■『今こそ女子プロレス!』vol.15
駿河メイ 後編
(前編:148cmの天才レスラーがが語る、入団1カ月での衝撃デビュー>>)
2018年4月にプロレスリング我闘雲舞(ガトームーブ)の練習生になり、同年の5月27日に異例のスピードデビューした駿河メイ。デビューから1年でタイトルマッチに挑戦し、海外遠征を重ね、気づけば他団体や海外からも引っ張りだこの超人気レスラーになっていた。
【コロナ禍で掴んだ初めてのベルト】
コロナ禍でプロレス興行が軒並み中止になる中、我闘雲舞はどこよりも早く動き出した。YouTube Liveを活用した配信型のプロレス興行「チョコレートプロレス」(通称「チョコプロ」)を始めたのだ。2020年3月28日に行なわれた第一回目の対戦カードは、鈴木みのるvs.バリヤン・アッキ。プロレスに飢えていたファンたちを大いに喜ばせた。
「チョコプロを始めたことで、市ヶ谷でやっているプロレスを広めやすくなりました。毎回リアルタイムで世界中に届けられるようになったので、『ようやく始まったな』という感じでしたね」
5月30日、メイはバリヤン・アッキとタッグチーム「Best Bros(ベスト・ブローズ)」を結成した。
「ずっと夢を追いかけていて、どんどんその夢を叶えている。タッグとしては、初めて親友と呼べる人ができました。
ファイトスタイルもプロレス観も真逆。最初はケンカが絶えなかったが、コミュニケーションを取るうちに徐々にすり合わせができるようになった。
12月31日、Best Brosはリセット(さくらえみ&米山香織)の持つアジアドリームタッグ王座に挑戦し、見事勝利。新王者に輝いた。メイにとって、初のタイトル戴冠となった。
ベルトを持ったことで、プロレスのことを"3倍"深く考えるようになったという。今までの自分たちだったら勝てない相手が、どんどんベルトに挑戦してくる。対戦相手のファイトスタイルやこれまでの試合だけでなく、生い立ちから調べて研究するようになった。
「自分はAというプロレスの考え方だったら、相手にはBという考え方がある。その考え方を完全には理解できなくても、理解しようとすることで、自分のプロレスの価値観も広がるし、いろんな考えができるようになりました」
11度の防衛を重ねたBest Brosだったが、2022年2月26日、チョコプロで行なわれたアジアドリームタッグ選手権試合でCDK(高梨将弘&クリス・ブルックス)に敗北。1年3カ月巻いたベルトを落とした時の喪失感はとてつもなく大きかったという。
【「小さい人間から出るエネルギーを、人は感じやすい」】
2022年4月29日、スターダム大田区総合体育館大会に出場。AZMとシングルマッチを行ない、スターダムファンを熱狂させた。2023年4月23日には、スターダム横浜アリーナ大会に出場。AZMとタッグを組み、スターライト・キッド&星来芽依組と対戦した。
普段、市ヶ谷の"世界で一番小さいプロレス会場"でマットプロレスをしているメイが横浜アリーナのリングで闘うとなれば、見える景色も闘い方も変わるのだろうと思ったが、意外にも「あまり変わらない」という。
「窓枠からジャンプしてたのが、ロープの反動を使えるようになったとか、リングのバウンドが使えるようになったとかは感じますけど、基本的に自分は変わらないです。『リングで見るほうが大きく見えるね』と言われるんですけど、小さい人間から出るエネルギーを、人は感じやすいのかなと思ってるんですよ」
海外で初めてロックバンドのライブに行った時、ボーカルの身長が低かったという。
2023年9月19日、高梨将弘20周年記念大会にて、"プロレス王"鈴木みのるとシングルマッチが組まれた。鈴木はメイと会場で会う度に「いつか絶対シングルがやりたい」と言っていたという。チョコプロ第一回目の大会に出場し、その後もチョコプロの試合を観てくれている鈴木に、「自分のすべてを見せつけなければ」とメイは思った。
体格差もあり、ファイトスタイルもまったく違う。どんな試合になるのかと思っていたら、鈴木は"駿河メイムーブ"を真似し、可愛いポーズまで取ってみせた。
「『この野郎!』でしかなかったです。『お前、そんなこともやるのか!』って。やられたなと思いましたね。その瞬間、一気に少年の目になったんですよ。『くそ、メイの試合で楽しみやがって!』という悔しさもありつつ、それが嬉しかったりもして、自分もどんどんテンションが上がった試合でした。自分は試合を楽しむことが特技だと思っているので、それ以上に楽しんでいる人を見ると、やっぱり悔しくなります」
【「お客さんが自分を肯定してくれる」】
2023年10月16日、Best Brosは前王者組の負傷により返上されたアジアドリームタッグ王座の王者決定戦にて、新納刃&米山香織に勝利。再びベルトを巻いた。
11月20日、新木場大会にて、Best BrosとCDKがベルトを賭けて対戦。メイとクリス・ブルックスの身長差は48cm。しかしメイは体格差を物ともせず、Best Brosはベルトを防衛。この試合は「我闘雲舞の最高傑作」と絶賛された。
「CDKとは、ひと言で言うとライバル。ひとりひとりへの思い入れがとても強い試合でした。特に高梨さんに関しては、さくらさんとはまた違う師匠だと思っているんです。さくらさんがプロレスの自由さを教えてくださったとしたら、高梨さんはプロレスの幹みたいな存在。そういう高梨さんと我闘雲舞のリングで、しかもベルトを賭けて闘えるということがとても嬉しかった。いろんな気持ちがあったからこそ、ああいう試合になったんだろうなと思います」
メイは気持ちが100%試合に出るタイプだという。尊敬している人や、「この人には負けたくない」という人と闘うほうが、いつもより強くなれる。もっと強くなりたい。自分が強くなれば、我闘雲舞も強くなれる。その姿を後輩たちに見せるためにも、自分はもっと強くならなければいけないと考えている。
今の一番の目標は、我闘雲舞の後楽園ホール大会を開催すること。モチベーションはそこに"全振り"しているという。
世界中の団体が、天才・駿河メイを欲しがっているはずだ。しかし彼女は市ヶ谷でマットプロレスをするほうを選ぶ。オリジナルソング『りりりんGO!』を歌い、チョコプロのポロシャツを着てレフェリーを務め、流暢な英語で海外に向けて配信する。そんな我闘雲舞の日常を、彼女は愛している。
「自分がやりたいと思うことは、すべて我闘雲舞で叶えられると思っています。海外に行くというのも、今どんどん進出しているところです。『別の団体に行かないの?』って言われることもあるんですけど、私の叶えたいことは全部我闘雲舞にある。だからここにいます」
メイにインタビューをして感じたのは、いかに普段、彼女が等身大の駿河メイでプロレスをしているかということだ。インタビュー中も試合と同じように笑い、試合と同じように喜怒哀楽を表す。メイの困った顔を見て、「どこかで見たことあるな」と思ったら、「そうだ、試合で見ている顔だ」と気づいた。
「プロレスって痛いし、しんどいし、体力も使うけど、"駿河メイ"として生きることができる。素のままの自分を出しているので、それを見て楽しんでくれたり、涙してくれる人がいたら、そのために頑張れます。お客さんが自分を肯定してくれますね。プロレスを通して人生が豊かになっていますし、本当にハッピーです」
さくらえみはメイのことを、「私にとって何度も悔しい思いをさせられるプロレスラー。この先もずっとそう思わせてほしい」と話す。その気持ちがわかるような気がした。インタビューを通して「この人には敵わないな」と思わされた場面が何度もあった。プロレスの試合同様に、自由奔放。単純明快なようで、掴みどころがない。プロレスでもインタビューでも、駿河メイに翻弄されるのはなんとも心地よい体験だ。
【コーチとしても天才】
インタビュー後、メイがコーチを務めるプロレス教室「誰でも女子プロレス」(通称「ダレジョ」)に参加させてもらった。参加者の年齢も目的もバラバラ。プロレスデビューを目指す女性もいれば、キッズクラスには2歳の女の子もいる。
コンセプトは、"安全なプロレスの動きだけを使い、誰にでもできるようにしたプロレス"。受身、ロックアップの練習に続き、メイのフィニッシュムーブのひとつである「プロペラクラッチ」を直々に教わる。「絶対、できないだろうな......」と思っていたが、メイが段階を踏んで丁寧に教えてくれたお陰で、最終的には"スロー"プロペラクラッチができるようになった。
なんといっても、メイの教え方がうますぎる。相手のレベルに合わせて的確なアドバイスをした上で、「これならできる」と思わせてくれる。天才レスラー・駿河メイは、コーチとしても天才だった。
プロレスは観るだけでも楽しいが、やってみるともっと楽しい。ダレジョに通っていた頃のメイも、きっとこんな気持ちだったのだろう。そして今もきっと、その延長線上にいる。「天才レスラー」と呼ばれるようになった今も、あの頃の楽しさを彼女は抱き続けているのだろうと思った。
【プロフィール】
駿河メイ(するが・めい)
1999年5月30日、京都府生まれ。2018年4月に上京し、プロレスリング我闘雲舞の練習生となる。同年5月27日、北沢タウンホール大会にて、さくらえみ戦でデビュー。2020年12月31日、バリヤン・アッキとのタッグでさくらえみ&米山香織を破り、アジアドリームタッグ新王者に輝く。11度防衛。2023年10月16日、米山香織&新納刃を破り、再びアジアドリームタッグ王者になり、現在防衛中。148cm。X(旧Twitter)@Mei_gtmv2