【かなだいの世界に熱狂】

 8月24日、横浜。25~28日開催のアイスショー『フレンズ・オン・アイス』の公開リハーサルが行なわれ、"かなだい"と呼ばれる村元哉中、高橋大輔のふたりはプロ転向後、初となる新プログラム『Birds, Makeba』をお披露目している。

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 ふたりは一瞬で、「かなだいの世界」に引き込んだ。


 リンクに響く蠱惑(こわく)的なボーカルに合わせ、ふたりが艶やかに体を動かすと、不思議な空間をつくり出す。それぞれ体の身のこなしが美しく、どこを活写してもさまになるからだろう。リンク内の特設席で観覧しているファンに近づくと、自然と嬌(きょう)声が上がった。湧き起った熱狂のなか、ソロジャンプ、ツイズル、リフトを次々に成功させていった。

 そして後半、曲が変わる。

 原始的というか、アフリカの大地を匂わせ、野性というか、心のままに、という空気をつくる。
ふたりが感性のままに絡み合うと、溶け合うようだった。それは音楽や表現力、あるいは趣向を凝らし照明だけでなく、衣装の演出もあったかもしれない。

 ふたりのシャツ、パンツはアフリカの部族が用いるようなデザインがあしらわれていたが、じつによく似合っていた。

 そして最後、かなだいらしい自由闊達な大団円だった。

【ボーダーをとっぱらった創造】

 今年5月、かなだいは競技生活の引退を発表したわけだが、プロ転向後も表現者として進化を続けている。

「(新プログラムは)アイスダンスのナンバーなんですけど、ソロでも見どころがあって。大ちゃん(高橋)のジャンプもあって、シングルとも融合したプログラムです!」

 村元は言う。

アイスダンス、シングルという枠のなかで戦ってきたからこそ、ボーダーをとっぱらった時、"創造"が生まれるのだろう。

 一方、高橋も表現者として好感触を得ていた。

「カッコいい、ダンサブルな作品にしたかったので、振り付けはシェイ=リーン(・ボーン)さんにお願いしたら、引き受けてくれて。久しぶりのアイスダンスだったみたいで、すごく力を入って4時間ぶっ通しで振り付けをしてくれました(笑)。

 前半はジャジーでスタイリッシュな感じですが、後半はアフリカン(な曲調)。盛り上がる、というよりも勝手に体が動き出すような。
夏の楽しい感じを出して滑りたいですね」

高橋大輔が語るかなだいの新プログラムに込めた想い「新しい展開も見守ってもらえるように」
こだわりの衣装で演技したかなだい
 ディテールまでこだわったからこそ、作品性が出る。

「衣装のこだわりも、見どころのひとつかな、と思っています」

 村元は説明し、こう続けている。

「衣装さんが、アフリカっぽい柄を探してきてくれて。50個くらいの候補のなかから自分たちに合う、合わないってたくさんのパターンを考えてくれたんです。最後にしぼった5パターンくらいを使って、(ふたりに)マッチするようにつくられた衣装で、こだわりですね」

【それぞれの新境地】

 村元はもともと表現力やダンスに定評はあって、シングル、ダンスという多様な経歴の示すとおりだろう。そしてプロ転向で、より表現の幅が広がった。

今回の『フレンズ・オン・アイス』では、3回目となる荒川静香のソロ『歌よ』の振り付けも担当し、新境地を切り拓きつつある。

「アメリカでシェイ=リーンに振り付けをしてもらっている間、振り付けって自由でいいんだな、やりたい動きをやってみようって思えました。その影響が荒川さんの振り付けにも活きていますね。大ちゃんにも一緒にやってみてもらって。

 荒川さんはひとつのポーズ、ラインが美しいので、プラスコンテンポラリーの細かい動きを入れて。『歌よ』の歌詞は心に響くだけに、それを動きで見せたいなと」

 一方の高橋は、表現者として極まりつつある。
彼もシングル、ダンスの両方で培った経験は伊達ではない。他のスケーターとの共演のなか、お互いの力を引き出し合っていた。

「大変でしたけど、本当にカッコいいグループナンバーで。スタートから最後まで思いきり全力で、お客さんに届けられるようにしたいです」

 高橋はそう意気込みを語っていたが、前半の山場であるグループナンバーは白眉だった。数々のスケーターたちが滑ってきた名曲『Poeta』を、しびれるような作品に洗練させていた。

 とりわけ、ステファン・ランビエルとスパニッシュギターの旋律に乗った「ステップ対決」は極上で、特別感があった。
まさに「高橋劇場」の真骨頂と言える。

 今回の『Poeta』は4人のグループナンバーになっているが、アイスダンサー現役時代にこの曲を滑った村元もソロで共演。ランビエルも代表作のひとつで、アンドリュー・ポジェを加えた4人でつくる世界は必見。

「『Poeta』は鳥肌ものでした。この場にいられることが幸せだなって」と共演の島田高志郎も絶賛するほどだ。

 村元、高橋は今までと変わらず一緒に歩みながら、それぞれが表現者としての幅を広げ、深みをつくっている。その感覚は再び共演することで、スパークするのだろう。お互いが触媒になって、濃厚な作品を届けられる。

「新しい展開も見守ってもらえるように。まだまだジェットコースターに(一緒に)乗ってくれたらいいな」

 引退会見で高橋は語っていたが、新章のスタートだ。