【父からの言葉「自信が足りない」に奮起】
昨シーズンはケガの治療に専念し、大会を欠場。今季、復帰した鍵山にとって四大陸選手権は3月の大舞台となる世界選手権へ向け、自身のレベルアップを確認していかなければいけない試合だった。
競技前にはこう意気込みを口にしていた。
「勝つための練習に数週間取り組んできました。とにかく攻めて1点でも多く加点できるように、スピンとかスケーティングの部分ももちろんそうですけど、そういう細かいところをしっかりと練習してきたので、四大陸選手権のタイトルは獲れるようにしたいです」
さらに新たにフリーに入れる4回転フリップに関してはこう述べていた。
「サルコウやトーループに比べて、フリップはまだ繊細な感覚でやっているというか、スピードだったり力の感じだったり、細かく意識しながら跳んでいます。そういうところを合わせるのは少し難しいですが、フリーでは(フリップが)2発目のジャンプなので最初のサルコウをしっかりと降りてなければいけない。その流れはすごく難しいけど、しっかり練習してきたので大丈夫だと思っています」
鍵山はSPで、その言葉どおりに自信があふれた滑りを見せた。
「全日本選手権のショートでは4回転サルコウを失敗しましたが、そのあとに父(鍵山正和コーチ)から『自信が足りない』とアドバイスをもらいました。今大会は、とにかく自信を。自分の練習を信じる自信をしっかりと持って、このショートを演技することができたと思います」
四大陸選手権に鍵山はまだジュニア選手だった2020年に出場し、羽生結弦とジェイソン・ブラウン(アメリカ)に次ぐ3位になっている。今回は、シニアとして初めて出るという感覚で、のびのびと滑れたという。
【今季世界2番目の得点で優勝】
その気迫は、2日後のフリーでも見せた。最初の4回転サルコウを4.43点の加点のジャンプにしたあと、4回転フリップはステップアウトで手をつく着氷になって3.46点減点された。
「結果的にステップアウトにはなってしまいましたが、しっかり体を締められました」と鍵山はフリップへの自信は揺るがなかった。そのあとのジャンプやスピン、ステップ、つなぎのスケーティングも音に合わせて変化するキレのある滑りを見せた。スピード豊かに滑りきり、演技後は氷上に両手と両膝をつくほど、力を出しきった。
結果は、今季最高の200.76点で合計は307.58点。
鍵山にとっては、北京五輪で銀メダルを獲得した時の310.05点に次ぐ2度目の300点台。これは、マリニンが昨年12月のGPファイナルで出した314.66点に次ぐ今季の世界2番目の得点。その差は大きなものではない。
フリーを見れば、4回転フリップを成功させられれば、あと5点強は上げられる計算だ。鍵山は「ジャンプもそうだけど、プログラムの細かい表現面だったりスピンだったり、GOE(出来ばえ点)をもっともっと稼いでいける部分もあったと思います」と課題も明確になった。
課題のひとつが演技後半の3回転ルッツ+3回転トーループでノット・クリア・エッジと判定されて、加点が伸びなかったことだ。さらに「1点でも多く」ということを追求するなら、現状は前半に入れているトリプルアクセル+ダブルアクセルを後半に入れ、ボーナス点を狙うのも今の鍵山なら可能だろう。
【宇野昌磨、マリニンと世界選手権で決戦へ】
宇野昌磨は昨年11月のNHK杯後の囲み取材で、「4回転の種類に注目するかもしれないけど、フリーでは3本くらい跳べば、そこからは本数ではなく、完成度の勝負だと思っている。4回転を多く跳んだから勝つというのではなく、(鍵山)優真くんの4回転サルコウはGOEの加点がすごいので、4回転ルッツ以上の点数がもらえたりする。僕にとってもGOEを上げることが、本当に必要になってくる」と話していた。
今回の鍵山の結果は、宇野のその言葉を証明するものであり、310点台にも十分乗せられる可能性も見せる結果だった。
「最強」への道を上り詰めようとしているマリニンに対抗しようとする宇野、今回で完全復調を印象づけた鍵山。フリーの自己最高が207.17点とポテンシャルの高さを見せているアダム・シャオ イム ファ(フランス)を含めた4人が、世界選手権で熾烈な表彰台争いを繰り広げそうだ。