坂本花織、圧勝で全日本選手権連覇達成。「GPファイナルの失敗...の画像はこちら >>

全日本選手権のフリーでノーミスの演技を見せ、連覇を果たした坂本花織

 全日本選手権の女子は、北京五輪銅メダリスト、そして世界女王としての実力をいかんなく発揮した坂本花織の圧勝だった。ショートプログラム(SP)で77.79点の首位発進。
迎えたフリーでも、冒頭でダイナミックなダブルアクセル(2回転半ジャンプ)を跳ぶと一気にエンジン全開で、勢いとともにスピードに乗り、次々とキレのあるジャンプを見せた。

「今日は後半になってもスピードが落ちずに伸び伸びと滑れたので、今までで一番気持ちよく滑れたし、自信を持って滑れました。今季、やっとジャンプを揃えられたことが大きかったですし、今、自分ができるマックスな演技でしたけど、自分はもっとレベルアップできるんじゃないかなと思います」

 圧巻のノーミス演技を披露したフリーでは、SP同様に国際スケート連盟非公認ながら今季最高得点の155.26点をたたき出し、合計233.05点の高得点となった。総合2位の三原舞依とは13.12点差がついた。

「フリーの最後のポーズが終わった時は、もうきつくて、いつものようにガッツポーズをできる余裕がなかった。そこまで出しきれたので、今日は本当によかったかなと思います。

フリーで150点は超えたいな、超えないかなと思っていたので、超えてびっくりしました」

 この勝利で2年連続3度目の全日本タイトル獲得を成し遂げた坂本。北京五輪の代表切符がかかっていた昨年の大会よりも、シーズン前半戦で苦しんだ分、今年の大会での優勝は味わい深いものがあったようだ。

「昨年はオリンピックがかかっていたので、グランプリ(GP)シリーズからノーミスを続けて、全日本でもノーミスをして一発内定という大きな目標を成し遂げられた優勝でした。今年はそれに比べると、シーズンここまでの試合がよくなかったので、何としてでもここで切り替えないといけないという気持ちがあっての優勝なので、昨年と意味合いが全く違うなという感じです。GPファイナルの敗戦から、自分に打ち勝ったから、今回優勝できたと思います」

【GPファイナルの失敗が転機に】

 これまでのスケート人生で最高の成績を挙げた昨季、満足のいくシーズンを送ったことで、今季はモチベーション低下に悩まされた。これまでノーミス演技ができるまで徹底的に練習を繰り返してきたが、練習を途中で投げ出すことが多くなっていたという。

そのツケが今季前半戦の調子の浮き沈みの激しさに表れてしまった。

 自分の甘さを後悔する決定打となったのが、GPファイナルだ。ノーミス演技を見せたSPで1位となったものの、初制覇のチャンスが巡ってきたかと思われたフリーで、予想外のジャンプミスを連発。得点が伸びずにフリーは最下位で、総合5位に沈む天国と地獄を味わった。「こんな悔しさはもうこれきりにしたい」という、心の底からわき上がる強い思い。何をやるべきか、わかっていた。

ノーミス演技ができるまで、自信がつくような練習に取り組むことだ。

「今大会はGPファイナルから1週間しかなかったんですけど、ファイナルからすごくいい切り替えができて、今シーズンのなかで一番充実した練習ができたので、その成果を今大会で発揮できたので、ほっとしていますし、よかったなと思っています」

 中野園子コーチも、そんな坂本の変わりようについてこう話した。

「ファイナルのあの失敗があってこそ、(大会連覇ができた)この日があるんだと思います。あれから心を入れ替えてトレーニングも練習もかなり頑張りましたので、今があります。それでも、試合当日の朝練習ではノーミスまでいかなかったんですけど、本番にようやくたどり着いたという感じです。

 ファイナルまでの今シーズンは、しんどくなったらすぐに演技を止めてしまって、プログラムを半分ずつ練習していたのですが、全日本前の練習では最後までプログラムを通しで続けようとやっていたので、それからよくなってきたと思います。

GPファイナルの失敗がいろいろな意味でもっと頑張っていかなければという気持ちを生んだと思います」

【ジュニア勢の台頭も刺激に】

 フリーは「落ち着いた気持ちで、いい緊張感のなかだった」と言うが、演技中は終始、こわばった顔つきを見せながら滑っていたのが印象的だった。そのことについて問われた坂本は、苦笑いしながらこんな舞台裏を明かした。

「途中の3連続ジャンプにいく前に『だいぶ険しい顔をしているな』と思っていたんですけども、もうそこから修正がきかなくて......。ジャンプのことで頭がいっぱいになったら、顔がそっちのけになってしまった。険しい顔になっていたのは集中していたからだと思います」

 今回の全日本には、そんな坂本を脅かす多くのジュニア勢が登場した。表彰台の一角に食い込んだ総合3位の島田麻央、4位の中井亜実、そして5位の千葉百音といった逸材たちである。

島田と中井はジュニアGPファイナルに出場しており、島田はジュニアGPファイナル女王になるなど、注目の的になっている。坂本は彼女たちからも大いに刺激を受けているようだ。

「自分も10年前はこんな感じだったのかなと。今大会ではジュニアの子たちが下から追い上げてくる恐怖を感じて、焦りがすごかったんです。でも、やっぱり自分も10年前にしてきたことなので、当時、最前線にいた浅田真央ちゃんたちの世代もこういう気持ちで戦ってきたのかと、一緒とは言わないですけど、似たような感じになっているのかなと思います。

 いろいろなプレッシャーがあるなかで、年上の人たちはそれをひっくるめてすばらしい演技をずっとやり続けていた。

今、この年齢(22歳)になって初めてその難しさに気づくことができたし、この経験が嬉しいし、これからも大変なことだと思いますけど、この大変さを味わい続けていたいなと感じています。ジュニアが育っているということは日本の未来は明るいなと思います」

 やっと本来のノーミス演技を復活させた坂本は、全日本女王の座を守ったことで、来年3月に埼玉で行なわれる世界選手権への出場が決まった。

「全日本で勝つことができて、(練習から)やる気を出すためのいいきっかけになったので、このきっかけを無駄にしないように、来年以降の試合も頑張りたいなと思います。世界選手権は3月。まだまだ期間はあると言えばあるし、ないと言えばないので、追い込んで追い込んで、最高の準備をして世界選手権を迎えられるようにしたいなと思います」     

 世界選手権連覇という今季最大の目標をクリアすることができるか。新生・坂本の2023年に注目したい。