「タケは、あらためてすばらしい選手であることを証明した。とくにコンビネーションのところで瞠目(どうもく)すべき技術を持っている。
スペインの目利きであるミケル・エチャリは、久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)が、チャンピオンズリーグ(CL)開幕戦のインテル戦で引き分けた試合について、そう語っている。
エチャリは20年近く、ラ・レアルでスポーツダイレクターやアカデミーダイレクターなどの職を歴任してきた。フランシスコ・デ・ペドロ、シャビ・アロンソ、アントワーヌ・グリーズマンなど、影響を与えた選手は枚挙にいとまがない。現監督のイマノル・アルグアシルは指導者時代に麾下(きか=直属)の選手だったし、コーチのイオン・アンソテギは監督養成学校の生徒だ。
バスクサッカーの重鎮であるエチャリは、久保ラ・レアルのCL開幕戦をどう見たのか?
タケは直前のレアル・マドリード戦ほどの出来ではなく、試合の入りで苦労していた。しかし、プレー内容は賞賛に値するものだった。
右サイドバックのアマリ・トラオレが不安定なポジショニングだったこともあり、タケはなかなか本来の力を見せられなかったとも言える。それもインテルの狙いではあったか。そのなかでもタケのミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノへのボール供給は抜群で、キックのクオリティの高さを思い知らされた。
【久保の途中交代について考えた】
久保については地元のインタビューなどで、『彼はどうやったら偉大な選手になれるか?』と聞かれることがあるが、『すでに偉大な選手だよ』と答えている。
エチャリはそう言って、久保のプレーを絶賛した。では、チームはなぜ勝ちきれなかったのか?
「72分、久保は交代でベンチに退いている。その交代に関しては、いろんな意見があるだろう。私も考察するきっかけになった。
ラ・レアルは87分に失点し、引き分けたわけだが、選手交代が試合を決定づけたのは確かだ。
まず、インテルは贅沢な陣容だった。イタリア代表のフェデリコ・ディマルコ、ダビデ・フラッテジ、フランチェスコ・アチェルビ、チリ代表アレクシス・サンチェス、フランス代表マルクス・テュラムなど、先発した選手と力の差がない選手が投入されている。それを忘れてはならない。
一方、ラ・レアルはモハメド・アリ・チョ、アルバロ・オドリオソラ、ウマル・サディク、アイヘン・ムニョス、ジョン・パチェコが代わってピッチに入った。悪い選手ではないが、先発と控えの差は明らかだろう。パワーダウンを余儀なくされた。
そのふたつが重なり合い、大きな勢いの差になった。
では、どうにもできなかったのか?
あえて『たら・れば』の話をするなら、もし自分が決断者だったら、早めに3バックに切り替え、5-3-2のような形にし、トップの一角にタケを配置していただろう。それによってボールを持って運べるし、ファウルも誘えるはずで、リズムを作って相手の怒涛の攻撃を分断し、走力を生かしてカウンターも発動できた可能性はある。彼をピッチに残す策はなかったわけではない。
ただし、これは結果論とも言える。
イマノル(・アルグアシル監督)は同じことを考えただろう。
【アドバイスがあるとすれば...】
エチャリは、かつてスポーツダイレクターとして監督と二人三脚で戦った頃のように、現実的な意見を口にしている。
「インテルが勝負強さを発揮したのは事実だろう。試合を通じ、中を締めて、守りの堅牢さを見せた。ラウタロ・マルティネスはほとんど唯一のチャンスを、しっかりと決めた。世界王者アルゼンチンのストライカーは一流の違いを見せつけたと言える。
しかし、ラ・レアルがスーパーゲームをやってのけたことも間違いない。選手は自分たちのプレーを信じるべきだろう。その確信が積み重なっていくことで、もっと強くなるはずだ。
グループリーグの4チームの実力は拮抗していて、どこが勝ち上がってもおかしくない。それだけにインテル戦で落とした勝ち点2は痛いが、悪くないスタートだ」
最後に聞いた。
――もし監督だったら、久保にどんなアドバイスができたか?
エチャリは笑顔で答えている。
「自分が言うことなどないよ。ただ、前半からもう少し下がってボールを受けにいってもよかった。そうすることで、たとえボールを受けられなくても、マーカーを引き連れることで小さな混乱を与えられる。
同じように、ダイアゴナルの走りでボールを引き出す動きを増やしてもいい。やはり、マーカーやカバーを脅かすことになっただろう。自分はサイドの選手にはずっと言っていることがある。『相手が守備を固めたとき、味方が自分の空けたスペースを使うようにするのは重要な戦術だ』とね。だが、繰り返し言うが、久保は好プレーを見せたし、チームも同様だ。だからこれを続けてほしい」