岡崎慎司インタビュー(後編)

◆岡崎慎司・前編>>「仮に日本に帰るってなったら、清水エスパルス一択」
◆岡崎慎司・中編>>「ヨーロッパでボロボロになるまで...これがボロボロっていうことか」

 ここ数年、岡崎慎司はSNS上で自身のオピニオンを明らかにすることが増えた。2011年に移籍したドイツのシュツットガルトを皮切りに、岡崎の海外キャリアは今シーズンで14年目を迎えている。

 プレミアリーグでの優勝という華々しい時期も、スペイン2部や現在のシント・トロイデンのように5大リーグ以外でのプレーも経験した岡崎だからこそ、見える日本があり、意見も一聴の価値がある。酸いも甘いも散々舐め尽くしてきた岡崎は、次世代の欧州移籍のあり方をどう見ているのか、聞いてみたかった。

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《独占》引退を発表した岡崎慎司が今の海外組に思うこと「勘違い...の画像はこちら >>
── 最近の日本人選手の海外移籍のトレンドとして、高校卒業後すぐにドイツ・ブンデスリーガなどの下部組織にアマチュア契約で移籍するケースが増えています。それにはメリットとデメリットの両面があるように感じますが、岡崎選手はどう見ていますか?

「ひとつ言えるのは、めちゃくちゃいい経験だと思うんです。ヨーロッパに行けたからすごいというわけではなくて、この環境にいられることで、やっと海外でプロになるチャンスを掴めたと思うべき。

 高卒からJリーガーになるケースでも同じだけど、ちょっと活躍しただけでダメになる選手はいっぱいいるわけで。

僕は3~4年くらい活躍し続けてやっとプロだと思うので、まずは心構えですね」

── たしかに高卒や大学在学中から直接ヨーロッパに来る若手は、まだあくまでほとんどがアマチュア契約。トップチームへの挑戦権が得られただけの状況ですけど、メディアはまるでプロ契約を結んだような曖昧な形で報じがちです。

「周囲も自分もまだプロじゃないってことを、まずは理解しておくことが大事だと思いますね。あと、自分がどういうレベルにいるかってことをわかっておかなきゃいけない。そしてそれを、代理人や移籍をさせる周囲が選手に勘違いさせないことです。

 ヨーロッパのクラブがなにを考えているかと言えば、若い日本人選手を獲得して失敗しても、最悪の場合はもう一度日本のクラブに売ればいいっていうこと。

日本から若くていい選手を獲得すること自体、あまりリスクがないと思っているんです。

 一方、日本のクラブは若くして海外経験を積んできた選手になら、5000万円とか1億円とか払っちゃうと思う。だから、そういうマーケットも含めて戦えるクラブが日本には必要ですよね」

── 競争力が必要、ということですね。

「あと日本だと、獲得する選手に対して『君がほしい』ってクラブ側が下手に出る傾向にあると思います。若手が勘違いする環境も確実にあるので、そこからメンタルを変えるのはなかなか難しい。一旦、勘違いしてしまった選手がわずか1~2年で使われないようになって、次にJ3やJFLのクラブに行った時、彼らが『ここで結果を出して上に行くんだ』と本気で思えるかどうか。

 一方、高校から大学に進学し、『卒業後にプロになる』と決意して4年間やってきた選手と同じリーグで戦うようになった時、メンタルでどっちが強いか。最初から大学に行った選手のほうが強いんじゃないかと思ったりしますね。とはいえ、高校卒業時点でプロになれる選手だったら、僕はなるべきだとは思うんですけど。そのうえで勘違いせず、がんばるべきだと言いたい」

── 高校卒業後に日本でプロになるのも、海外でチャレンジするのも、どちらもスタート地点に立っただけ。若手が出場機会を得て成功を掴むのは簡単なことではないですね。

「何度もいろんな人がトライしてきたと聞きますけど、日本にはU-21やU-23のリーグや公式戦の場がどうしても必要だと思います。

練習試合を組むだけでなくて、公式戦でスカウトも見にくるような流れにすれば、出場機会のない選手にも刺激が入るのかなと。

 僕、ケガしているから、そんなことばっかり考えちゃいます。試合に出られてない選手のことを考えると、どうしてもかわいそうって思っちゃって」

── 若手の海外移籍の場合、4部リーグなどで出場機会が得られることは多いですよね。環境が恵まれているわけではないし、必ずしもトップに昇格できるわけでもありませんが、日本に比べて刺激はあるようです。

「そう。だから過度に海外移籍に期待するんじゃなくて、育てるという感覚が必要だと思います。

海外に行く選手に対して、日本人は一番厳しいなと思うんです。海外で出場機会のない人に対してとか、プレミアリーグに行った人に実力が足りていないとか、なんであいつが海外とか、いろいろ批判の声を耳にします」

── たとえば、ドイツ4部とのアマチュア契約や5大リーグ以外だと「行く意味があるのか」という厳しい意見もよく耳にします。

「僕が所属しているシント・トロイデンやベルギーリーグ全体を見ても、Jリーグよりお客さんが入らなかったり、グラウンド環境やトレーニングも日本より悪かったりします。それでも挑戦していること自体、周りもちゃんと評価してほしい。やらないとわからないことが多いと思うので。

 もしかしたらこの先、海外挑戦している若手たちも日本に戻らなくちゃいけなくなるかもしれない。

けれど、ヨーロッパの経験があることで、バーンと伸びる可能性もある。もちろん潰れちゃう可能性もありますけど、23歳くらいまでは『育成』という気持ちで見てあげてもいいと思いますよ」

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 ヨーロッパでの指導者──というチャレンジも考えている岡崎慎司の若手に送る視線は温かく、うれしくもなった。ケガを抱えながらもがき、年齢によるプレーの変化も受け止めつつ、トライし続ける環境を選択していきたいと繰り返す言葉に、あらためて彼らしさを感じた。

 シーズン途中での唐突な引退発表も、岡崎らしく思える。今後もあくまで岡崎らしく、泥臭く道を切り開いていくのだろう。

<了>


【profile】
岡崎慎司(おかざき・しんじ)
1986年4月16日生まれ、兵庫県宝塚市出身。2005年に兵庫・滝川第二高から清水エスパルスに加入し、プロ4年目から3年連続ふたケタ得点を記録。2011年1月にシュツットガルトに移籍し、マインツを経て2015年から所属したレスター・シティではクラブ初のプレミアリーグ優勝に貢献する。その後、マラガ→ウエスカ→カルタヘナを経て2022年よりシント・トロイデンに所属。2024年2月26日、今シーズンかぎりでの現役引退を発表した。日本代表歴119試合50得点。ポジション=FW。身長175cm、体重76kg。