非常事態について八重樫幸雄の見解は?

――お久しぶりです! 開幕以来、絶好調の東京ヤクルトスワローズについて、久々に八重樫さんにお話を伺おうとしたら......コロナ禍により、髙津臣吾監督をはじめ、コーチ、選手が大量離脱という非常事態を迎えています。

八重樫 こんな時代だから、こういうこともあるかもしれないとは覚悟していたけれど、それにしても驚いたね。急遽、ファームから選手を大量昇格させたけど、実績があるのは内川聖一、西浦直亨ぐらいでしょ? これはかなりの一大事ですよ。



八重樫幸雄はヤクルトの非常事態に「心配ない」。現役時代を知る...の画像はこちら >>

ヤクルトのユウイチ監督代行(左)と村上宗隆

――「監督不在」というのは、やはりチーム内に激震が走るものですか?

八重樫 僕の現役時代にも、シーズン途中に監督がチームを去って、「監督代行」が指揮を執る経験もあったけど、今回の場合は「成績不振」が理由ではなく、あくまでもコロナによるもの。だから、そんなに大きな影響はないんじゃないかと。特に今年は、序盤戦から絶好調で貯金も大量にあるし、2位のジャイアンツとも今のところは大差がついている。そんなに深刻に考える必要はないと思うけどね。

――そんなに悲観的になる必要はないでしょうか?

八重樫 悲観的になる必要なんてないと思いますよ。もちろん、楽観的ではいられない非常事態であることは間違いないけど、むしろ「今までなかなかチャンスを与えられなかった選手たちのアピールの機会だ」と捉えたほうがいいと思うし、実際にいい機会だと思います。
心配なのは、離脱中の選手たちが本調子に戻るまでにどれぐらいの時間がかかるのかだけれど、現時点では若手に期待するしかないですから。

――7月13日からは、松元ユウイチ監督代行の下、試合が再開しました。やはり、一軍レギュラー選手との差は大きいと感じます。

八重樫 それは当然ですよ。誰も、山田哲人青木宣親の穴を埋められるわけがない。でも、若手たちががむしゃらにプレーしてくれるだけでもいいと思うし、見ている側も過度の期待はしないほうがいいと思いますよ(笑)。


――もちろん、それは頭では理解しているんですけれど......。

八重樫 7月13日の時点で、オールスターまで「残り11試合」だったけど、ここは3勝8敗、あるいは2勝9敗ぐらいでもいい。それぐらいの割りきりが必要だと思います。たとえ負けが込んだとしても、若手たちにとって何か爪痕が残せる試合が少しでもあれば、それは後半戦に向けての好材料だと、僕は思いますけどね。

ユウイチ監督代行は、どんな人物?

――髙津監督が不在となり、コーチ陣もファームから昇格して大きく陣容が変わりました。戦い方などは変わるのでしょうか?

八重樫 確かにメンバーは大きく入れ替わったけれど、髙津監督になってから、一軍、二軍の連携はうまくいっているように見えるから、戦い方が大きく変わることはないでしょう。気をつけてほしいのは、コーチ陣が深刻になりすぎて暗くなってしまうこと。

あと、選手たちに過度の期待をしてしまうこと。そうしたことは選手たちにとって大きなプレッシャーになりますからね。

―― 一軍昇格後すぐに、並木秀尊選手や、武岡龍世選手がスタメン起用されています。彼らのプレッシャーも大きいでしょうしね。

八重樫 その点は、二軍のコーチ陣が同じタイミングで一軍に昇格したことが、不幸中の幸いかもしれません。若手選手たちにとってはプレッシャーを感じずに済むいい環境だと思いますよ。
そもそも、ユウイチも二軍のコーチでしたからね。

――指揮を執ることになったユウイチ監督代行の現役時代、八重樫さんも指導者として一緒にユニフォームを着ていました。どんな性格の方ですか?

八重樫 僕がユニフォームを着ていた頃、ユウイチはまだ日本語が上手じゃなかったんです。まだ読み書きもおぼつかなくて、ほとんどしゃべらなかったんだよね。日系ブラジル人で、ブラジル育ちなのにシャイだった。人見知りというのか、「オレが、オレが」というタイプじゃなくて、じっくり練習に取り組む真面目な性格でした。


――指導をする際に言葉の問題などはあったんですか?

八重樫 当時、ツギオ(佐藤)もブラジル出身で、彼は日本語が上手だったから、彼に通訳になってもらって、細かいニュアンスを訳してもらったりしましたね。ユウイチはとにかく真剣で、浮かれたり、茶化したりすることなく黙々とバットを振っていたし、「一軍に上がるんだ」という意志の強さをすごく感じました。

村上宗隆がいる限りは絶対大丈夫

――選手としてはレギュラーにはなれなかったけれど、代打では存在感を発揮しましたね。

八重樫 バッティングは個性的な打ち方だったけど、彼の場合は「自信」が芽生え始めてから、一軍での活躍が始まったように思います。現役時代の印象としては、「すごく読みがいいな」という感じだったかな? 相手の配球をきちんと読んで打っている。意図のあるバッティングをしている印象がありますね。



――そのスタンスは、指導者になってからも生きているのでしょうか?

八重樫 昔から、彼は記録、データを見るのが好きなタイプなんですよ。今年、作戦コーチに就任した時に、「ずいぶん、髙津監督に評価されているんだな」と思って、ある球団関係者に聞いたら、「ユウイチはデータ分析にすごく長けているんだ」と言っていました。髙津監督にとっても、大いに助かる存在なんだと思います。

――髙津監督が一軍に昇格する際の条件として、ユウイチコーチをはじめとする「二軍時代の指導者陣も一軍に昇格すること」というのがあったそうですね。

八重樫 そういう意味でも、二軍時代から髙津と一緒に野球をして、「髙津野球」をよく理解しているはずだから、これまでとまったく違う野球はしないと思うし、選手たちが戸惑うこともないと思いますけどね。

――現在、9連戦の真っただ中ですが、ここを乗りきれば、ひとまずオールスターブレイクが待っています。ここからオールスターまではどのように乗りきればいいでしょうか?

八重樫 最初に言ったように、過度の期待をしないこと。若手選手の台頭のキッカケだと思うこと。苦しい戦いとなるのは間違いないけれど、ここをうまく乗りきることができれば、離脱選手たちが戻ってきた時には、さらに厚みを増した戦力になるんじゃないかな。

――先ほどから、八重樫さんの言葉にはあまり悲壮感はないですね(笑)。

八重樫 僕がそんなに心配していないのは、村上宗隆がいるからですよ。村上が元気でいる間は、他の選手たちは彼についていく。今は青木よりも、山田よりも、グラウンド上での実質的なリーダーは村上だと思います。打線で考えれば、村上にマークが集中する。村上との勝負を避けられる。そんな事態が起きているけれど、そこは何とか他の選手たちがカバーして、ひとつでも、ふたつでも白星を拾っていく。それで十分だと思います。

――八重樫さんの言葉を聞いていると、少し不安が払拭されます(笑)。

八重樫 この期間は、ある程度は勝敗に目をつぶりつつ、チャンスをもらった選手たちが経験を積むことで、少しでも今後の戦力となってもらう。個人的には、現状は手薄な左腕を補うべく、宮台康平の台頭に期待します! この機会に宮台が自信をつかめば、後半戦に向けての好材料となりますからね。そんな思いで見守りつつ、オールスターブレイクを上手に利用して調整をして、後半戦に臨む。短期的ではなく、長期的に見れば、そんなに心配することはないと思いますよ!