町野修斗(湘南ベルマーレ)インタビュー前編

 湘南ベルマーレのFW町野修斗は、4年後のW杯に向けて新たなスタートを切った日本代表に招集され、3月28日のコロンビア戦では先発出場した。

 カタールW杯に臨む日本代表に選ばれながらも、ピッチに立つことができなかった悔しさをどのように受け止めたのか──。

エースストライカーとして期待される湘南での日々、そして次のW杯への思いを、日本代表の活動直前に聞いた。

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湘南・町野修斗がカタールW杯でピッチに立てなかった悔しさ「監...の画像はこちら >>

町野修斗にカタールW杯で得た経験を聞いた

── 2021年9月から山口智監督がチームを率いて3年目になる今季、湘南ベルマーレは改めてどこにテーマを置き、スタートしたのでしょうか?

「シーズン最初のミーティングでは『勝つチーム』というところに、よりフォーカスして臨んでいこうという話がありました。試合に勝つためには、やはりゴールを取る必要があるので、チームとして前への意識やゴールへの意識を高く持ち、守備に回っている時も攻撃のことを意識しながらプレーしていこうということは、常に監督から言われています」

── そのなかでFWである町野選手に求められている役割は何でしょうか?

「まず、前線からの守備では、2枚のFWがスイッチを入れる役割を求められています。攻撃では前線で起点になること。それと、やはりストライカーなのでゴールは一番、求められているところだと思っています」

── ゴールという視点で見ると、昨季はJ1で13ゴールを記録しました。初めてふたケタ得点という結果を残したことで、自分のプレーに変化はありますか?

「カタールで行なわれたW杯では試合に出場できませんでしたけど、メンバー入りすることができました。

そうした実績もあり、周りからは得点して当たり前、ミスをしないのが当たり前という見られ方をしているように感じています。

 そこへのプレッシャーはありますが、今はその責任をいい方向に変えていくことができています。今季はここまで(第5節を終えて)1得点2アシストと、決して満足のいく数字は残せていないですが、引き続きゴールを決めることに注力していきたいと思っています」

── 自身の口からW杯という言葉が出たこともあり、日本代表についても聞かせてください。初招集は昨年7月のE-1サッカー選手権2022でした。日本代表に選ばれたことで、さらに成長する契機になったのではないでしょうか?

「まずJリーグでトップレベルにある選手たちとプレーして感じたのは、当たり前ですが、みんなうまくて強い、ということ。そして、なによりもサッカーに対する考え方や姿勢、試合への準備に至るまで、すべてにおいて一流ということでした。

 自分も一流と言われる輪のなかに加わっていきたいですし、そのためには、よりベルマーレでの練習や取り組みが大事だと実感しました。日本代表に選ばれたことで、ファン・サポーターも日本代表の選手として見てくれる。多少の違いなのかもしれませんが、見られているという意識が自分のパフォーマンスや責任感につながったように思います」

── カタールW杯も含め、その後、ヨーロッパでプレーしている選手たちとトレーニングをともにして感じたことを教えてください。

「プレースピードの速さ、球際へのこだわりや強さは、また一段、レベルが違いました。特に遠藤航選手(シュツットガルト)は『デュエル王』と言われているように、球際の強さに驚かされました。

 ほかの選手たちもみな、ボールをキープするというよりも、ボールを失わない能力が高かった。

直前で判断を変える作業やパスコースがない時には、自分の身体を使って相手のプレスを回避する、もしくは守るという細かな技術にも長けているように感じました」

── 直前で判断を変えるプレーこそが、トップレベルの試合になればなるほど差を生むように思います。町野選手自身もプレーをキャンセルしたり、咄嗟に違う選択肢を選んだりすることができるのでは?

「自分はまだまだだと思っています。調子がいい時はできるんですよね。コンディションがよければ、相手を見てプレーすることもできているし、ボールコントロールのフィーリングもいい。

 そういう時は、いい位置にボールを置くことができるので、顔を上げてプレーすることもできています。でも、それが常にできているかと言ったら、決してそうではないと思うので、僕も常にそれができるレベルに到達したいなと思っています」

── 4年後に向けてスタートした日本代代表のメンバー発表会見で、森保一監督は「W杯では試合に出場できなかったが、日々の練習でも自分が成長するために頑張っていたところを見てきた」と語っていました。

実際、町野選手にとって、カタールW杯はどのような財産として残っていますか?

「ピッチレベルで世界基準を知ることはできませんでしたが、間近で見て、体感することによって、自分自身の基準が確実に上がりました。僕もこのレベルにならなければいけないと思わせてくれるようなチームメイトや対戦相手がたくさんいました。すべては今後、自分が活躍してからですけど、『あの時、W杯のメンバーに選ばれてよかった』と言えるような未来にしたいです」

── 具体的に間近で見て、感じたことがあれば教えてください。

「フィジカルの強さは目を引きました。あとは、簡単に......というと語弊があるかもしれませんが、たやすくひとりで打開したり、たやすく局面を変えてゴールに迫ることのできる選手が、ドイツやスペインにはたくさんいました。それを見て、僕もひとりで局面を変えられるような力を養いたいと、なおさら思うようになりました」

── カタールW杯は、優勝したアルゼンチン代表のリオネル・メッシしかり、準優勝したフランス代表のキリアン・エムバペしかり、チームが苦しい時に個の力で打開してくれる選手がいるチームが勝ち進みました。

「彼らの個の能力はやっぱりすごかったですよね。対戦したチームから名前を挙げれば、ドイツ代表のジャマル・ムシアラ選手(バイエルン)からも同様のすごさを感じました」

── 世界基準を目の当たりにした一方で、カタールW杯は悔しさも残ったのではないでしょうか?

「そうですね。選手である以上、やっぱり試合に出てナンボですし、あんなに注目度が高く、スタジアムにもたくさんの観客が来てくれるなか、日本を代表して戦える最高の舞台だったので、試合に出たかったです。

 ただ、僕はW杯最終予選も戦っていなければ、常に日本代表に選ばれていた選手ではなかったので、監督をはじめ、周りの選手たちからの信頼感も勝ち得ていなかったと思っています。それもあって、メンバーには選ばれはしましたけど、試合に出場するのは難しいのではないかという考えも多少、頭のなかにはありました。

 次のW杯では日本代表に定着し、監督や選手からの信頼感を得て、自分が試合に出られるような大会にして、いまだ越えられていないベスト8入りの壁を越えたいです」

── 大会後、森保監督からかけられた言葉について、覚えている範囲で教えてください。

「率直に『使ってやれなくて申し訳なかった』と、言ってもらいました。そこは僕自身の力不足もありましたから。あとは、『今後も見ているから、これからも頑張ってくれ』という話をしてくれました」

── 4年後のW杯に向けてスタートした日本代表に選ばれたのは、Jリーグでのプレーはもちろん、大会期間中の姿勢も含めて森保監督が見ていたことがつながっていたように思います。

川島永嗣選手(ストラスブール)や柴崎岳選手(レガネス)、シュミット・ダニエル選手(シント・トロイデン)といった、僕と同じように試合に出られなかった年上の選手たちは、率先して100%の力で日々の練習に取り組んでいました。

 僕自身も、そうした姿は見せなければいけないと思っていましたし、チームのためにできることは、カタールに来たからには何でもやろうと思っていました。でも、実際にそれをやりきれたのは、今、名前を挙げた先輩たちのおかげだったと思っています」

── 昨年はカタールW杯が、自身にとってもシーズン最後の活動でした。悔しさもあっただけに、今シーズンにかける思いも強かったのではないでしょうか?

湘南・町野修斗がカタールW杯でピッチに立てなかった悔しさ「監督や周りの選手たちから信頼感も勝ち得ていなかった」
「W杯が終わって最初のシーズンになるので、周りから余計に注目されると思いますし、期待度も高いと思っていたので、大事なシーズンになると考えながらシーズンインしました。

 W杯前のアメリカ戦に出場して、フィジカルの部分には特に差を感じていました。それもあって改めて、強くなろうと考えました。Jリーグでは余裕を持ってやれていれば、シュートだけでなく、いろいろなプレーができるタイプだと思っているので。

 ただ、ストライカーとして一番はゴールを決めることなので、いろいろなことをやろうとしすぎて悪循環にならないように、力の使いどころは考えなければいけないなと、シーズンが始まった今、改めて思っています」

◆町野修斗・後編>>「這い上がってやる」精神でJ3→J1→日本代表へ


【profile】
町野修斗(まちの・しゅうと)
1999年9月30日生まれ、三重県伊賀市出身。大阪・履正社高3年の時に横浜F・マリノスの練習に参加し、2018年に正式加入する。2019年には出場機会を求めてギラヴァンツ北九州へ期限付き移籍後、翌年に完全移籍。2021年から湘南ベルマーレの一員となる。2022年7月の香港戦で日本代表デビュー初ゴールを記録し、カタールW杯にはケガで出場を辞退した中山雄太に代わって代表メンバーに選ばれた。ポジション=FW。身長185cm、体重80kg。