韓国の野球に以前のような脅威を感じなくなった。今回の第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)も、3大会連続で1次ラウンド敗退。

オーストラリアに7対8、日本に至っては4対13のあわやコールド負けという始末だった。

韓国野球のリアル「護身と競争のない世界」日本の宿敵はなぜ凋落...の画像はこちら >>

WBCで3大会続けて1次リーグ敗退となった韓国

【韓国野球の年俸高騰】

 それにしても、なぜこのような状況となったのか──。その答えは、韓国の初戦となるオーストラリアの試合前に見てとれた。選手紹介でベンチから飛び出し、ホーム付近に並んでいく選手たち。その彼らの着ているユニフォームが、明らかにだぶついていた。とくに臀部あたりに躍動する筋肉がまるでない。

「相変わらず練習していないんだな」

 そう思わずにはいられなかった。

 韓国プロ野球がつまらなくなった。そう思うようになって、どれくらい経つだろう。私見を許してもらえるなら、韓国プロ野球のピークは、北京五輪で金メダルを獲った2008年から、第2回WBCで日本と覇権を争い、準優勝した2009年頃だと思っている。

 当時の選手たちは、心技体すべてにアグレッシブだった。ヤンチャな選手も多かったが、その分、野球に対しても熱心だった。今の選手が決して怠慢とは言わない。

だが、明らかに当時と今とでは、環境が違いすぎる。

 近年、韓国プロ野球界の年俸はうなぎのぼりだ。たとえば、日本戦に先発したキム・グァンヒョンの今季年俸は、10億ウォン(約1億円)である。さらに昨年の二冠王(首位打者、打点王)、イ・ジョンフは11億ウォン(約1億1千万円)など、トップクラスの選手は軒並み10億ウォン以上か、それに近い金額を得ている。

 かつて韓国プロ野球では、年俸1億ウォン(約1千万円)になると一流選手の証だと言われていた。それが今や10倍である。

メジャーは今も憧れの地であるため別として、それだけの年俸がもらえるなら、わざわざ日本に来てプレーする必要はなくなった。

 そうなれば、必然的に我が身を守るようになる。無理して故障のリスクをとるより、無難に過ごすことを最優先に考える。まして韓国はアマチュアの選手層が薄いため、一度レギュラーを確保すれば数年は安泰だ。護身と競争のない世界──これこそ韓国野球のリアルであり、凋落した大きな理由である。

【練習しない悪しき習慣】

 そしてもうひとつ、最も深刻な問題は練習をしなくなったことだ。前述したように、故障を恐れるのも一因だが、「練習しないこと」が正しく、コーチ(とくにトレーニングコーチ)や球団フロントも「無理をするな」と選手を甘やかすようになってしまった。

 契機は2015年前後。ネクセン・ヒーローズ(現キウム・ヒーローズ)というチームが、「練習しないこと」をモットーに掲げ、チームをつくり上げた時期があった。「トレーニングは自主性に任せ、選手を追い込まず、むしろ休ませてシーズンを乗りきる」と。優勝こそなかったものの、低迷していたチームはAクラスに食い込み、ちょっとした"ブーム"を起こした。

 もっとも、当時のネクセンの主力は球界を代表する顔ぶれが並び、外国人選手も20勝するほどの投手がいたりで、練習をしなくても戦力は整っていた。ところがネクセンの大躍進で、ほかのチームも真似をし始めたのだ。

 やがて「猛練習は過去の遺物」となり、「いかに練習させないこと」が主流となる。「メジャーは猛練習などしない」「メジャーは合理性を重んじる」といった勘違いがまかり通るようになってしまった。

 ある韓国の球界関係者は言う。

「アスリートというのは、どんな競技であっても、ある時期、ある程度は自分を追い込むような練習は必要です。ところが韓国では、追い込みどころか通常のキャンプやシーズンの練習も軽めにやるようになってしまったんです。それではシーズンを通してプレーする筋力も体力もつかない」

 ケガをしないためのトレーニングという発想もなかった。

それでは伸びるものも伸びない。打者は飛距離が伸びず、投手なら球速はもちろん、安定した制球力も身につかなくなった。さらに練習不足は、皮肉にもケガを誘発させる原因となった。

 もちろん、この現状に警鐘を鳴らす者はいた。しかし球団は、大金を投じている選手のケガを恐れ、耳障りな声は聞こえないふりをした。コーチにしても、心ある者はわだかまりを抱きつつも、文句を言えばクビになるため口は出せない。気がつけば"イエスマン"しかいなくなっていた。

 そうした悪循環のなか、韓国野球のレベルは徐々に低下していった。

【韓国野球の復権はあるか】

 それでも意地はある。WBCでの日韓戦で先発したキム・グァンヒョンは140キロ台後半のストレートと落ちるスライダーを巧みに使って2回までに5奪三振。3回表には味方がダルビッシュ有から3点を奪い、主導権を握ったかと思った。しかし3回裏、キム・グァンヒョンは突如崩れた。ラーズ・ヌートバー、近藤健介らの長短打などで一気に4点を奪われ逆転。

 じつは、キム・グァンヒョンが崩れたのには理由があった。3回の韓国の攻撃は、あわや打者一巡の長いものとなった。この間、ただ戦況を見つめていたキム・グァンヒョンは体を冷やしてしまったのだ。関係者が重い口を開く。

「あの攻撃時、誰かがキム・グァンヒョンに『体を冷やすな』『暖めておけ』と助言していたら......」

 そのキム・グァンヒョンだが、日本戦の先発は、前日のオーストラリア戦に敗れたあとに告げられた。そんな突然の変更を強いられたのは、監督が期待していた投手のコンディションが上がらなかったためだ。

 2月中旬から行なっていたアリゾナでの直前合宿から、ボールの走らない投手が多かった。時間が経てば状況が変わってくると期待したが、来日しても調子は上がらない。結果、頼れるのは34歳のベテラン左腕だけだった。

 いま韓国ではバッシングとともに、多くの検証記事があふれている。なかには「韓国野球復活の手段は......」といったものもある。こうした批判に対し、一時は反省するが、結局は何も変わらず......を繰り返してきた。今回も1次リーグ敗退という現実を、どこまで重く受け止めているかはわからない。

 韓国が再び日本の宿敵として立ちはだかる日はやってくるのだろうか。もはや、ライバルの背中さえ見えないところまできてしまった。