Sportiva注目若手アスリート「2023年の顔」
第3回:蟬川泰果(ゴルフ)

ゴルフ・蟬川泰果は日本男子ツアーの救世主となるか。超攻撃的ス...の画像はこちら >>
2023年にさらなる活躍が期待される若手アスリートたち。どんなプレーで魅了してくれるのか。
スポルティーバが注目する選手として紹介する。

 2022年秋、蟬川泰果がアマチュア選手でありながら日本オープンを制した。

 これは、95年前の第1回大会(1927年)で、アマチュアの赤星六郎が優勝して以来、2人目の快挙だった。もっとも、95年前の大会は参加選手が17名。そのうちプロゴルファーが5名だから、実質的には"初の快挙"と言ってもいいほどの価値がある。

 2022年の日本男子ゴルフ界において、紛れもなく衝撃的な出来事だった。

 その後、蟬川はプロに転向。4戦中2試合で8位という成績を残している。

 蟬川は、突然変異で日本オープンのタイトルを獲得したわけではない。まずは2022年6月の下部ツアー、ジャパンクリエイトチャレンジ in 福岡雷山で優勝。さらに9月には、レギュラーツアーのパナソニックオープンでも優勝した。

 レギュラーツアーでのアマチュア選手優勝は、史上6人目のこと。

この時点で、蟬川は世界アマチュアランキング1位にもなり、松山英樹、金谷拓実、中島啓太に継ぐ日本人4人目の快挙を果たした。

 そして10月、日本オープンの優勝だ。

 それも、ダイナミックなゲーム展開での勝利だった。3日目には2位の比嘉一貴に6打差ものリードを奪って、最終日へと向かっていく。

 迎えた最終日、結果的に2打差での優勝となったが、決して6打のリードを死守するプレー内容ではなかった。むしろ、果敢に攻めるべきところは怯まずに攻めていく、という姿勢を崩さなかった。

2位になった比嘉一貴が「う~ん......。やっぱり勇気なんですかねぇ」と唸ってしまうほどだ。

 蟬川のプレースタイルは、これまでの日本ではあまり見ることのないものだった。

 日本オープンは、屈指の超難度のコースセッティング。本来、丁寧に丁寧に守りのプレーを重視。ボギーを叩かないでパーを死守しながら、バーディーを狙っていくスタイルが主流だ。

だが、蟬川はそうではなく、積極的に冒険し、狙っていくスタイルだった。

 初日、「64」をマークして首位にたった時も、「勝ちにいくイメージでプレーしています。やるからには負けたくない。優勝が目標だけれど、(それに)とらわれすぎないで、一打一打をしっかりとやり続けていくゴルフですね」とコメント。イーブンで終えた2日目にしても、「確かに我慢の一日だったかなと思うんですけど、そのなかでも、後半いい流れがきたので、あと2、3個は(バーディーが)いけたかなと思うのが、正直な気持ちです」と、ポジティブな姿勢を崩さなかった。

 そして、6打差とリードした最終日も、「勝ちたいと思う以上に、いいプレーをしたいという気持ちが強くなりました。

ですから、トリプルボギーを叩いたことが、あまり(自らの)気持ちに干渉されずに回れました」と言った。

 トリプルボギーは、9番パー4での出来事。4番アイアンでティーショットを打ったあと、残り143ヤードの2打目をPWで打って、それがグリーン奥のラフにオーバーした。深いラフで、3打目はボールの下をくぐってしまった。それを、2回繰り返してのトリプルボギーだった。

 同9番ホールは、前日の3日目には1オンに挑戦し、成功したホールである。

その際も、「もちろん身内、お父さん、お母さんだったら、『セーフティでいいから』という気持ちになるかもしれないですけど、ギャラリーの方々の見方を考えると、昨日の(9番の)イーグルだったり、ああいった凄いプレーを見に来てくれていると思うので」という気持ちがあってのことだという。

 蟬川のポジティブなプレースタイルは、JGA(日本ゴルフ協会)ナショナルチームコーチのガレス・ジョーンズ氏の影響が強いと思う。

 ここ10年以上、日本のナショナルチームは、ジョーンズ氏の指導によってメキメキと成長。その成果は、プロツアーでも鮮明に表れている。勝みなみ畑岡奈紗、金谷拓実をはじめ、稲見萌寧、西村優菜、古江彩佳、中島啓太、桂川有人、久常涼......など、「黄金世代」と呼ばれる面々や、それに続いて台頭する若き女子プロ、さらに近年頭角を現わしている若手男子プロのほとんどが、ナショナルチーム出身者である。

 そのジョーンズ氏の教えは、第一にショートゲーム。練習の7割を占める。その他、ドライバーなどが3割という。

 そして、重要なのはメンタルだ。ジョーンズ氏は、世界のメジャー大会で活躍する世界トップクラスの選手たちを分析し、技量の豊富さだけでなく、マネジメントの旨さ、ゴルフ脳などを、しっかりとナショナルチームの選手たちに植えつけている。

 いわばメジャーで戦え、勝ち抜ける"新しい風景"を最初に選手たちに染み込ませて、そこから(新しい風景を得るために)足りない部分、何をすべきかといったことを懇切丁寧に指導するスタイルだ。その結果、選手たちは未知の"新しい風景"がイメージできているから、こういう技量、プレーができなければ勝てないという考え方が鮮明になる。

 蟬川が日本オープンでやってのけたことが、その典型的な成功例だった。

 以降、プロに転向し、これまでの東北福祉大ゴルフ部、ナショナルチームのメンバーという立場ではなくなった蟬川。今後はひとりのプロとして、その将来性は大いに期待できる。海外挑戦といった視野も広がっているはずだ。

「(ナショナルチームに入って)気持ちの部分だったり、レベルが格段に上がっているんですけど、一番(の成長)は考え方じゃないですかね。18ホールに向き合う姿勢っていうのが、『誰にも負けたくない』という気持ちが芽生えてきて。もともと気持ちでプレーするタイプなんですけど、本当にプロの人たちにも負けないぐらいの気持ちの強さが、この一年でついたかなと思います。

(プロになって目標は)4大メジャーを制覇することですね。マスターズ、全米オープン、全米プロ、全英オープン、その4つを制覇することが、僕の夢です。小学校4年生、5年生の頃からその夢を叶えたいと思っていて、小学校5年生の時にテレビの取材を受けたんですけど、(それ以降はその夢を)口に出したり、書いたりしています」

 蟬川の夢はどんどん広がる。しかし彼は、30歳までは日本中心で自らを育むと言っている。

「僕が小さい頃、ギャラリーとして(石川)遼くんだったり、松山(英樹)さんだったり、藤田(寛之)さんだったり、いろんな有名選手を見てきた。その当時は、今のギャラリーの倍ぐらいの人数がいて、そういう日本ツアーをずっと見てきたので、僕が日本ツアーで活躍することによって、そういったファンをまた増やしていきたいし、そういうファンのみなさんは僕のファンにもなってくれると思う。(海外に行くのは)それからでも、ぜんぜん遅くないと考えています。

 もちろん、それまでにスポットで海外挑戦はします。30歳までにすべての面で、海外で戦い抜けるという自分を身につけたいと思っています」

 2023年――日本ツアー、海外での躍動が期待される蟬川から目が離せない。

蟬川泰果(せみかわ・たいが)
2001年1月11日生まれ。兵庫県出身。身長175cm。血液型A。東北福祉大在学中。2022年シーズン、アマチュアながらパナソニックオープン優勝。さらに、日本オープンでも95年ぶり2人目となるアマチュア優勝を飾った。その後、プロに転向。2023年シーズンではその活躍が一段と期待されている。