開幕から1カ月以上が経過したプロ野球ペナントレース。今季は移籍組の活躍が目立っている。

FA、トレード、現役ドラフトによって新たなスタートを切ったおもな選手たちの成績を振り返り、ここまでの活躍を解説者の飯田哲也氏に評価してもらった(成績はすべて5月17日現在)。

飯田哲也が移籍選手の貢献度を診断 大竹耕太郎が新天地・阪神で...の画像はこちら >>

西武からオリックスにFA移籍した森友哉

【明暗分かれるFA移籍組】

森友哉(西武→オリックス/FA移籍)

 古巣・西武との開幕戦で9回二死から起死回生の同点アーチ。その後もヒットを積み重ね、打率はチームトップ。吉田正尚(レッドソックス)の抜けた穴を見事に埋めています。また、昨年西武投手陣をリーグトップの防御率に押し上げたリードも健在。首位争いを繰り広げているチームに十分貢献しています。現段階で活躍度は二重丸ですね。



近藤健介(日本ハム→ソフトバンク/FA移籍)

 柳田悠岐、周東佑京、牧原大成らチーム内のライバルは多いですが、近藤の場合はポジションを空けて待っていたはずです。ただ、WBCの疲れはあるとは思いますが、本来の実力からすれば打率.236は物足りないですし、まだ近藤らしいバッティングはできていません。とはいえ、相変わらず選球眼(26四球はリーグ1位)はよく、得点圏打率(.367はリーグ3位)も高い。その点については評価できます。

嶺井博希(DeNA→ソフトバンク/FA移籍)

 正捕手・甲斐拓也の控えではありますが、5月6日のロッテ戦では試合終盤からマスクをかぶり、沖縄尚学高、亜細亜大の1年先輩・東浜巨に3勝目をプレゼントしました。もう少し打撃面が向上すれば、もっとスタメンで起用してもいいかもしれません。

伏見寅威(オリックス→日本ハム/FA移籍)

 故郷の北海道に戻り、心機一転、新たなスタートを切りました。ここまで日本ハムの捕手では最多の26試合に出場し、新庄剛志監督になって初めて最下位脱出に貢献。投手陣をうまくリードしていると思いますが、もう少し打ってほしいですね(打率.145)。

【人的補償の田中正義はプロ初勝利】

田中正義(ソフトバンク→日本ハム/人的補償)

 田中正義は選手層の厚いソフトバンクでなければ、もっと投げるチャンスのあった投手。それだけの実力はありました。なにしろ、5球団競合のドラフト1位の選手ですからね。4月26日オリックス戦でプロ初セーブ。

5月7日の楽天戦でのプロ初勝利まで7試合連続無失点。その試合では150キロ台ストレートとフォークで3者連続三振。ここまで15試合1勝6ホールド4セーブの成績を挙げています。田中は先発よりも、リリーバーのほうが向いていると思います。

張変(オリックス→西武/人的補償)

 ここまで登板5試合(5イニング)で防御率9.00。本来の実力からすれば、まだ本領発揮できていない印象です。

近年、西武は投手陣のレベルが上がっていて、なんとかそこに食い込んでいきたいところですね。

【新天地で躍動する現役ドラフトの4人】

大竹耕太郎(ソフトバンク→阪神/現役ドラフト)

 今季ここまで5連勝と、チームの首位快走に大きく貢献しています。大竹は育成ドラフト4位入団ながら、1年目から支配下登録され3勝をマークするなど順調に成績を残していましたが、ここ2年間は未勝利でした。何がよくなったかと言うより、パワー勝負のパ・リーグより、セ・リーグ向きの投手だったと思います。研究熱心なクレバーな投手で、内外角にきっちり投げ分けられる制球力の持ち主です。ストレートのスピードは140キロそこそこですが、チェンジアップを織り交ぜ緩急を使って勝負できる。まだまだ勝ち星を積み重ねられると思います。

オコエ瑠偉(楽天→巨人/現役ドラフト)

 キャンプ、オープン戦から好調を維持し、開幕スタメンの座を勝ちとりました。ドラフト1位で入団しながら、楽天ではレギュラーをつかめなかった。今年でプロ8年目、「移籍して、ここでやらないとまずい」とやる気が出たんではないでしょうか。開幕当初こそいい働きを見せていましたが、4月から5月にかけて10打席無安打で、5月8日に登録抹消となりました。ただ彼の積極的なプレーは巨人に必要だと思いますし、必ずまたチャンスはあるはず。頑張ってほしいですね。

戸根千明(巨人→広島/現役ドラフト)

 左の中継ぎで、2020年に53試合登板のヘロニモ・フランスアが退団し、昨年51試合登板の森浦大輔が出遅れるなか、うまくはまりました。5月14日の巨人戦でアダム・ウォーカーに2ラン本塁打を浴びましたが、ここまでいい働きを見せています。

細川成也(DeNA→中日/現役ドラフト)

 外国人選手の調子が上がらず、貧打にあえぐ中日にあって、クリーンアップを任されるなどレギュラーに定着。5月5日の巨人戦では、勝ち越しのタイムリーを含む1試合3安打の活躍でお立ち台にも上がりました。細川は2016年ドラフト5位でDeNAに入団し、1年目にはデビューから2試合連続本塁打を放つなど期待を集めました。ただ、DeNAは外野手の層が厚く、出番は限られていました。球団が変わり、和田一浩打撃コーチもうまくはまったのかもしれません。環境が変わって花開いた好例ですね。

【さすがの働きを見せる涌井秀章

京田陽太(中日→DeNA/交換トレード)

 森敬斗、大和、林琢真、柴田竜拓らとの遊撃手レギュラー争いで、一歩リードしている印象があります。ただ、チームの打線が好調なのであまり目立っていませんが、打率.225と低迷しています。守備での貢献は大きいと思いますが、もう少し打ってほしいですね。

涌井秀章(楽天→中日/交換トレード)

 さすが西武、ロッテ、楽天で開幕投手を務め、最多勝のタイトルを獲得した投手です。今年でプロ19年目ですが、ピッチングのうまさは健在。打線の援護に恵まれずここまで1勝5敗と負け越していますが、しっかり試合をつくっていますし、チームへの貢献度は高いと思います。

阿部寿樹(中日→楽天/交換トレード)

 昨年133試合に出場して131安打を放つなど、キャリアハイの活躍を見せましたが、移籍後は苦しんでいます。いろんなポジションを守れるという長所はありますが、パ・リーグのパワー系投手の前に苦戦している印象です。

江越大賀(阪神→日本ハム/交換トレード)

 5月6日の楽天戦で山﨑剛のセンターオーバーの打球に「神ダイブ」。翌日は荘司康誠から15球粘り、最終的にチームのサヨナラ勝ちを呼び込みました。骨折をおして出場するなど、ガッツあふれるプレーでチームに貢献。「試合に出たい」「レギュラーを獲りたい」という気持ちが強いのでしょう。もともと身体能力の高さは一級品。ようやく才能が開花し始めたところでしょうね。

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 こうしてみると、合格点がFAの森、人的補償の田中、現役ドラフトの大竹と細川、トレードの涌井の5人でしょうか。FAは自分から望んで移籍するものです。実力のある選手が移籍するわけですから活躍して当たり前という部分もあります。一方、現役ドラフトやトレードは、チームの足らないところを補強するという意味合いがあります。なので、これまで出られなかった選手にとってチャンスが生まれます。もちろん、チャンスをつかめるか否かは本人次第です。

 私の場合、ヤクルトを自由契約になって、楽天に移籍しました。球団創設1年目の05年にシーズン97敗も喫するなか、「1年でも長く現役をやりたい」という気持ちでプレーしていました。トレードや現役ドラフトによる移籍は「やるしかない」と気持ちが変わるのが大きいと思います。今後、各選手のさらなる巻き返しを期待したいところです。