チャンピオンズリーグ(CL)決勝トーナメント1回戦。勝利したのはパリ・サンジェルマン(VSレアル・ソシエダ)、バイエルン(VSラツィオ)、マンチェスター・シティ(VSコペンハーゲン)、レアル・マドリード(VSライプツィヒ)の4チームで、番狂わせは起きなかった。
先発フル出場を果たした久保建英(レアル・ソシエダ)、後半34分から出場した鎌田大地(ラツィオ)は、ともにこの試合を最後にCLの舞台から姿を消すことになった。残された日本人選手は冨安健洋(アーセナル)ひとり。チームはポルトとホーム戦を戦うが、現状では、そこで冨安が出場するか否かについては悲観的にならざるを得ない。
「W杯でベスト8以上を狙う」は、"平素のW杯"と言われるCLでもベスト8以上に毎シーズン、それなりの人数を送り込んでいないと、代表監督の采配がよほどさえない限りは、ない物ねだりに等しくなる。少なくとも来季はCLベスト8で複数の日本人選手が活躍することを望みたい。
上記の4試合の中で、3試合はレベル差のある内容だった。
一方、マジョルカ時代のチームメイトで、ともにアジアカップに出場したPSGのイ・ガンインは後半開始から出場。キリアン・エムバペのゴールを左足のラストパスで演出するなど、限られた出場時間のなかで数多くボールに触れ、存在感を発揮した。
久保の目には、その姿がさぞ眩しく写ったに違いない。来季も久保はレアル・ソシエダでプレーするつもりなのか。出世街道を歩むのか否かの岐路に立たされているように見える。CLの舞台に立つことを"いの一番"に考えて選択をすべきだろう。
【バロンドール級の一発】
イ・ガンインのパスを受けゴールを決めたエムバペは、その2点目もさることながら、前半15分に奪った先制弾が圧巻だった。左サイドで縦パスを受けると最深部に侵入。そこから切り返しのフェイントを2度入れた直後、その右足のインフロントから放たれた、巻くようなキックがサイドネットギリギリに吸い込まれていった。
左ウイングと言えば、三笘薫も世界を代表するウイングのひとりだが、エムバペのパワーとスピード、そしてフェイントのキレにはさすがに及ばない。まさにスーパースター級の一発だった。バロンドール級と言ってもいい。
昨季までリオネル・メッシ、ネイマールの陰に隠れ、その狭間で窮屈にプレーしていた印象だが、今季はふたりが去り、のびのびプレーしている。かつてはスピードがありすぎて、サッカー選手というより陸上の選手に見えたものだが、現在はそうした臭みが消え、すっかり高次元でバランスの取れたスター選手になった。来季は噂どおりレアル・マドリード入りするのだろうか。
そのレアル・マドリードはライプツィヒと対戦して1-1。合計スコア2-1(第1戦は0-1でレアル・マドリード勝利)という接戦をものにした。
光ったのはレアル・マドリードの左ウイング、ヴィニシウス・ジュニオールとジュード・ベリンガムのコンビネーションで奪った第2戦の先制ゴールだった。
この試合、レアル・マドリードは後半の頭からエドゥアルド・カマビンガに代えロドリゴを投入。これに伴い布陣はベリンガムを0トップに据える4-3-3から4-4-2に変化した。ベリンガムが左サイドハーフに移行したのに対し、ヴィニシウスは2トップの一角に回った。
だが、ヴィニシウスは左で構えることが好きなタイプだ。エムバペとポジション的な適性は完全に一致する。両スター選手が同じチームでやっていけるのかという疑念が湧くが、それはともかく、この試合の後半もヴィニシウスは実質的に左ウイング然と構えた。
【ヴィニシウスとベリンガムでも足りない?】
後半20分、カウンターからベリンガムが中央をドリブルで持ち上がる。ヴィニシウスはその左サイドを走った。その鼻先にボールを出すのかと思った瞬間だった。ヴィニシウスがゴール方向にあたる右斜め前方へとコースを急に変えた。と同時に、そこへベリンガムから縦パスが出た。これがアシストとなり、ヴィニシウスのゴールを生んだ。
ヴィニシウスとベリンガム。前半のふたりは、まるでかつてアーセナルで名コンビと言われた、ティエリ・アンリとデニス・ベルカンプの関係に近かった。ベリンガムといえばイングランド代表や前所属のドルトムント時代は中盤の選手だった。センターハーフ系だったが、今季移籍してきたレアル・マドリードでは、主に0トップの位置でアタッカー然と構える。カリム・ベンゼマの穴を埋めている。自らの商品価値を大幅に上げている。
ベンゼマとヴィニシウスも名コンビだった。2021-22シーズンのCL優勝は彼らのコンビネーションなしにはあり得なかった。それがいまベリンガムとヴィニシウスに変わった。CL優勝を狙えるレベルにあると言いたいが、世の中は絶えず進歩している。2年前はそれでよかったが、現在はそれでは物足りなく映る。通算スコア6-2コペンハーゲンに勝利したマンチェスター・シティの戦いぶりを見るとなおさらそう思う。
ふたりでは足りない。強力なアタッカーがもう一枚欲しい。とりわけ右からの攻撃に弱さを感じる。ライプツィヒに苦戦した理由だ。
マンチェスタ?・シティは2戦とも失点を許している。ホームで行なわれた第2戦でもコペンハーゲンに真ん中をきれいに割られている。それは欧州各地のレベルが上がっていると考えるべきだろう。
かつてのコペンハーゲン(たとえば中村俊輔が所属したセルティックとグループリーグで同居した2006-07シーズン当時)より、数段レベルは高かった。
優勝候補の本命とされるマンチェスター・シティでも0点で守りきれなくなっている。欧州サッカーは、選手の技量アップにともない、攻撃能力がディフェンス力を上回る状態にある。いくら守りを固めてもこじ開けられる。エムバペ、ヴィニシウス、ベリンガム、バイエルンでいえばハリー・ケイン、マンチェスター・シティでいえばアーリング・ハーランド......この日勝ち抜けたチームを見渡しても、アタッカー陣に豪華な顔ぶれが並ぶ。
ますます守り倒せない時代を迎えている。例外はインテルぐらいか。ラウンド16の戦いを見ていると、サッカーが競技として進化していることを再確認させられるである。守り勝つチームではなく、打ち勝つチームに幸運の女神は微笑むと見る。