「彼女」のGIの戦績は、2歳時の1戦が4着、3歳時の4戦が10着、3着、2着、5着、4歳時の2戦は7着、16着。この数字を見て、どんなタイプの馬をイメージするだろうか。

 おそらく、GIでは少し力が足りない"イマイチ"のタイプか、脇役タイプといったところではないだろうか。

 今後もこのまま足踏みが続くようなら、「彼女」は競馬史のなかに何頭もいる"その他大勢"の馬として記憶される1頭にすぎないだろう。

 だが、この週末のGIマイルCS(11月19日/京都・芝1600m)は、「彼女」がそんな"残念なイメージ"を払拭する、まさに千載一遇のチャンスとなるかもしれない。

 すでにお気づきの方も多いだろうが、「彼女」とはナミュール(牝4歳)のことである。

マイルCSでナミュールはGI馬になれるか ようやく競走馬とし...の画像はこちら >>
 特筆すべきは前走、マイルCSの東の前哨戦として位置づけられているGII富士S(10月21日/東京・芝1600m)での、圧巻の勝ちっぷりだ。

 最後の直線で外から被され、馬群のポケットに押し込められそうになりながら、外の馬を弾き飛ばすかのようにして、馬群を割って伸びてきた。

そこからは自慢の末脚が炸裂。終わってみれば、2着に1馬身4分の1差をつける完勝だった。

 手綱を取った"マジックマン"ジョアン・モレイラ騎手も、「すごい瞬発力。強い勝ち方だったね」と手放しで称えた。

"相手に恵まれた"という一面はあるにせよ、あの勝ち方にゾクッときたファンは少なくなかったに違いない。同時に、「これなら次も......」と期待したファンも数多くいたのではないだろうか。

関西の競馬専門紙記者もこう語る。

「確かに強い勝ち方でした。道中、脚をタメて、それをまともに解き放てば、(ナミュールが)どれだけの競馬ができるか、ということを証明した一戦でした。あの勝ち方なら、マイルCSでも十分に勝ち負けを演じられるはず」

 2歳GIの阪神ジュベナイルフィリーズ、3歳クラシック初戦のGI桜花賞と、いずれも1番人気に支持されたように、もともとこの世代の牝馬では、その能力はトップレベルと評価されていた馬である。

 にもかかわらず、冒頭で触れたとおり、GIはこれまでに7戦して0勝。評判どおりの成績を残せていない。

 理由は主にふたつある。

 ひとつは、馬体。桜花賞当時の馬体重が426kgと華奢な馬ゆえ、陣営はレースに向けての調整面において常に苦労を強いられてきた。当初、GI戦線で戦うには、能力の高さに馬体が追いついていない、といった状態だったこともある。

 もうひとつは、レースぶり。スタートが悪く、後手を踏むことが多いため、後方からのレースになることがしばしば。

その結果、展開に左右されたり、レース中に不利を受けたりして、能力を発揮できない、ということが頻繁にあった。

 今春に挑んだGI2戦も、GIヴィクトリアマイル(5月14日/東京・芝1600m)が7着、GI安田記念(6月4日/東京・芝1600m)は16着に終わったが、敗因はともにレース中に受けた不利にあった。先の専門紙記者が言う。

「勝負どころで挟まれたり、(馬群から)出られなかったり、前をカットされたりと、2戦とも不利ばかりでまったくレースになっていなかった。だから、この春のGI2戦に関しては、ノーカウントでいいと思います」

 では、千載一遇のチャンスとなるマイルCSでは、これら懸念は解消されるのか。

 まず"道中の不利"という点については、専門紙記者によれば、「その危険度はだいぶ下がると見ていい」と言う。

「舞台となる京都の外回りコースは、概ね最後の直線コースで馬群がバラけます。その分、詰まったり、挟まったり、という危険はかなり回避できると思います」

 後方待機の脚質についても、マイルCSでは過去10年で半数の5頭が道中(3角)10番手以降の追走から、鋭い末脚を繰り出して優勝。名手モレイラ騎手が「すごい」と絶賛した瞬発力を持ってすれば、不安材料にはならないだろう。

 今回、ナミュールにとっては初となる京都コースも、こうしたことから"初"というマイナスより、プラス要素になり得る可能性が高い。

 次に、馬体の問題はどうか。

 3歳時、「課題は馬体を増やすこと」と言われたナミュールも、前走時には過去最高の454kgまで馬体重が増えた。

このことは、単に馬体面の成長にとどまらず、精神面に及ぼす影響も大きいという。

「(ナミュールは)馬体が増えると同時に、精神的にも落ちつきが出てきました。3歳の時は素質だけで走っていたのが、ようやく今、馬体を含めていろんなことが伴ってきたという印象。競走馬として"旬"を迎えた、という感じがします」(専門紙記者)

 セリフォス(牡4歳)、シュネルマイスター(牡5歳)、ソウルラッシュ(牡5歳)......など、相手はなかなか手強い。だが、それら人気上位の面々は、強さもありながら、その一方で隙があるタイプばかり。

 今回鞍上を務める名手ライアン・ムーア騎手の手腕を借りて、その隙を突くことができれば、悲願達成のシーンは訪れるはずである。

 逸材ナミュールが"その他大勢"で終わることなく、"名牝"としてその名を残す存在になることを期待したい。