4月27日、横浜。アイスショー『プリンスアイスワールド』の横浜公演が、華やかに幕を開けている。

約2時間、ロックなミュージカル世界の情景がつくり出される。

 プリンスアイスワールドチームを中心に、荒川静香宇野昌磨などの豪華ゲストを加え、日替わりでミュージカルスターたちが生歌で彩を与える舞台だ。

「スケーターが叫びながら滑るようなショーをつくりたかった」

 そのコンセプトでつくり上げられた演目は、どれもアグレッシブで躍動感に満ちていたーー。

村元哉中・高橋大輔「かなだい」初の振り付け曲は「けっこうレア...の画像はこちら >>

【ふたりで振り付けした新プログラムを披露】

 なかでも異彩を放っていたのが、「かなだい」の愛称で親しまれる村元哉中と高橋大輔のふたりだろう。「ACT2」の半ばに登場。モニターにゴールドで名前が浮き上がると、ひと際大きな歓声を受けた。

 かなだいは、新プログラム『Symmetry』を初披露。

しっとりした曲調に、静かに降る雨のようなボーカルに合わせ、氷上でしなやかに踊る。初めてふたりで振り付けをしたという。

 村元が黒、高橋が白の衣装で、ブルーの照明のなかで重なり合った。その様子は、深海で生物が戯れるようにも見えた。リフトに成功し、ダンススピンではひとつになるようにからみ合う。

 曲のテンポが変わって、ふたりが離れて向き合った。

アイスダンス時代にはない格好で、その距離感が縮まって再びステップをシンクロさせると、ふたりの熱い息遣いまで聞こえてくる。狂おしい臨場感があった。

 高橋が、村元の身体を優しくフワッと抱える。村元が、高橋と視線をからませる。そこに浮かんだ阿吽の呼吸が、彼らのカップルとしての年月を物語っていた。

 演技後、ふたりは表情を輝かせながら、会場の隅まで届くように丁寧に手を振っている。

出口から姿が消える、ギリギリの瞬間まで。ふたりは声援に対し、真摯な感謝の気持ちを届けていた。

「今回、新しいプログラムで、パートナーの村元さんと初めてふたりで振り付けをしました。僕自身、ほとんど(振り付けを)しないので、けっこうレアで。最後のふれあいタイムで、(お客さんに)『すごく素敵でした』と言っていただいたので、ひと安心です!」

 公演後の会見で、高橋はそう言って笑みをもらしていた。

 最後、「Meet&Greet」であいさつに出てきたかなだいは、現役時代さながらのツイズルを披露している。

サービス精神満点。手をたたいて喜ぶファンの姿があった。

 ふたりは、そうやって観客との呼吸を交わしながら、成長・進化を続けているのだろう。

【自分を極限まで追い込む、表現者の矜持】

 2022年12月、全日本選手権でアイスダンス王者になったあと、彼らに聞いたことがあった。

ーーあれだけ堂々とした演技で全日本選手権優勝とは、カップルを結成した2020年1月の(アイスショーの)『アイスエクスプロージョン』では想像できませんでした。タイムマシンで当時の自分に会えるとしたら、なんて声をかけますか?

 その問いに、高橋はこう答えていた。

「『覚悟しとけよ』ですかね(笑)。アイスダンスは難しい、本当に難しい。あの時はまだ始めてなかったんで、アイスダンスが大変だと思っていても、実際にはわかっていなかったわけで、シングルとここまで違うものかって」

 彼はそう言って謙遜していたが、着実に山を乗り越えてきた。その献身こそ、表現者の矜持と言えるだろう。

<自分のスケートにどれだけの価値があるか>

 その問いと、彼は日々逃げずに格闘しているようにも映る。

 昨年5月に現役引退を発表したあとも、その信条は変わっていない。

たとえば今年2月、高橋がプロデュースした『滑走屋』は、まさに新感覚で革新的だった。アイスショーの常識を覆し、一人ひとりが物語を担いながら、疾走感はノンストップ。氷上のシアター作品のようだった。

 裏返せば、先駆的な作品を仕上げるのは過酷な作業だったはずだ。

「(何かをつくる)そういう意味で追い込まれるのは嫌いじゃないです。みんなでつくり上げるのは好きだし。しんどいですけど、やったあとにしんどかった分、絆も深まりますね」

 高橋はそう語っていたが、『滑走屋』が終わったあとの彼は、すべての力を使いきっていた。

 直後のインタビューでその頬がこけ、目もくぼんでいた。寝食も犠牲にしてきたのだろう。周りから「極限まで自分を追い込めるのが才能」と言われるが、想像以上だろう。

 一方、「撮影をお願いします」という声がかかった途端、生気を取り戻す姿は瞠目に値した。顔全体が明るく輝き、目に力が宿り、指先にまで血が巡ったのだ。

 高橋はそうした日々を重ねることで、また次の表現にたどり着くのだろう。

ーー好きなミュージカル作品は?

 今回の『プリンスアイスワールド』の公演後、そう質問を受けた高橋は彼らしく答えている。

「僕はミュージカル好きなので、いっぱいあって決めきれないな。どうしよう......でも『ロミオとジュリエット』のフランス版は楽曲もすべて好きで。いつかちょっとでも出てみたいなって。どのミュージカルも好きで、ひとつに決められないですけど......あ、でも『ロミオとジュリエット』で(笑)」

 あるいは、その舞台に立つ日も訪れるかもしれない。彼はシングル時代も、現役復帰後も、アイスダンス転向後も、そして表現者としても、イメージしてきたものを必ず実現してきた。今も舞台に立つたび、変身を遂げているのだ。

 横浜公演は、ゴールデンウィーク中に6日間12公演が予定されている。

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