7月1日、神戸。ヴィッセル神戸は本拠地に北海道コンサドーレ札幌を迎え、1-1で引き分けている。

首位奪還を狙う状況(横浜F・マリノスより1試合少ないが)において、"足踏み"と言ったところか。終盤にセットプレー一発で追いついた場面は地力を感じさせたが、終始、ミハイロ・ペトロヴィッチ監督が作り上げた札幌の怒涛の攻撃に押されていた。

 もっとも、この一戦を単純に「神戸の現在地」とするべきではない。

 この日は、試合後に英雄アンドレス・イニエスタの退団セレモニーが準備され、変則的に先発出場となった。公式戦にもかかわらず、半ば"お祭りモード"。本来、エースである大迫勇也は途中出場を余儀なくされていた。

チームの調子が狂うのは当然だろう。

 では、イニエスタが去った神戸は初めてのJリーグ王者になれるのか?

 今季、前半戦の神戸は快進撃を見せている。

 大迫勇也は、前半戦のJリーグMVPと言えるだろう。前線のプレーメーカーとしてボールを収め、展開し、ラストパスも繰り出す。何より、ゴールに向かった時の精度は群を抜いていた。足元の技術だけでなく、高さもあって、体の使い方もうまいため、ファウルを誘ってFKを得るのも巧み。

大迫=戦術になっていたほどだ。

「イニエスタ後」のヴィッセル神戸に死角は? 大迫勇也ら「個へ...の画像はこちら >>

ヴィッセル神戸の攻撃を牽引する大迫勇也

 昨シーズン半ば、ミゲル・アンヘル・ロティーナ監督解任を境に、大迫=神戸の図式は出来上がってきた。それはお題目にしていた「バルサ化」との決別だった。言い換えれば、その象徴だったイニエスタに最後通牒を突きつけたようなものだ。

<前線からのプレスができないなら、神戸ではやっていくのは難しい。プレスの甘い選手がいると綻びが出て、全体のラインが下がり、カウンターも発動できなくなる。

高い位置でボールを持って攻撃し続けるなど夢物語だ>

 そんなところか。

"新しい神戸"は結果を出すことによって、その論理を正当化してきた。自分たちがボールを握るよりも相手に持たせて、それを狩る。そのほうが相手のミスにつけ込みやすく、カウンターの効率も上がる。また、前線で長いボールを収める、あるいは収められなくてもセカンドを拾えたら、失点のリスクも低くなる。プレッシング&カウンター戦術を運用するパワー、スピードがある選手は揃っていた。

【お粗末だった前半の出来】

 リーグ前半戦、対戦相手は神戸の個人戦術に苦慮した。大迫ひとりに翻弄されている間に、武藤嘉紀にスペースを蹂躙され、山口蛍酒井高徳が次々に飛び出してくる。個の力だと太刀打ちできない。

 しかし、神戸の個への依存は諸刃の剣にもなる。

 大迫が不在なだけで、攻守は空回り。それは札幌戦でも歴然としていた。

前半の出来はお粗末で、首位争いをしているチームのものではなかった。札幌のほうが攻守の練度はずっと高かった。

 前線について言えば、たとえ大迫がいても、武藤がいなかったら攻撃力はかなり落ちる。ふたりのどちらも欠かせない。中盤は人材豊富に見えるが、夏場にボールを持たずアップダウンするサッカーをするのは消耗が激しく、クラブは補強に動いているのではないか。バックラインも盤石とは程遠い。

札幌戦も、左サイドは金子拓郎の仕掛けに苦しんでいた。前線から追い回して限定できないと、劣勢を強いられる。

 リーグ後半戦を、前半戦と同じように戦える必然が神戸にはない。あくまで個人次第。チームとして立ち戻る形があるわけではないのだ。

「(イニエスタを主力から外したことについて)監督である自分にしかわからないことはあります。でも、アンドレスもスーパースターで、彼にしかわからないつらさだってあったはず。選手起用というのは難しさがありますが、それはどの監督だって、11人を選ぶのは難しいものです」

 神戸を率いる吉田孝行監督は、札幌戦後の記者会見でそう明かした。リーグ前半の戦い方は、たしかに功を奏している。しかし、むしろイニエスタが退団した後のマネジメントのほうが難しいのではないか。神戸の選手たちはこれまで、結果が出なければ「なぜイニエスタを使わない?」という反発に晒されていたはずで、そこに競争力を生じていた。

 後半戦は、相手も攻略方法を練ってくるだろう。たとえば、とにかく大迫を潰す。神戸にボールを持たせて、逆にカウンターを狙う。あるいは一気に押し込み、バックラインの乱れを誘発するのも一手だ。

「前半戦は、すばらしい戦いでした。しかし、後半戦も大事です。きっと、皆さんの支えが必要になるでしょう。あなたたちこそ、このチームのエンジンです」

 イニエスタはサポーターに向かって、暗示的に語っている。

 7月7日、敵地でのアルビレックス新潟戦が、神戸にとって"イニエスタ後"の初戦となる。