トライアウト。一度は戦力外通告を突きつけられたプロ野球選手たちが、再起をかけて臨む年に一度の舞台だ。

このトライアウトに参加する選手のバックボーンはさまざまだ。一時でもレギュラー格として活躍したことがある者、わずかな在籍期間で非情宣告を受けた者、そして一度も一軍の舞台に立てなかった者......トライアウトの参加者のなかには、決して有名とは言えない選手も珍しくない。

 ただ2023年は例年以上に戦力外となる選手が多く、トライアウト参加者も膨らんだ。そのなかには「なぜ?」と言いたくなるビッグネームもいた。

 元ロッテの福田秀平もそのひとりだ。ドラフト1位でプロの世界に入り、FAでロッテに移籍。

大きな期待が寄せられたが、移籍してからの4年間は福田にとって苦難の連続だった。福田はロッテにいた時に何を思い、トライアウトへはどんな思いで臨んだのだろうか。

福田秀平が吐露したロッテでの苦悩の4年 「チームやファンの方...の画像はこちら >>

【すべてを狂わせた開幕直前の死球】

 福田は斎藤佑樹田中将大坂本勇人前田健太らと同学年の、いわゆる"ハンカチ世代"のひとりだ。ソフトバンク入団後は2010年に一軍デビューを果たすと、走攻守三拍子揃ったプレーヤーとして無類の強さを誇ったチームを支えた。

 だが選手層の厚さもあり、レギュラーを獲りきるまでには至らず、スーパーサブとしての印象が色濃い。

 福田は2019年オフにFA宣言。人的補償が必要でないCランクだったこともあり、ソフトバンクを含む計6球団からラブコールを受けることとなる。

そして福田はロッテ入りを決断。ロッテはレギュラー候補として福田を迎え入れた。

 だが、現実は思うようにいかない。

「移籍1年目の開幕前にいきなり骨折して、治らないままプレーして......何としてでも出なきゃいけない、出て数字を残さないといけないっていうなかでやってきましたけど、なかなか思うようにいかず、結局2年目、3年目も棒に振ってしまった」

 福田の移籍1年目の2020年は、コロナ禍の影響で開幕が大きくずれ込んだ。開幕前に練習試合が組まれていたが、6月16日に行なわれた巨人戦で福田は死球を受け、右肩甲骨を骨折してしまう。

 それでも移籍1年目という立場ゆえ、62試合に出場するも万全の状態でプレーすることができず、打率.216、5本塁打、19打点、3盗塁と不本意な数字が並んだ。

 そしてこの年に無理したことで、さらに歯車を狂わせた。

 翌2021年シーズンは一軍出場わずか4試合。前年の死球による肩の痛みは抜けなかった。22年も20試合の出場にとどまり、ヒットは7本で打率.171。そしてこの年の10月、福田はついに右肩の手術に踏みきる。死球を受けてからは、約2年半の時が過ぎていた。

 4年契約の最終年となった2023年は、3試合の出場にとどまりヒットは2本。しかし、ファームでは91試合に出場し、打率.284、5本塁打、23打点の成績を残した。「去年手術を受けて、そこから半年以上なかなか上向いてこないなかで、最後の最後ですけど状態が上がってきました」と語るように、ようやく本来の姿を取り戻しつつあった。

 戦力外通告を突きつけられたのは、そんな矢先のことだった。

【34歳にして見えてきた復調の兆し】

 ロッテでは思うような成績をあげられなかった福田だが、コンディションは上がっていた。

「この3年間、肩の状態は悪かったんですけど、7月後半くらいから痛みなくプレーできるようになって、8月くらいから体が元気になり始めました」

 トライアウトでは7回打席に立って1安打、2四球。

元ヤクルトの鈴木裕太からあわやホームランというフェンス直撃の二塁打を放ち、守備でもファースト、ライトをそつなくこなした。

「投げることだったり、強く振ることだったり、そういう姿を見せることができてホッとしています」

 34歳にしてようやく復調した姿を、多くのファンとスカウトの前で見せることができた。

 そんな福田にとって、ロッテで過ごした4年はどういう時間だったのだろうか。

「本当に不本意な4年間でした。やっぱり、肩のケガがこんなに長引くとは思っていなかったですね」

 真っ先に出てきた言葉は「不本意」だった。FAでロッテに入る際、本人はもちろん、球団やファンも大きな期待を寄せていたはずだ。

それに応えられなかったという後悔が、福田の胸のなかに刻まれる。

「ソフトバンクでレギュラーになったことがない状態で、自分自身としてもFAを機に定位置をとるという、僕のなかでは挑戦でした。正直、この4年間はその勝負に負けたと思っています。重圧は......もしかしたらあったのかもしれないですけど、やっぱり数字を残さないと」

 そして福田は、ポツリとこう漏らした。

「まあでも、(ロッテに)貢献することはできなかったので、期待していただいたチームやファンの方にすごく残念な思いをさせてしまった。そこは何て言うんですかね......虚しい気持ちになるというか、そんな感じですね」

 この4年間、福田は期待に応えるため懸命にもがいた。それは、言葉では言い表せないほどのプレッシャーだったに違いない。

 今年のトライアウトには高山俊(元阪神)や多和田真三郎(元西武)、薮田和樹(元広島)といったビッグネームが参戦した。彼らが打席やマウンドに立つ時は、ファンの歓声や拍手が一段と大きくなる。もちろん、福田の時もそうだった。

「ものすごくありがたかったですね」

 そんなファンの歓声に、福田は精一杯のプレーで応えた。

「ロッテさんやファンの方には、すごく申し訳ない気持ちがあるんですけど、こういうふうに体は元気になったので、機会があればまた頑張っていきたいと思います」

 福田は後悔と申し訳なさを強調していたが、まだ彼に期待するファンは多くいる。トライアウトの日、鎌ヶ谷に満ちた拍手と声援がその証拠だ。もしチャンスが訪れれば、トライアウトと同じように全力プレーを見せるだろう。