ヤクルト・髙津臣吾×真中満 2024新春対談 中編(全3回)

 球団史上初となるリーグ3連覇を目指して臨んだ2023年シーズンは、思うような戦いができず5位に沈んだ東京ヤクルトスワローズ。今回、2024年シーズンの返り咲きを目指す髙津臣吾監督と、元ヤクルト監督でプロ野球解説者の真中満氏の新春対談が実現した。

中編は野手をテーマに、打線の主軸である四番の村上宗隆やキャプテンの山田哲人、成長中の若手の内山壮真などについて語りあった。

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【村上宗隆は苦しみを今後の糧に】

ーー前編では2023年のヤクルト投手陣について伺いました。今回は各打者について伺いたいと思います。

真中満(以下、真中) 2023年のヤクルト打撃陣について伺うとなれば、やっぱり、まずは村上宗隆から聞きたいんですけど、苦しんでいる感じはありましたか?

髙津臣吾(以下、高津) もちろん、すごく苦しんでいる感じでした。悩んでいるというとちょっと違うかもしれないけど、しんどいだろうなと感じることはありました。技術的なことは僕にはわからないけど、たとえばツーボールと打者有利なカウントで、次のストレートをフルスイングしてほしいのに手が出ない。ちょっと消極的になっている姿が目につきました。

僕からは声をかけることはしなかったけど、ただ頑張れと見守っていました。

「村上宗隆は苦しんでいる感じがした」「山田哲人は落ちてきてい...の画像はこちら >>
真中 開幕戦の初打席でいきなりホームランだったから、今年もいけるぞといういい雰囲気ではあったんですけどね。

髙津 ただ前向きに考えるわけじゃないけど、彼の場合、三冠王もとったすごいバッターなんだけど、まだ23歳なんですよね。年齢から考えると、これからまだまだ成長していく年齢ですよ。そう考えると末恐ろしい。だから、2021年には日本一になった。
2022年には三冠王になった。そして2023年は悔しい思いをした。そのすべてが経験となって、まだまだ成長していく。その点には期待したいです。

真中 たしかに、三冠王となった前年と比べると成績は落ちてはいるけど、それでも2023年はホームラン31本、84打点を記録していて、それほど悪い成績ではないですからね。

「村上宗隆は苦しんでいる感じがした」「山田哲人は落ちてきている自覚があるかも」髙津臣吾監督と真中満がヤクルト打線を語り合う
髙津監督とは現役時代も一緒にプレーしていた真中満氏
髙津 あれだけのバッターが四番にいることが、すでに相手バッテリーにしたら脅威ですから。
「ホームランにならなくてよかった」「ヒットでよかった」と思われるバッターはそうはいない。それだけで十分、相手にプレッシャーを与えているわけですから。

真中 監督は「四番・村上」に強いこだわりを持っていますよね。

髙津 本人の調子がよっぽど悪ければ代える可能性はあります。でも、他の選手の調子がいいからという理由で、村上を四番から外すことはしません。四番とクローザーには、それだけの責任があると考えています。

【山田哲人は変化することを恐れずに】

真中 一方、山田哲人も不振にあえいでいました。正直言えば、トリプルスリーを達成していた頃と比べれば少しずつ落ちてきていると思います。監督は山田をどう見ていますか?

髙津 球団と長期契約を結んだこと。自らキャプテンとなったこと。彼の場合は、いろいろなことを考えながらプレーや行動をしているのが伝わってきます。そうしたなかで結果が出ていないことに責任を感じているでしょうし、トリプルスリーの頃と比べて落ちてきているというのも自覚しているのかもしれない。

 ただ、ここからズルズルと落ちていくのか、それとも上向いていくのかは本人次第としか言えないです。

もう一度、身体をいじめ抜いて、自分を追い込んで、走り込んで、打ち込んで、哲人らしいバッティングを再び見たいというのは、個人的な希望でもありますね。

「村上宗隆は苦しんでいる感じがした」「山田哲人は落ちてきている自覚があるかも」髙津臣吾監督と真中満がヤクルト打線を語り合う
真中 沖縄キャンプに取材へ行った時、彼がいろいろな練習に取り組んでいる姿を見ました。彼自身も、マイナーチェンジを図ろうとしている思いも伝わってきます。「今までの自分」という殻を打ち破って、何とか「新しい自分」を探してほしいですよね。

髙津 やっぱり、変化を恐れちゃいけない。変わることを恐れずに、新しいことにどんどん取り組んでほしい。
シーズン中は難しいけど、オフシーズンの間には、どんどん変わったことをしてほしい。いろいろなことにトライしたうえで、何をやってもダメでした、となったら、潔くやめるしかない。でも、哲人なら大丈夫。哲人はやりますよ。

真中 僕としても、そう願います。ぜひやってほしいですね。2024年シーズンも、監督自ら山田をキャプテンに指名したそうですね。それはどういう意図なんですか?

髙津 わりと早い段階で彼には伝えました。「来年もやるか?」って聞いたら、「お任せします」と言うので、「じゃあ、頼むぞ」ということになりました。彼には、いわゆるカリスマ的なキャプテンシーはないけど、その代わり、視野が広く、回りをきちんと見ることができます。守備の際のポジショニングはもちろん、回りの選手たちのこともきちんと見ている。キャプテンをやることで、すごく人間性も変わった。だったら、引き続きやるのもありかなという理由で指名しました。

【内山壮真の起用で温めているアイディア】

真中 2023年シーズン、打順のつながりという意味において、「一番・塩見泰隆」が欠場気味だったことがすごく痛かったと、僕は感じているんですけど、この点はどうですか?

髙津 「打てない」「走れない」というのは、まだいいんです。でも、「そこにいない」というのがいちばん痛い。たとえば、いくら不調でも、そこに村上がいれば相手は嫌がるんです。でも、村上がいないとなれば、相手は何も怖くなくなる。ある意味では、他球団にとってのそこにいたらイヤな存在って、村上よりも塩見なのかもしれない。そう思うこともありますね。

真中 監督目線で言えば、一番に塩見がいると、九番に代打が出しやすくなりますよね。九番、ピッチャーのところで代打・川端慎吾を起用する。相手としては、一番に塩見がいるから勝負するしかない。そうなれば、得点チャンスはグッと広がりますからね。でも、塩見がいないことで、川端との勝負を避けられてしまう。そういうシーンが目立ちましたね。

髙津 そう、たしかにそれは強く感じましたね。

真中 キャッチャーで言えば中村悠平がかなり成長したこと。その一方で、内山壮真を捕手兼外野手として起用したことも印象的でした。この点についてはいかがですか?

髙津 中村に関しては、ここ数年で大人になったというか、しっかりしたなという印象ですね。きちんと口に出して注文をつけるようになったし、若いピッチャーを引っ張ろうという責任が強く目立つようになりました。若いピッチャーにとっては大きな存在となっていると思いますね。

「村上宗隆は苦しんでいる感じがした」「山田哲人は落ちてきている自覚があるかも」髙津臣吾監督と真中満がヤクルト打線を語り合う
真中 打たれてもシュンとするのではなく、きちんと前を向いて次に対応しているように見えますからね。一方の内山壮真はどうですか?

髙津 2023年は外野手にも挑戦させたけど、外野手としてのビッグプレーも多かったし、守備固めで起用することもありましたしね。彼の場合は、少々成績が悪くても、一軍のピッチャーと対戦させて経験を積ませたいという思いはありますね。

真中 そうなると、2024年も捕手として、外野としての起用となりそうですか?

髙津 これはどうなるかはまだわからないし、今は公表しないけど、少しでも出場機会を増やすために、じつはもう1プラン考えています。現状の正捕手は、やっぱり中村なので、壮真に関しては別のプランでの起用もしたいと思っていますね。

真中 まだまだ伸びしろは大きいので、それは楽しみですね。

後編<「ヤクルトに足りないもの」を髙津臣吾監督が真中満に明かす 2024年は「選手たちの尻をどんどん叩いていく」>を読む

前編<「高橋奎二には怒鳴る寸前までいきます」ヤクルト髙津臣吾監督が真中満の投手陣への鋭い指摘に本音を明かす>を読む

【プロフィール】
髙津臣吾 たかつ・しんご 
1968年、広島県生まれ。広島工高、亜細亜大を卒業後、1990年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。守護神として活躍し、4度の最優秀救援投手に輝く。2004年、MLBシカゴ・ホワイトソックスへ移籍。その後、ヤクルト復帰や、韓国、台湾のプロ野球、独立リーグ・新潟アルビレックスBCを経て、2012年に現役引退。ヤクルトの一軍投手コーチや二軍監督を務めたのち、2020年から一軍監督に就任。2021年は日本一、2022年は2年連続リーグ優勝を果たした。

真中満 まなか・みつる 
1971年、栃木県生まれ。宇都宮学園、日本大を卒業後、1992年ドラフト3位でヤクルトスワローズに入団。2001年には打率.312でリーグ優勝、日本一に貢献した。計4回の日本一を経験し、08年に現役引退。その後、ヤクルトの一軍チーフ打撃コーチなどを経て、監督に就任。15年にはチームをリーグ優勝に導いた。現在は、野球解説者として活躍している。