3年目のDリーグは本当に盛り上がっているのか。創設者は「チケ...の画像はこちら >>

Dリーグ代表取締役COO神田勘太朗氏

神田勘太朗 インタビュー前編

【右肩上がりに成長】

 2021年1月に開幕した日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE(以下、Dリーグ)」は、2022年10月からサードシーズンに突入している。世界でも類を見ない、ダンスジャンルの垣根を越えたこのリーグを創設したのが、Dリーグの代表取締役COOカリスマカンタローこと、神田勘太朗氏だ。この十数年のダンスシーンをけん引してきた同氏は、3年目を迎えたDリーグをどのように感じているのだろうか。

「正直、2週間に1つの新作を作って披露するのは、かなり過酷なんです。そのなかでも全チームが自らの限界までクオリティを上げてきています。ジャッジ陣も『よくぞここまでのものを作り上げてくれた』と感じていますし、シーズンごとに、想像をはるかに超える作品を作ってくれています」

 Dリーグは現在12チームあり、全12ラウンドが開催されている。ラウンドごとに新作を披露していて、短い時には作品の創作期間がわずか2週間しかないこともある。既存の楽曲に振り付けするのではなく、オリジナル曲の制作も必要になるため、「過酷」というのも納得できる。

 そのダンサーの熱量が周囲に伝播したかのように、Dリーグは右肩上がりに成長しており、1年目の9チームから、今では12チームまで増えた。

トップパートナーにソフトバンク、タイトルスポンサーには第一生命がつき、チームを保有する企業には、エイベックス、KADOKAWA、コーセー、サイバーエージェント、セガサミーホールディングスなど錚々たる一流企業が名を連ねている。これはDリーグへの大きな期待の表れだと言え、それに応えるだけの効果も出てきている。

「昨対比でいうと、チケットの売り上げ、グッズの売り上げも伸びています。またアプリのダウンロード数も20万を超えていて、今シーズンも引き続き堅調に伸びていますし、有料会員も万を超えています。Dリーガーも最近では街で声を掛けられることが多くなってきたと聞きますし、Dリーガーになりたいという子は地方を含めてたくさん出てきています。これは今後大きな広がりを見せると思っています」

【ファン目線を考え販売後に座席変更も】

 ただすべてが順風満帆に進んでいるわけではない。「Dリーグはまだ完成されていない」と同氏も語るように、ルーティンでラウンドをこなしているだけではなく、大小さまざま生じる課題を解決している日々だ。

「もちろん開幕前にはサッカーの構造や、NBANFLなどから多くのことを学びましたが、なにせダンスのプロリーグは他に事例がないので、何を参考にすればいいのかと思って作ってきました。リソースが少なく、経験値も少ないなか、いろんな課題を解決しながらも、走らないといけない。それでも3年目になって、ようやく縦組織で横軸が連携するガバナンスが取れ始めています。

 それから通常ではありえないことですが、シーズン中にも関わらず、途中で席の配置を変えたんです。来場されたファンの方が、どの席だと満足度が高いかなどの反応を見て、席を変えるなどして改善を重ねています。ファンの方々にはご迷惑をおかけしてしまう点も多々ありますが、今は決め込むことではなく、一番の最善策は何だろうと考えつつ、次のシーズンはもっとよくなるように考えていかなければいけないと思っています」

 そしてこの3シーズン目には、想定どおりの大胆なルール改正も行なった。

これまで各チームがショーを披露するごとに採点をして順位を競っていたが、チーム対チームの対戦方式に変更。さらに前2シーズンで採用していた芸能関係者や他競技の元選手などによるエンターテイナージャッジを廃止し、ダンサージャッジだけにした。これにより序盤戦は順位に大きな変化が起きた。

「序盤は昨シーズンまで強かったチームが手堅く勝っていくんだろうなと予想していましたが、まさかのどんでん返しで、これまで結果が振るわなかったチームが大健闘しました。それは対戦形式になったことで、絶対王者や常勝チームに対して、他のチームが自分たちの最強のネタをぶつけてきていたからだと思います。

 ただラウンド5まで来ると、昨シーズンまで強かったチーム、『エイベックス ロイヤルブラッツ』や『セガサミー ルクス』などが、順調に勝ち始めてきました。

それは戦術や戦略をより練り直してきた結果かなと思います。ラウンド4からは客席からの声出し・歓声が可能になったことで、セガサミー ルクスは、途中で拍手をあおり、会場全体をのせることを戦略的に狙っていましたね。

 サッカーなどの他のスポーツでも、対戦チームを見て、戦術・戦略を練ってくるのと同じで、相手に対抗する作品を作ってきていますし、さらに観客も意識している。今後はその戦術・戦略がカギを握ってくるのかなと思います」

 そしてその戦術・戦略が活きるチーム対抗戦だけでなく、より個々のダンススキルに焦点をあてたバトルも用意。ラウンド6では通常のチーム対チームの対戦方式ではなく、「サイファーラウンド」と銘打ち、各チームの代表者(1~3人)が円を作るようにして並び、順番にその中心で持ち前のスキルを披露した。

 Dリーグでは、これらの戦術・戦略、スキルの部分を含め、ダンスの深淵をより広く知ってもらうために、5人いるジャッジが対戦カードごとに、どこで優劣が生まれていたかを言語化し、それを動画で公開している。

これはこれまで感覚で見ていたファンにとって、より深くダンスを知ることができる絶好の素材だ。同氏はその狙いを「万人には届かなくても、千人のコアファンに届けて、マニアを広げていきたい」と語っている。

 さらに新たな試みとして、ダンス映像や舞台裏映像、3DバトルのARなどをNFTとして販売。「まずはジャプを打ってみた」というように実験的な意味合いが強いが、次々に新しいアイデアを試していくところが、発展途上のDリーグらしい。

【世界進出にも手ごたえ】

 そして今後についても、さらに大きな構想を抱いている。

「僕たちが描いているのは、Dリーグを輸出して、世界中にDリーグが発展していくことなんです。

それができれば、新しい産業構造になっていくと思いますので、アジア圏のプロリーグのチャンピオンズリーグ、ヨーロッパ圏でのDリーグやチャンピオンズリーグも可能になっていくでしょう」

 日本発のものを海外に展開していくことは、言語や商慣習をはじめ相当なハードルが存在するが、同氏はダンスの持つポテンシャルがあれば、それは十分に可能だと考えている。

「ダンスの持つ特徴として、ノンバーバル(非言語)であり、ファッションと音楽が付随していることが挙げられます。かっこいいダンスを見れば、そのファッションをまねたくなるだろうし、音楽にも興味が湧き、何度も聞きたくなるはずです。まねたくなる、見たくなる、聞きたくなるという側面は、他のプロスポーツよりも特筆すべき点が多いんです。

 それに今の世界で重要視されている『ジェンダー平等の実現』の側面に立っても、ダンスは男女だけでなくLGBTQ+も含めて楽しめますし、実際にDリーグには、混成チームがいくつもあります。これは他にない魅力で、これからの時代にすごくあっていると思っています」

 東京五輪で元男性重量挙げ選手が女性として出場したことが大きな話題となるなど、既存のスポーツ界ではどのように男女を区別するか長年議論されており、いまだ賛否両論が出ている状態だ。その点、ダンスにその垣根はない。男性も女性もLGBTQ+も、それぞれがダンスで表現すればいい。

 SDGsにも掲げられている課題の解決に向けても有効なダンス。世界を視野に入れた日本発のDリーグは、底知れないポテンシャルを持っていると言えるのではないだろうか。

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【Profile】
神田勘太朗(カリスマカンタロー)
1979年12月13日生まれ、長崎県出身。起業家、ダンサー、ダンスクリエイティブディレクター。明治大学法学部卒業後の2004年に有限会社アノマリー(現・株式会社アノマリー)を設立し、2005年にストリートダンスイベント「DANCE@LIVE」(現マイナビDANCEALIVE)をスタート。2020年に日本発のプロダンスリーグ「D.LEAGUE」を創設する。株式会社アノマリー代表取締役CEO、株式会社Dリーグ代表取締役COO、一般社団法人日本国際ダンス連盟FIDA JAPAN会長