Jリーグの海外移籍候補2~MF編

 日本サッカーは、過去に世界的ボランチを輩出してきた。

 フランクフルトの長谷部誠はその第一人者と言えるだろう。

ブンデスリーガではリベロとしても「皇帝」のごときプレーを見せ、戦術的なインテリジェンスは傑出。遠藤保仁とのコンビで、長く日本代表をけん引した。なかでも2018年ロシアワールドカップでのプレーは極まっていた。

「チームを引き回す」

 それがボランチの本分と言えるが、そのバランス感覚は日本人の特性に合っているのかもしれない。

 現在も遠藤航(リバプール)を筆頭に、守田英正(スポルティング)、田中碧(フォルトゥナ・デュッセルドルフ)、旗手怜央(セルティック)、橋本拳人(ウエスカ)は攻守両面でチームを動かしている。それ故に彼らはJリーグ時代、優勝、もしくは優勝に近い戦いの原動力になっている。

それぞ、センターバックだったり、元FWだったり、サイドバックもやっていたり、複数のポジションを経験しているのも特徴だ。

 そのMF部門では次世代も育っている。

 昨年9月には、サガン鳥栖から移籍した19歳の福井太智が、バイエルンのトップチームでデビューを飾っている(2026年6月まで契約を延長)。4部バイエルン・ミュンヘンⅡの所属だったが、そのフェーズを超えた。高いレベルでのプレーを求め、今年1月からはポルトガル1部のポルティモネンセに期限付き移籍し、エストレラ 戦で初出場を果たしている。

 今回はMF編として、ボランチを中心に次に欧州へ飛躍するJリーガーを探った――。

遠藤航ら欧州で確固たる地位築く日本のボランチ Jリーグで存在...の画像はこちら >>
 国内トップランナーと言えるMFは、鹿島アントラーズ佐野海舟(23歳)だろう。能力的にはいつでも海を渡れるレベルだ。欧州のボランチは「守りで弱点がないか」を求められるが、その水準をクリアしている。出足の早い潰しで、常にポジションをとる感覚があって、必然的にインターセプトが多くなっている点は魅力だろう。

 佐野はトランジションで質の高い役割を果たせるボランチで、攻撃での効果的なパスも出せる。攻守の回路をつなげられるというのだろうか。

アジアカップでは、遠藤、守田、旗手という欧州組との実力差も感じさせたが、欧州の高いレベルに適応することで、その才能はさらに開花するはずだ。

【貴重な左利きの川村拓夢】

 浦和レッズの伊藤敦樹(25歳)も、ポテンシャルの高さは日本代表でも証明済みだ。体格を生かした攻守が特長で、ダイナミックなプレーが売り。代表のトルコ戦で見せたゴールのように"一撃"も持っている。今シーズンはインサイドハーフでの起用が多くなりそうだが、オラ・ソルバッケンなど有力外国人選手とピッチに立つことで覚醒するか。

 サンフレッチェ広島の川村拓夢(24歳)は貴重な左利きボランチで、チームにダイナミズムを与えられる。

サッカーIQが高く、どのゾーンに入っても役割を心得ていることで、攻撃的なポジションやサイドなど、さまざまな役割もできる。左足のひと振りで試合を決められる選手だが、それは才能の一端に過ぎない。フィジカルギフテッドの選手で、長く、速く走れる体力の持ち主でもある。

 川村のような左利きボランチは過去の日本代表でも稀有で、欧州進出が期待される。その野心次第では、日本サッカーの新時代の扉を開けるかもしれない。

 以上の3人と比べると体格で劣るが、横浜F・マリノスのMF山根陸はプレーメーカーとしての奥行きを感じさせる。

パス出しひとつ、カバーリングのうまさだけでも、センスが横溢。プレーの渦を作り、試合をコントロールし、ボールを前に運べる。現代サッカーではサイドバックとボランチは符合性が高いが、昨シーズンは右サイドバックも任せられるなど、クレバーさも証明した。

 ただ山根のサイズでは、欧州へ飛躍するためには、プレーメイクや堅実な守備だけでなく、ゴール、もしくはゴールに直接関わる力が求められる。究極的なイメージとしては、スペイン代表のセルジ・ロベルトやクロアチア代表のルカ・モドリッチだろうか。欧州では後ろにもっとパワーのあるMFがいるだけに、2列目でも攻撃力を発揮できるかが重要になる。

 欧州ではポジション的ミッションを遂行できる選手が好まれる。たとえば「テクニカルだが、守備が弱い」となると、ボランチでは起用されない。そうなるとトップ下ということになるが、そこでは得点に絡む仕事が求められる。サイドだったら、速さを生かした崩しのプレーがあるか。「なんとなくうまい」という選手は適応できないし、激しい守備が売りだけの選手も、他の体格の大きな欧米の選手と比べると分が悪い。

 たとえばFC東京の松木玖生は肉体的な強さがあり、左足キックもセットプレーでは武器になる。同年代で、局面での強度は屈指。プロ1年目から戦えている点は特記すべき点だろう。しかし、守備ではポジションが取れず、しばしば背後をやられている。攻撃では崩すドリブルはなく、パスもシュートも意外性が乏しい。欧州レベルで見ればポジションが見つかっていないのだ。

 ボランチに関して言えば、長谷部に象徴されるように「周りを動かす」という相互作用が求められるのだ。
(つづく)