「PLAYBACK WBC」Memories of Glory

 昨年3月、第5回WBCで栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、大谷翔平ダルビッシュ有、山本由伸らの活躍もあり、1次ラウンド初戦の中国戦から決勝のアメリカ戦まで負けなしの全勝で3大会ぶり3度目の世界一を果たした。日本を熱狂と感動の渦に巻き込んだWBC制覇から1年、選手たちはまもなく始まるシーズンに向けて調整を行なっているが、スポルティーバでは昨年WBC期間中に配信された侍ジャパンの記事を再公開。

あらためて侍ジャパン栄光の軌跡を振り返りたい。 ※記事内容は配信当時のものになります

 日本代表が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の第4戦でオーストラリア代表と対戦し、7対1で下してグループ首位での準々決勝進出を決めた。日本は初回、3番・大谷翔平の3ランで先制。2回には1番のラーズ・ヌートバー、2番・近藤健介の連続タイムリーで2点を加えた。5回には8番・中村悠平のタイムリーでリードを広げた。

 投げては、先発の山本由伸が4回を被安打1で無失点、8奪三振の快投。

第2先発の高橋奎二が2回を無失点に抑えると、7回から大勢、湯浅京己、高橋宏斗とつないで勝利した。試合のポイントについて、2009年WBC代表で元阪神の岩田稔氏に聞いた。

侍ジャパンの準々決勝勝利へのカギを元阪神エースの岩田稔が分析...の画像はこちら >>

【試合を支配した大谷翔平の3ラン】

 オーストラリアとの全勝対決となったなか、1回表の大谷選手の3ランが本当に大きかった。初球のカーブを空振りして、2球目に同じカーブが少し甘く入ったところを完璧に打ちました。

 大谷選手はオーストラリアの配球データをしっかり頭に入れて、「相手のいいボールを打つ」と決めていたのかなと感じました。相手投手のいいボールを潰してしまえば、あとのバッターが攻めやすくなります。そういう意味で、大谷選手のひと振りでゲームを支配したと言ってもいいと思います。

 いま相手投手は、大谷選手と対戦したくないはずです。それくらいの威圧感を感じます。甘いコースにいったら全部ホームランというイメージがあるのではないでしょうか。もし打たれても「シングルヒットならOK」という割りきりができていればいいのですが、攻めきれなくて押し出し四球という場面が4回にありました。対戦しているピッチャーは、大谷選手を打席に迎えるだけで飲み込まれているように見えました。

 投手陣ですが、先発の山本投手はいきなり3点のリードをもらったことで、気持ち的にラクに入れたと思います。

真っすぐのキレがよく、相手バッターを押し込めていました。真っすぐでも変化球でも空振りがとれていたので、中村捕手もリードしやすかったんじゃないでしょうか。

 5回から2番手でマウンドに上がった高橋奎二投手も、普段からバッテリーを組んでいるだけあって中村捕手が持ち味を引き出す配球をしていました。右バッターのインコースに強いボールを投げて、チェンジアップもしっかり腕を振っていた。バッターはインコースを意識する分、低めに変化していくチェンジアップにバットが止まりませんでした。

 そして7回からマウンドに上がった大勢投手は、今大会初登板でおそらく緊張していたと思いますが、大胆なピッチングができていました。

僕がWBC初登板の時は地に足が着いていない感じがしましたが、それくらい緊張するものです。でも大勢投手は、そんなことを感じさせないくらい、堂々としたピッチングを披露していました。

【準々決勝のカギは?】

 オーストラリアとの全勝対決を制して侍ジャパンは1次リーグを首位通過しました。序盤から攻撃陣がリードを奪ったことで、投手陣は精神的にラクな状態で投げることができた。そうした意味でチームを引っ張ったのが、1番のヌートバー選手です。

 初戦の中国戦では初球をスイングしてセンター前ヒットを放ち、チームを勢いづけた。

オーストラリア戦でも、初回に際どいコースを見極めてフォアボールを選びました。そこから大谷選手の3ランにつながっていくわけですが、ヌートバー選手が出塁したことで一気にスイッチが入りました。

 1番のヌートバー選手から2番の近藤選手、3番の大谷選手と上位は好調ですので、今後は下位打線の出塁がより重要になってきます。

 オーストラリア戦では、2回に8番の中野拓夢選手が出塁し、盗塁を決めました。そして9番の中村選手がバントで送り、ヌートバー選手のタイムリーで得点するというシーンがありました。下位が小技を絡めてチャンスをつくり、上位で還すという理想的な形で得点しましたが、今後はこういう攻めがどれだけできるかがカギになります。

投手のレベルも上がってきますし、簡単には得点できません。連打で得点というよりは、機動力を絡めながら攻めたいところです。

 準々決勝からは一発勝負のトーナメント戦に入っていくわけですが、大谷選手との勝負を避けられることが想定できます。ポイントは、大谷選手のあとを打つ村上宗隆選手がどれだけ復調するかでしょう。

 ピッチャー目線で見ると、打席で少し立ち遅れている感じがします。だから、全部が差されているように見えます。結果が出ていないので焦る気持ちはわかりますが、「打ちたい、打ちたい」と気持ちが入りすぎると、余計に空回りするものです。考えすぎず、もっとラクな気持ちで打席に入ってほしいですね。

 ここまでキャッチャーは、先発投手によって甲斐拓也選手と中村選手を使い分けてきました。それで4連勝できたということは、バッテリーの選び方は成功しているので、今後も同じやり方をするのがいいと思います。

 今後の戦いで変わってくるのは、球数制限です。1次ラウンドは65球でしたが、準々決勝は80球になります。先発投手はリミットまでの球数が少し伸びるので、普段とより近い感覚で投げられるでしょう。第2先発でマウンドに上がったピッチャーも、総じてこの4試合はいい投球内容で持ち味を発揮できたと思います。

 準々決勝で対戦するイタリアは、1次ラウンド最終戦をいい形で勝利して勢いに乗っているでしょうが、日本はそれ以上にチーム状態がいい。1次ラウンドのような戦いをできれば、自ずと準決勝に進めるはずです。