崎で大丈夫なのか、と不安視する声もあったが、柴崎は圧倒的な存在感を示した。そのロシアW杯で森保監督はコーチとして一緒にやっていたこともあり、柴崎の持っている良さや、彼のパーソナリティーをしっかり理解している。だからこそ起用し続けているのであり、柴崎がここから経験を積んでいけば、長谷部とはまた違うリーダーシップを発揮してくれるはずだ。

 リーダーシップとは、「これ」と決まっているものではない。

たとえば、長谷部が南アフリカW杯で日本代表のキャプテンになった当初、物足りなさを指摘する声もあった。しかし、立場が人を育てると言うように、長谷部は長谷部のよさを生かして、チームの中心になった。

 それまでの日本代表チームのキャプテンについては、いわゆる「闘将」を求める風潮が根強くあったと思う。それに対して長谷部はどちらかというと「優等生」なイメージで、グイグイ引っ張っていくタイプではない。チーム全員の話を聞いてまとめていく頭脳派だ。ドイツW杯のキャプテンだった宮本恒靖も近いと思うが、これからの時代のリーダーシップは、闘将よりも、そうしたバランス感覚やインテリジェンスがより求められるのではないか。

もちろん、リーダーとはこういうものだ、と決めつけるべきではなく、いろいろなかたちがあっていい。なぜなら、チームの置かれている状況によっては、違うリーダーシップが必要になることもあるからだ。

 日本代表チームについて言えば、これだけ海外リーグでプレーする選手が増えた今、各選手が自己主張をしっかりするし、自信もプライドも持っている。その選手たちを、ピッチの中で気持ちが離れないようにまとめるのがキャプテンだ。その意味で、柴崎の持っているパーソナリティーであれば、十分務めることができるだろう。鹿島アントラーズの伝統なのかもしれないが、小笠原満男のように、柴崎も背中で引っ張る朴訥で武骨な感じで、そこが彼の良さでもあると思う。

 その柴崎とコンビを組むボランチを誰にするかだが、橋本拳人はすでにその能力の高さを示しているし、ケガで離脱しているが三竿健斗もいい成長の過程をたどっている。ほかに、欧州で経験を積んでいる遠藤航らも控えており選手層が厚い。国内にも五輪世代の齊藤未月ら若手も伸びてきている。今後に期待したい。