「タケは、あらためてすばらしい選手であることを証明した。とくにコンビネーションのところで瞠目(どうもく)すべき技術を持っている。

ロビン・ル・ノルマンへのクロス、そのワンプレーだけでも質の高さは伝わった。もし決まっていたら、試合展開は変わっていたかもしれない」

 スペインの目利きであるミケル・エチャリは、久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)が、チャンピオンズリーグ(CL)開幕戦のインテル戦で引き分けた試合について、そう語っている。

 エチャリは20年近く、ラ・レアルでスポーツダイレクターやアカデミーダイレクターなどの職を歴任してきた。フランシスコ・デ・ペドロ、シャビ・アロンソ、アントワーヌ・グリーズマンなど、影響を与えた選手は枚挙にいとまがない。現監督のイマノル・アルグアシルは指導者時代に麾下(きか=直属)の選手だったし、コーチのイオン・アンソテギは監督養成学校の生徒だ。

 バスクサッカーの重鎮であるエチャリは、久保ラ・レアルのCL開幕戦をどう見たのか?
 

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「まず、勝ちに値する試合だった、ということを言っておきたい。
すばらしい出足でプレスをはめ、先制点を記録した。そして80分過ぎまで、昨シーズンのCLファイナリストをリードしていた。10本以上のシュートを放ち、ポストやバーに当て、スペクタクルな内容だった。どのチームも、これだけの戦いができるわけではない。

 タケは直前のレアル・マドリード戦ほどの出来ではなく、試合の入りで苦労していた。しかし、プレー内容は賞賛に値するものだった。

イタリアのチームに研究されたか、タケは常に1対2の数的不利に置かれていた。にもかかわらず、それを何度か突破してチャンスを演出したのだ。

 右サイドバックのアマリ・トラオレが不安定なポジショニングだったこともあり、タケはなかなか本来の力を見せられなかったとも言える。それもインテルの狙いではあったか。そのなかでもタケのミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノへのボール供給は抜群で、キックのクオリティの高さを思い知らされた。

【久保の途中交代について考えた】

 久保については地元のインタビューなどで、『彼はどうやったら偉大な選手になれるか?』と聞かれることがあるが、『すでに偉大な選手だよ』と答えている。

もちろん、長く続けるのは難しい。ただ、少なくともプレーは偉大だ」

 エチャリはそう言って、久保のプレーを絶賛した。では、チームはなぜ勝ちきれなかったのか?

「72分、久保は交代でベンチに退いている。その交代に関しては、いろんな意見があるだろう。私も考察するきっかけになった。

 ラ・レアルは87分に失点し、引き分けたわけだが、選手交代が試合を決定づけたのは確かだ。

 まず、インテルは贅沢な陣容だった。イタリア代表のフェデリコ・ディマルコ、ダビデ・フラッテジ、フランチェスコ・アチェルビ、チリ代表アレクシス・サンチェス、フランス代表マルクス・テュラムなど、先発した選手と力の差がない選手が投入されている。それを忘れてはならない。

 一方、ラ・レアルはモハメド・アリ・チョ、アルバロ・オドリオソラ、ウマル・サディク、アイヘン・ムニョス、ジョン・パチェコが代わってピッチに入った。悪い選手ではないが、先発と控えの差は明らかだろう。パワーダウンを余儀なくされた。

 そのふたつが重なり合い、大きな勢いの差になった。

 では、どうにもできなかったのか?

 あえて『たら・れば』の話をするなら、もし自分が決断者だったら、早めに3バックに切り替え、5-3-2のような形にし、トップの一角にタケを配置していただろう。それによってボールを持って運べるし、ファウルも誘えるはずで、リズムを作って相手の怒涛の攻撃を分断し、走力を生かしてカウンターも発動できた可能性はある。彼をピッチに残す策はなかったわけではない。

 ただし、これは結果論とも言える。

 イマノル(・アルグアシル監督)は同じことを考えただろう。

しかし、あの時点で勝ち点3を奪うための最善の決断をした。インテル戦の試合内容はほとんど歴史的に輝かしく、それは日頃のトレーニングの賜物であり、結果によって采配に疑問を呈すべきではない」

【アドバイスがあるとすれば...】

 エチャリは、かつてスポーツダイレクターとして監督と二人三脚で戦った頃のように、現実的な意見を口にしている。

「インテルが勝負強さを発揮したのは事実だろう。試合を通じ、中を締めて、守りの堅牢さを見せた。ラウタロ・マルティネスはほとんど唯一のチャンスを、しっかりと決めた。世界王者アルゼンチンのストライカーは一流の違いを見せつけたと言える。

 しかし、ラ・レアルがスーパーゲームをやってのけたことも間違いない。選手は自分たちのプレーを信じるべきだろう。その確信が積み重なっていくことで、もっと強くなるはずだ。

 グループリーグの4チームの実力は拮抗していて、どこが勝ち上がってもおかしくない。それだけにインテル戦で落とした勝ち点2は痛いが、悪くないスタートだ」

 最後に聞いた。

――もし監督だったら、久保にどんなアドバイスができたか?

 エチャリは笑顔で答えている。

「自分が言うことなどないよ。ただ、前半からもう少し下がってボールを受けにいってもよかった。そうすることで、たとえボールを受けられなくても、マーカーを引き連れることで小さな混乱を与えられる。

 同じように、ダイアゴナルの走りでボールを引き出す動きを増やしてもいい。やはり、マーカーやカバーを脅かすことになっただろう。自分はサイドの選手にはずっと言っていることがある。『相手が守備を固めたとき、味方が自分の空けたスペースを使うようにするのは重要な戦術だ』とね。だが、繰り返し言うが、久保は好プレーを見せたし、チームも同様だ。だからこれを続けてほしい」