フィギュアスケート・長光歌子インタビュー特別編(全4回)

 50年以上にわたってフィギュアスケート界で指導者を続けてきた長光歌子コーチ。数多くのトップスケーターたちを輩出しているが、なかでも高橋大輔とは二人三脚で、華々しく男子フィギュアの歴史を変えた。

今回はインタビュー特別編で、3月にカナダ・モントリオールで行なわれる世界選手権の展望をシングル中心に聞いた。

長光歌子が展望する今季世界選手権 高橋大輔が優勝したトリノは...の画像はこちら >>
 女子シングルは、世界女王である坂本花織の3連覇がかかる。そのダイナミックな演技は、大会のハイライトになるだろう。昨年12月の全日本準優勝、今年2月の四大陸選手権優勝と意気軒昂の千葉百音、昨年のグランプリ(GP)ファイナル3位の吉田陽菜も伏兵と言える。"日本女子で表彰台独占"もない話ではないほどの勢いだ。

 男子シングルは、同じく宇野昌磨の3連覇がかかる。

難解なプログラムを芸術的に仕上げ、「至高の表現」で頂点に立てるか。鍵山優真は四大陸選手権優勝で調子を上げ、三浦佳生は爆発力を感じさせる演技で起死回生を狙う。他にも、"世紀のジャンパー"イリア・マリニン(アメリカ)を筆頭に、韓国のチャ・ジュンファン、フランスのアダム・シャオ・イム・ファなどと表彰台を争うことになるだろう。

【日本女子は表彰台独占もあり得る】

ーー2年前のインタビューで長光先生は、千葉選手の台頭を予想しておられました。さすがの慧眼です。

長光歌子(以下同) (千葉)百音ちゃんは、スケートのよさを表わせる選手ですよね。ジャンプ、スピン、表現力と三拍子そろっているので、これからが楽しみです。

ーー坂本選手は3連覇が期待されます。

(坂本)花織ちゃんは、とにかくパワフル。ダブルアクセルひとつとっても、圧倒的なパワーで点数をもぎとれます。基礎点もどんどん稼げるし。ロシアの選手もいないし、ちょっと敵がいないかなと。それくらいの強さですね。

ーー吉田選手はシニア1年目、トリプルアクセルを武器におどり出ました。

 ピッチの速い、回転を速くしたジャンプで回る感じで。大技が求められるなか、しっかりととり入れていますね。

ーーこうして名前を挙げると、日本人選手の表彰台独占も......。

 あり得ると思いますよ。

【青木祐奈の演技が大好き】

ーー世界選手権に出場する選手以外でも、注目の女子選手はいますか?

(松生)理乃ちゃん、(住吉)りをんちゃんはすごくいい練習をしているし、ずっと注目しています。

 フィギュアスケートのよさを出せるっていう点では、(青木)祐奈ちゃんは大好き。

とても気になる選手です。ノービスで、(教え子の三宅)星南と一緒に優勝して、『クリスマス・オン・アイス』で(高橋)大輔のアイスショーに出ています。今回の(高橋大輔プロデュースのアイスショー)『滑走屋』にも出演し、大輔が演技を見に行って指名したそうで。祐奈ちゃんは現役を続けるか、まだアナウンスはしてないようですが......。

ーー世界ジュニア選手権では、島田麻央選手が優勝しました。

 島田麻央ちゃんは、とてもうまいという印象で、ノビシロを感じますね。

あの年代ではとてもよく滑れる選手ですし、ジャンプは当然、能力が高い。あとは、柔らかい表現ができあがっている大人のスケーターに入った時、そこが伸びたら面白いですね。

ーー世界ジュニア、13歳の上薗恋奈選手は3位に入りました。スター性を感じさせ、期待度が高いです。

 上園恋奈ちゃんはスタイルがいいし、とにかく美人さん。つい最近まで小学6年生だったとは思えません。

大人っぽい、色気がある滑りをするというか、日本人選手で珍しいタイプですよね。これから注目を浴びるのではないでしょうか。

【宇野昌磨は表現力を高めている】

ーーそして男子は、世界王者の宇野選手がステファン・ランビエルコーチの指導で殻を破った感がありますね。

 ステファンが、去年の『フレンズオンアイス』で大輔とステップをしたんですが、あらためて、本当にスケートがうまいと思いました。自分で手本を見せて、それを選手にさせる、というのは、ひとりの指導者としてうらやましいなと思いましたね。(宇野)昌磨くんにとっても、それはすごくよかったはずで、表現力も上がっていますね。ステファンは選手としてトップでずっとやってきたから、気持ちのキャパも広いというか。

ーー鍵山選手はコンプリートな選手で、昨シーズンからの復活ぶりも目覚ましいです。

 今年は、色はともかく、ふつうにやればメダルというところまで来ていますよね。スケートがうまい選手で、とくに軸がきれい。カロリーナ(・コストナー)がコーチにつくようになって、ひとつ世界が広がるといいなって思います。カロリーナもまだまだ滑れる人なので、それが伝わって優真くんが身につけられたら。彼女のステップ、スケーティング、表現は本当にすばらしいですからね。

ーー 一方で三浦選手は、サッカー選手のような激しい気性を感じます。氷と格闘しているような。

 多いタイプではないかもしれません。とにかく、アグレッシブな選手。それが練習でも、試合でも強く出るのはすごいです! 回転能力も高い選手ですよ。

【高橋大輔との世界選手権の思い出】

ーー日本人以外で、注目選手は?

 韓国の(チャ・)ジュンファンくんはスケートがうまいし、表現もいいですね。今シーズンは故障をしていたのか、調子がよくなさそうですね。昨年の『フレンズオンアイス』でも練習を間近で見せてもらいましたが、超一流のスケーターのオーラがありました。大好きな選手のひとりですね。他にもマリニンくんはジャンプのスペシャリストだし、フランスのアダムくんにも注目しています。

長光歌子が展望する今季世界選手権 高橋大輔が優勝したトリノは「用意された舞台のようだった」
2010年の世界選手権でのフリー『道』
ーー最後に、長光先生にとって思い入れの深い世界選手権とは?

 大輔と一緒に戦った、2007年の東京、2010年のトリノ、2012年のニース、はどれもよかったですね。シーズンは長くて、3月の世界選手権に合わせながら、そこにピークを合わせてメダルをとれる、というのはうれしいんです。

 トリノでの世界選手権は金メダルですし、達成感はありました。練習できずに臨んだのですが、向こうでの演技はよくて。それも絵に書いたようなストーリーでした。イタリアで『道』(有名なイタリア映画の楽曲)を滑るって、用意された舞台のようで。『道』は前の年に、膝のケガで出られなかったシーズンのためにつくられたプログラムで、それを持ち越すことになったんですが、なんだか運命を感じましたよね。

終わり

第1回<「曲に体の細胞が全部反応している!」高橋大輔の演技に長光歌子が感じた才能とは>を読む

第2回<高橋大輔に長光歌子が伝えた「日本人として恥ずかしなくマナー」 アジア初の偉業を回顧>を読む

第3回<高橋大輔は指導者としては超ストイック? 次世代への継承を長光歌子と考える>を読む

【プロフィール】
長光歌子 ながみつ・うたこ 
1951年、兵庫県生まれ。自身の現役時代には、全日本ジュニア優勝、全日本選手権6位など活躍。引退後はコーチ兼振付師として活動し、数多くのトップ選手を育てる。バンクーバー五輪銅メダルの高橋大輔が中学時代からコーチを務めた。