新連載 松尾汐恩~Catch The New Era 第1回

 走攻守を兼ね揃えた、新しい時代のキャッチャーへ──横浜DeNAベイスターズのドラフト1位ルーキーである松尾汐恩は、現在ファームで汗と泥にまみれ躍動している。

「だいぶ環境にも慣れましたし、自分としてはうまくいくこといかないこと、いろいろと取り組みながら着々と成長できていると思っています」

 冷静な口調で、自信漂うたたずまい。

まだ18歳だが、大器であることを予感させる。

DeNAのドラ1ルーキー・松尾汐恩の大胆不敵「プロのボールに...の画像はこちら >>

横浜DeNAベイスターズのドラフト1位ルーキー・松尾汐恩

【プロ初のキャンプ】

 春季キャンプでは、主力が多く顔を揃えた宜野湾キャンプに、高卒ルーキーとしてただひとり参加した。右も左もわからない状況ではあったが、必死に食らいつき最後まで完走した。

「ゲームにも出させていただいて、試合のつくり方や、いろんな選手と接することで学ぶことも多く充実した日々を過ごすことができました。とくに力を入れたのはコミュニケーションを積極的にとることですね。自分としては、いい雰囲気をつくり上げることができたのかなと思っています」

 オープン戦に参加するなどトップクラスの野球を肌で感じた松尾は、3月6日にファームへと合流する。イースタン・リーグの試合に出場しながらキャンプで学び取り組んできたキャッチャーとしてのスキルやバッティングをさらに高める作業に取り組んでいる。

 1月に入寮してから約3カ月半、松尾がプロとアマチュアの差として一番感じているところはどこなのだろうか。

「もちろん全体的なレベルは上がっているのですが、やっぱりピッチャーのボールの質ですね。とくに真っすぐには強さを感じますし、キャッチングするうえで、伸びやキレ、その重さに苦労した部分はありました」

 松尾がキャッチャーになったのは、大阪桐蔭高1年の秋からだ。経験不足ゆえ課題は多いが、とくにキャッチャーの基本中の基本であるキャッチングの面でさらなる成長が必要だと感じている。

「学生時代と同じようなタイミングで捕ってしまうと、ボールに力があるので刺されてしまうんです。タイミングの取り方などファームの鶴岡(一成)バッテリーコーチに指導してもらっています。

まだまだ自分はタイミングの取り方が大きかったりするので......」

 ここまでファームではキャッチャーとして濵口遥大をはじめ東克樹、今永昇太、大貫晋一といった一軍ローテーションのピッチャーのボールを受けてきたが、一線級の投手たちとバッテリーを組んで何を感じたのだろうか。

「素直にすごいなと思いました。ボールの質はもちろん、たとえばマウンドさばきであったり、一つひとつの間(ま)の取り方であったり、細かいところまで目が行き届いているなって」

【濵口遥大も認めた捕手能力】

 3月28日の日本ハム戦では、濵口と組み5回、被安打2、無失点で収め、いいリードを見せた。

「濵口さんとは話し合って、とにかく真っすぐで押せる場面は押していこうって。あとはいかに変化球を生かしていくのか。その日、濵口さんの一番いいボールや部分はどこなのか、そればかり考えていましたね」

 松尾のキャッチャーとしての指針は、ピッチャーにいかに気持ちよく、その日一番いいボールを投げてもらえるか。実際に組んだ濵口は、若きキャッチャーである松尾を以下のように評している。

「しっかり意図を持った配球をしてくれましたし、落ち着いてキャッチャーの務めを果たしてくれましたね。受け身に入らず、自分の欲しいボールをどんどん発信してくれて、いいコミュニケーションがとれたと思います。臆することなく接してくれて、こっちとしてもありがたかったですし、なかなか高卒ルーキーではああはできない。キャッチングも悪くないですし、これからが楽しみですね」

 これからキャッチャーとしてどんな成長をしてくれるのか期待せずにはいられない。

 またバッティングにおいても才能の片鱗を見せている。高校通算38本塁打のパンチ力。

キャンプ前には「勝負強さと広角に打てることをアピールしたい」と語っていたが、4月7日のヤクルト戦では4安打。4月17日現在、12試合に出場し打率.333(39打数13安打)、打点7と、ファームでトップランクの数字を残している。

 もちろんまだ母数が少なく、このまま順調にいくとは考えづらいが、それでもプロに入ってから本格的に木製バットを使用する高卒選手がここまでアジャストするのは珍しい。並みの選手ならば、プロの速球を打ち返すことにも苦労する段階だ。

「キャンプでしっかりバットを振り込むことができましたし、プロのボールに慣れてきたというのもあると思います」

 ヒントはブルペンにあった。

「キャッチングには苦労しましたが、ブルペンでいろいろなピッチャーのボールを受けたことで余裕をもって打席に入れるようになりましたし、振り負けずスイングすることができていると思います。

まずは真っすぐをしっかりと打ち返すことを意識して、そのなかで変化球に対応していくという感じです。もちろん相手ピッチャーにもよりますが」

 こともなげに松尾は言ったが、一軍の打者でもこの意識を徹底するのは難しいことだ。また打つ時に始動を早めにとっている印象だが、そのあたりもプロに入ってからの変化だろうか。

「いえ、始動を早くとっているのは以前からで、それよりもファームの打撃コーチからボールへの入り方を教えてもらったのがプラスになっていますね。感覚的なことなので具体的に言葉で表現するのは難しいのですが、いい感じでボールに入ることができています」

 やっぱりモノが違うなと感じ「適応が早いですね」と声をかけると「いえいえ、そんなことないです」と、松尾ははにかみながらかぶりを振った。

【3年後のWBCを目指したい】

 プロ入りして、過ぎてみればここまで「早かったです」という松尾だが、寮ではどんな日々を過ごしているのだろうか。

たとえば野球以外の空いている時間はゲームしたり、マンガを読んだりしてリラックスをしたり......。

「いや、何もないですよ(笑)。それよりも寮にはいろんな人がいるので、コミュニケーションをとったりするのが好きですね。同期の森下(瑠大)は、小学校から知っている仲なので、よく話をしたりしますね。まあ、あまり野球の話はしないんですけど。あとは自分のチームのピッチャーや相手チームのバッターの研究を毎日するようにしています」

 まさに野球漬けの日々といった感じではあるが、そういえば先月、日本中を大いに沸かせたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)は見たのだろうか。

「はい、時間がある時は見ていました。世界一になって素直にすごいなって思いましたね。印象に残っているのは同じチームの牧(秀悟)さんのホームランや今永(昇太)さんのピッチング。身近な先輩たちの活躍を見て、すごく感動しました。いつかは自分もあの舞台で戦いたいって思いました」

 高揚感のある力強い言葉。「それは3年後のWBCですか?」と尋ねると、松尾は「はい、目指したいですね」と言って頷いた。

 目下急成長をしている様子の松尾だが、一軍昇格を目指すことはもちろん、なにか短期的な目標はあるのだろうか。

「試合ごとにスキルアップしていくことを目指しているので、そのなかでひとつでも多く結果を残せるようにしていきたい。一番の課題はキャッチャーとしての成長だと思いますので、日々頑張っていきたいと思います」

 まだプロとしては駆け出しだが、無限の可能性を秘めたキャッチャーであることは間違いない。はたしてどんな成長曲線を描くのか、松尾の今シーズンを追い続けていきたい。