リーガ・エスパニョーラは3月10日、1部と2部の試合を、少なくとも今後2週間にわたり、無観客で行なうことが決まったと発表した。その日の16時、ラ・リーガの取材申請担当者から1通のメールが届いた。



「申し訳ないが、少なくとも2週間、リーガ主催の試合の取材を認められない」

 リーガを撮影することが認められている、全カメラマンへの通達だった。

 メールが送信されてから4時間後の20時には、エイバル対レアル・ソシエダの試合が組まれていたのだが、この試合からこの規定が適応されるとのこと。想定を超える急展開となった。

リーガも無観客試合に。誰もいないカンプノウで聞いた音に感じた...の画像はこちら >>

2017年、無観客試合でプレーするリオネル・メッシ(バルセロナ)photo by Nakashima Daisuke

 週末の13日にはレアル・マドリード対エイバル戦、14日にはマジョルカ対バルセロナ戦がある。エイバルの乾貴士、マジョルカの久保建英。日本人選手がリーガで首位争いをする両雄との一戦を迎えるのだが、日本人メディアが取材をすることは難しそうである。


 これらは新型コロナウイルス対策のための措置である。スペインではここ数日、1日で数百人単位の感染者の増加が見られている。10日15時の時点では、感染者は前日より623人増の1622人、死亡者は35人となっている。

 スペインサッカー界への新型コロナウイルスの影響は、2月28日に行なわれたヨーロッパリーグ(EL)ベスト16の抽選会で、ヘタフェの相手がインテルに決まった瞬間からささやかれ始めた。

 現在、イタリアは欧州諸国の中で感染者数が最も多い。2月23日には北部ロンバルディア州などで封鎖措置が取られ始め、ベネチアで開催中だったカーニバルは期間を前倒して終了した。

それらはスペインのテレビでも報道されたが、まだスペイン本土では感染者がほとんど出ていなかったこともあり、あくまで対岸の火事のように扱われていた。

 そんななかでELの抽選会が行なわれ、スペインのチームとロンバルディア州ミラノのチームとの対戦が決まった。そして思い起こせば、チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦のバレンシアの相手も、同じくロンバルディア州のアタランタとなっていた。

 その後、イタリア国内でのさらなる感染者の増加を受け、セリエAでは無観客の試合が行なわれた。スペイン保健省のスポークスマンは、定例会見で「イタリアでは無観客で試合が行なわれているにもかかわらず、スペイン国内で相手チームのサポーターを受け入れて試合を行なっていいのだろうか」と、疑問を呈した。CLやELとなると、何千人という規模のファンが国境を越えて移動するからだ。

 スペイン国内でも感染者が徐々に増加していることもあり、3月3日、10日のCL バレンシア対アタランタ戦と、19日のEL ヘタフェ対インテル戦が、無観客試合となることが決定された。

 バレンシア対アタランタ戦前日の9日の報道では、メスタージャスタジアムに入ることができるのは、選手、クラブスタッフを含め250人以下とすることが、クラブとUEFAにより取り決められた。報道陣も規制され、自分のような外国人フリーランスフォトグラファーの入り込む余地はまったくなかった。

 そして10日の昼過ぎ、リーガ1部、2部の全試合の無観客開催が決定された。

 かつて一度だけ、無観客試合の撮影をしたことがある。2017年10月1日、カンプノウで行なわれたバルサ対ラス・パルマス戦だ。



 加熱したカタルーニャ独立運動の余波により、一切の観客を入れないことが、当日のキックオフ数時間前に決定した。スタジアムの外にはすでにたくさんの観客が集まっていた。

 カンプノウは約10万人のキャパを誇り、リオネル・メッシは今より2歳若く、まだアンドレス・イニエスタもいた。そこには今より魅力的なバルサのサッカーがあった。そんなバルサを見るために世界中から集まったファンが、スタジアムに入れない姿を見るのは悲しかった。

 いざ試合が始まってみると、10万人の観客がいないスタジアムでは、たくさんのふだん聞こえない音が聞こえてきた。

ボールを蹴る音、身体と身体がぶつかる音。味方を鼓舞する声、審判を怒鳴りつける声。ラジオアナウンサーの実況までが聞こえてきた。初めての状況に、最初はワクワクしながら撮影をした。しかし……。

 これまで何度も、観客の声が後押しとなって選手を突き動かす瞬間を撮影してきた。
たくさんのドラマを、選手だけでなく、観客も一緒になって作ってきたことを、カメラを通して見てきていた。最初に感じた目新しさに慣れてくると、サポーターのいないサッカーの撮影ほどつまらないものはなかった。

“命より大切なものはない”。今、サッカーの試合が無観客で行なわれるのは仕方がないことだと思う。少しでも早く、サッカーのあるべき姿、選手とファンのいるスタジアムを撮影できる日が戻ってくることを待ち望みたい。