昨年夏の終わり、学生球界屈指の飛ばし屋と言われた中京大・澤井廉(外野手/ヤクルト3位指名)の取材にグラウンドにうかがった時のことだ。ある球団のスカウトが調査書を受け取りに来ていて、軽くあいさつを交わしたあと、こう言った。
「澤井くんも候補ですけど、中京大には三浦くんもいますから。彼にも7、8球団来ているらしいですよ」
そう言ってから「三浦くんのことは書いちゃダメですよ」とクギを刺されてしまった。スカウトの言葉を聞いて「やっぱりそうだったか......」と、納得したのを覚えている。
昨年のドラフトで西武から育成3位で指名された三浦大輝
【県下有数の進学校出身】
中京大の三浦大輝のピッチングは、リーグ戦で二度ほど見ていた。どちらも2~3イニングのリリーフ登板だったが、どっしりと発達した足腰がユニフォームを内側から押し返しているように見えて、投げ下ろすというよりは押し出すような投球フォームで、見るからに"パワーピッチャー"の雰囲気を漂わせていた。
観戦した試合では、アベレージは145キロ前後だったが、指にかかった時のストレートはうなりを上げ、捕手のミットに突き刺さっていた。
最近よく言われている"ホップ成分"旺盛な球質。
報道では「最速150キロ」と言われていたが、たしかに150キロはあっさりクリアしていても驚かないくらいの馬力はあった。体重も入学時は74キロだったそうだが、地道な努力を重ねて4年間で20キロほど増やしたという。
「時習館(愛知)という県下有数の進学校から来た学生だから、てっきり教職を取って教員志望だと思っていたらプロ一本だって言うからびっくりしたんですけど......。ほんとそのとおり、野球一本で努力して、なかなかたいしたもんですよ」
4年間の努力を見続けてきた関係者は、周りに流されない自立した練習ぶりを認めていた。投げるパワーがあって、努力できる強いメンタルと高い思考力がある。
ある球団のスカウトが挙げた理由は「コントロール」だ。球数の多さとリーグ戦での四球の多さだった。
たしかにリーグ戦の投球を見ても、高めに浮いてボール球になる傾向はあった。あとから聞いたストレートの回転数は、最大で2800回転に達するという。ちなみに、昨年の都市対抗での東芝・吉村貢司郎(ヤクルト1位)はおよそ2400回転と言うから、三浦のホップ成分がいかにすごい数字かがわかる。
ただ跳ね上がろうとする球質のため、ゾーンはどうしても高くなってしまう。そこが懸念されたのかもしれない。しかし三浦の場合は、タイプとして"そこ"で勝負できるタイプだと思う。つまり、イメージは藤川球児だ。高めに跳ね上がるような快速球を武器のひとつにして、高低で勝負する。
リーグ戦で相手するバッターは、三浦をリーグ屈指の剛腕だとわかっているため、高めは絶対に振ってこない。
【先輩・水上由伸に近い球筋】
西武の先輩投手でいえば、昨シーズン、リリーフとして大奮闘し、新人王にも輝いた水上由伸に近い球筋だ。
水上が、時計の文字盤でいう"12時"あたりから投げ下ろしてくるのに対し、三浦は高校2年まで捕手をしていた名残りなのか、腕の位置はボール2つ、3つ分ほど低い。角度はちょっと違うが、快速球のホップ成分はまったく大差ない。
昨年秋のドラフト前、前述した吉村をはじめ、白鴎大の曽谷龍平(オリックス1位)、専修大の菊地吏玖(ロッテ1位)、富士大の金村尚真(日本ハム2位)といった快腕、剛腕のボールを間近で見る機会があった。
どれもこれも顔をそむけたくなるような猛烈な勢いのストレートだったが、ネット裏の記者席から見た三浦のボールも、彼らにまったくひけをとらない。
「それだけのボールを投げるヤツですからね。おかげさまで社会人からもたくさん話をいただいたんですけど、本人がとにかくプロ一本ですから。『プロ待ちでも......』っていうチームもあったんですけど、お断りすることで、自分にムチを入れるっていうんですかね。そこまでの決心でプロを目指していたヤツですから」
中京大の半田卓也監督も感心するほどの心意気。そのメンタルもきっと心強い武器になっていくはずだ。
取材時に中京大のグラウンドで会ったスカウトの方に、ドラフトのあと球場で話す機会があった。
「三浦くん、ほしかったです。リストにも最後まで載せていたんですけど、指名する前に投手の予定数が埋まってしまって。西武に入って、ウチが痛い目に遭わなきゃいいんですけどね」
先述した水上をはじめ、本田圭佑、森脇亮介......西武のリリーフ陣に鳴り物入りで入団してきた投手はいない。今年から先発に転向する平良海馬だってそうだ。
その一角に育成入団の三浦が食い込んでくるのはいつのことだろうか。いずれにしてもファンの方々には、恐ろしいボールを投げる剛腕が西武の投手陣に加わったということは覚えておいてほしい。