愛しているJ! Jリーグ2023開幕特集
ヴィッセル神戸/アンドレス・イニエスタインタビュー

イニエスタにとって、Jラストイヤーになるのか。「自身のベスト...の画像はこちら >>

タイトル奪取への思いを語るイニエスタ

 昨シーズンはリハビリからのスタートを余儀なくされたヴィッセル神戸のアンドレス・イニエスタだが、今シーズンは始動日からチームとともにコンディションを整えつつ、沖縄キャンプに突入した。(インタビューは1月下旬に実施)

「例年どおりプレシーズンは、フィジカルをしっかり作り上げることと、チームとしての感覚、結束力を高めることが目的ですが、沖縄に入ってからもすごくいいトレーニングができています。

 チームとしても集中してこの時間を過ごせていますし、新加入選手を含め、ハードなトレーニングの多いこの期間をみんなで乗り越えていこうという雰囲気もあります。このままみんなで、いい準備を続けて開幕に向かいたいと思っています」

 オフ期間にはワールドカップ・カタール大会を現地で観戦したが、それも改めてサッカーの楽しさを思い起こす特別な時間になったようだ。

「僕にとってのワールドカップは、これまで選手としてプレーするものでしたが、今回初めて選手以外の目線で大会を観戦し、違う楽しさを味わうことができました。僕の子どもたちもサッカーが大好きなので、一緒にスタンドからワールドカップを楽しめたのも新鮮な時間でした。

 大会を通しては、わりとディフェンシブな戦い方を敷いて、カウンターアタックを狙うチームが多かったなという印象が残りました。もちろん、ボールを保持して戦うチームもあったように、国ごとの戦い方、戦略があって当然ですし、それもサッカーの面白さだと思うので、僕自身は全体的にとてもいいワールドカップだったと感じています。

特に決勝戦は、本当にすばらしい試合でした。

 また、このグループ分けが決まった時から母国スペインと、日本が同組に入ったことを受け、特別な気持ちで対戦を見ることになるだろうと思っていましたが、実際にそのとおりになりました。結果として、両方が次のステージに進めたのはよかったですが、ともにベスト16で敗戦してしまったのは残念でした」

 キャプテンを預かって5シーズン目。チームを牽引する立場としての自覚もあって、このオフシーズンもいろんな働きかけを続けてきた。

 新加入選手のジェアン・パトリッキ(セレッソ大阪→)は、イニエスタについて「プレーの質もさることながら、チーム全体を見渡して気遣いをすることがすごく多い選手だということに驚いています」と話していたが、実際、いろんな選手とコミュニケーションを図っていると聞く。

「プレシーズンの今の時期は、『(新加入の選手が)自分が新しいチームに移籍をした時にどんなふうに迎え入れてもらいたいか』を常に意識して過ごしています。

簡単に言うと、新たに加入した選手がチームの一員であると感じられるような環境、雰囲気作りです。

 その点に関しては、僕に限らず、長くこのチームに在籍している選手を中心に今の時間を過ごせているように感じています。

 選手ごとに性格や個性は違って当然ですが、それぞれができるだけ早くチームにフィットし、お互いを仲間であると信頼すること。互いに性格やプレースタイルを学び合って、関係性を築いていくこと。そして、全員がいてこその"チーム"だと感じられる雰囲気を作り上げることで、結束を強め、ヴィッセルが目指すべき場所に向かいたいと思います」

 そのためには、昨年、残留争いに巻き込まれた反省をもとに一切の驕りを排除して戦わなければいけないと語気を強める。

「言うまでもなく、目標は"タイトル"ですが、僕自身はスタートから『J1で優勝するためにスタートをきろう』というマインドで臨むべきではないと考えています。

 振り返れば、昨シーズンの序盤は一昨年、クラブ史上最高順位となる3位という結果を残したことが少しチームの"驕り"になっていた気がしています。AFCチャンピオンズリーグの出場権獲得という目標は達成できたとはいえ、"タイトル"を手にしたわけではないという事実を、どこかで見ないようにしていたようにも感じました。

 ですが、長いシーズンを勝ち抜いてタイトルに辿り着くには、そうした驕りは一切排除しなければいけません。

 ましてや、昨年はまったくもって理想とかけ離れたシーズンになってしまったことからも、全員がその事実を真摯に受け止め、目の前の試合に向けて100%の準備をし、すべての力を注いで戦う姿を開幕戦から表現しなければいけないと思います(※開幕戦はアビスパ福岡に1ー0で勝利。イニエスタは欠場)。タイトルというのは、謙虚に、ひとつずつ勝利を積み重ねた先にしか見えてこないものだからです」

 また、度重なる監督交代もあって、チームとしての戦術、戦い方が定まらなかった経験を踏まえ、チームコンセプトの明確化、徹底も必要だと言葉を続けた。

「ワールドカップの話でも触れたように、チームのプレースタイル、コンセプト、考え方は監督によって違って当然で、それを決めるのは監督の仕事なので、細かな戦術について僕が意見することは差し控えます。ただ、僕の過去の経験から、チームが結果を求めるには、チームとしてのコンセプトと、それに基づくプレースタイル、戦い方を明確にすることが重要だという考えは持ち合わせています。

 実際、昨年のJリーグ王者である横浜F・マリノスや常に上位を争う川崎フロンターレは、長年に渡って同じシステムで戦い続けていますし、すべての選手が試合のなかで何をすべきか、チームのために自分がどんな力を発揮するべきかを理解していて、それが彼らの強さになっています。仮にシーズン中に選手の入れ替わりがあったとしても、常にピッチに立つ11人が自分に与えられた役割を90分間、あるいはシーズンを通しても安定的に表現しています。

 そのことを、ヴィッセルも参考にすべきだと思っています。

 正直、沖縄キャンプの前半を過ごしている今の時期は、まだ吉田(孝行)監督が今シーズン、どういうチームを作ろうと考えているのか、細部までは伝えられていません。

ですが、いずれにしても昨年とはメンバーも入れ替わり、選手の個性、特徴も違う今シーズンは、それを踏まえた、それぞれのよさがスムーズに発揮されるプレースタイル、システムを見つけていくことが、タイトルに近づく第一歩になると考えています」

 今シーズンのスタートにあたり、永井秀樹スポーツダイレクターは昨年の"吉田ヴィッセル"の戦いを踏まえて、失点の大幅な減少を評価した一方で、得点力アップを課題に挙げている。イニエスタ自身は、攻撃にどう貢献していこうと考えているのか。

「僕がどのようなシチュエーション、プレーで貢献できるのかを判断するのは監督なので、それは監督に聞いてもらうほうがいい質問だと思います(笑)。ただ、僕自身に言えることがあるとするならば、システムがどうであれ、自分が長年にわたって構築してきたプレースタイルやプレーヤーとしての持ち味は変わらないし、それを常にヴィッセルのために余すことなく発揮したいと考えているということです」

 2021年5月には、ヴィッセルとの2年間の契約延長を発表。今後も契約が更新されなければ、今シーズンはヴィッセルでのラストシーズンとなる。取材の最後には、そのことを含め、自身のキャリアについての考えも聞かせてくれた。

「僕がキャリアの終盤とも言える時期を戦っているのは間違いないですが、今はとにかく新しいシーズンをいい状態で迎えることだけに集中して毎日を過ごしています。それはJ1が開幕してからも同じで、僕自身は常に目の前の試合のことだけを考えて準備をし、戦っていきたいと考えています。

 そのなかで、自分のコンディションがどういう状態なのか。ケガをすることなく戦えるのか。毎試合、このふたつと僕自身がしっかりと向き合っていくことで、キャリアを含め、自分がどういう方向に向かうべきかが見えてくるんじゃないかと思っています」

 J1でのプレーは、今年で6シーズン目。「自身のベストを、ヴィッセルのベストを、ピッチで表現できるシーズンにしたい」という決意が、プレーでいかに表現されるのか。イニエスタの2023シーズンが始まる。

アンドレス・イニエスタ
1984年5月11日生まれ。スペイン出身。バルセロナのアカデミー育ち。2002年にトップデビューを果たし、以来、チームの中心選手として活躍。スペイン、欧州の数々のタイトル獲得に貢献した。同時にスペイン代表でも奮闘し、EURO2008、2010年W杯、EURO2012で栄冠を手にする。2018年、ヴィッセル神戸に移籍。Jリーグでワールドクラスのプレーを披露し、多くのファンを魅了。一緒にピッチに立つ敵、味方の選手たちにも多大な影響を与えている。