ぶっちぎりの優勝だった。

「平林(清澄)さんが2年前に優勝していたので、今回は自分がという気持ちが強かったです」

 青木瑠郁(國學院大2年)は、表情を崩して優勝の味を噛みしめた。


 
國學院大・青木瑠郁が学生ハーフで優勝→青学・太田、駒澤・佐藤...の画像はこちら >>

 学生ハーフは、ロードシーズンと2023-2024シーズンの終わりを告げるガチンコのハーフレースだ。箱根駅伝後、このレースをターゲットにする選手が多いが、今回はFISUワールドユニバーシティゲームズ(旧ユニバーシアード競技大会)の代表選考会を兼ねておらず、そのため主力選手が出場しない大学もあった。それでも勝負レースで他大学のランナーと戦い、勝ちきることに意義がある。青木は、それを実践し、自らの強さを他大学に印象づけたことは非常に大きい。

 このレース、青木は特別なレースプランは考えていなかったという。
 
「調子が良かったですし、後半、勝負できれば勝ちきれると思っていました」

 前半、先頭集団の20mぐらいうしろについて、近くを走る選手の様子を見ていた。

10キロを過ぎると、みな汗をかき、かなりキツそうな表情をしていた。14キロ、青木は周囲の選手の表情を見て、行けると判断して前に出た。このままうしろから追いつかれたとしても振りきれるだけの余裕が残っていたからだ。勝負はここでほぼついたと言えよう。
 
「周囲はかなりキツそうだったんですが、自分は汗もあまりかかなかったですし、給水でクールダウンができていたので、全然キツくはなかったです。20キロを超えてもまったくうしろがついてこなかったので、もういっちゃえーって思って、そのままいきました」

 冷静に周囲の様子をうかがい、勝負どころでスパートをかけて、そのまま逃げきった。

 62分06秒での優勝だった。

 圧巻の走りを見せた青木だが、実は箱根駅伝後、右足の故障で1月はほとんど走れなかった。
 
 2月に入ってポイント練習を始めたが、余裕を持ってこなせるようになり、月間(29日間)で860キロもの距離を走った。
 
「僕は箱根駅伝が終わった後、このレースしか考えていませんでした。平林さんが大阪マラソンで勝ちましたし、自分もここで絶対に優勝するという気持ちでやってきました。狙ったレースでしっかり勝ちきれたので、素直にうれしいですね(笑)」

 レース後、前田康弘監督からは「優勝して当たり前みたいに思われていたなかで、勝ちきってくるのはさすがだな」と、言われたという。

 レースを見ていた駒澤大の藤田敦史監督は「勝負に勝つのは簡単ではないのですが、そこでしっかり勝ちきるところで本当の強さが身についてくるんです。青木君は、勝ちきって自信になったでしょうし、チームも勢いがつくのではないでしょうか」と、青木の走りを賞賛するとともに、國學院大の今後に警戒心を隠さなかった。

 確かに、ロードシーズンになり、國學院大の選手が活躍し、チームは勢いに乗っている雰囲気がある。神奈川マラソン(ハーフ)では木村文哉(3年)が63分10秒で2位に入り、宮古島駅伝では高山豪気(2年)らが出走し、5区間すべてトップの完全優勝を果たした。大阪マラソンでは、平林が2時間06分18秒で昨年、横田俊吾(青学大→JR東日本)が出した学生記録(2時間07分47秒)を更新し、初フルで初優勝。金栗杯玉名ハーフマラソン大会では上原琉翔(2年)が63分12秒の自己ベストをマークして3位に入った。

「今の國學院大の強さは、狙いにいったレースで実力を出しきれる、勝ちきれるところだと思います。出るレースは勝ちにいくというのをチームで決めているんですが、一人一人がレースで勝ちきるという気持ちで練習をしているんです。もちろん実力があっても難しいところがありますが、そういうなかでも結果を出しているので、チームはすごくいいムードです」と青木は語る。

 勝ちきる先には、やはり箱根で勝つという思いが非常に強いからでもある。

 昨年は出雲駅伝が4位、全日本大学駅伝は3位、てっぺんを狙った箱根駅伝はスタートの出遅れが響き、一度も優勝争いができぬまま総合5位に終わった。箱根は青学大が制したが、その反響と影響力は非常に大きく、出雲、全日本を制した駒澤大の2冠が霞んでしまった。

それゆえに、青木は4月からの新シーズンでは、箱根1本で勝負していくぐらいの覚悟でいかないといけないと考えている。
 
「今シーズンは、駒澤大学さんが出雲、全日本を取りましたけど、結局は箱根で勝った青学さんのシーズンになりました。いくら2冠をとっても箱根で勝ったチームのシーズンになってしまう。僕は箱根で優勝するために國學院大に入ってきましたし、箱根で勝つためにはハーフで力をつけていかないといけない。今回、学生ハーフで勝てたのは、自分にとってもチームにとっても大きいと思いますし、この流れを続けていかないといけないと思っています」

 青木は4月から3年生になり、上級生になる。箱根以降、新主将になった平林はマラソンのためにチームを離れていることが増えたが、チーム内では団結して、それぞれのレースで頑張っていくという気運が高まり、青木自身は自分がチームを引っ張るという気持ちでいたという。

「平林さんがいないなか、自分がやらないといけないという気持ちになりましたし、普段の練習でも自分が引っ張ることがかなり増えてきました。これからはエースとしての自覚を持って、やらないといけない。それは今、すごく感じています」

 青木が次期エースの自覚を持つようになったのは、もちろん1年時から箱根駅伝を走るなど同世代の中で抜けている存在でもあったからだが、エースの名を受けた先輩の姿を間近で見てきたことも大きい。國學院大のエースは先輩のエースから多くを学ぶ傾向にあり、平林は中西大翔(旭化成)から、青木は伊地知賢造(4年)から多くを学んだ。

「伊地知さんとは、この1年間、ずっと一緒にやってきたんです。趣味が合って、一緒に出掛けたりしましたし、練習ではよく自分を引っ張ってくれました。ほんとマンツーマンで一緒にいて、自分が一番深く関わった先輩だと思っています。伊地知さんに感謝の気持ちを伝えようと思って、このレースを走ったので優勝出来てホッとしましたし、少しはそういう気持ちを伝えられたのかなと思います」

 学生ハーフで、今シーズンはほぼ終了になる。

 青木にとって、2023-2024は、どういうシーズンだったのだろうか。

「自分たちの世代で言えば、全日本大学駅伝で僕ら1、2年生が3区から6区まで襷を繋ぐことができたのはすごく良かったですし、自分らの代はどの学年よりも一番まとまっているなと感じることができました。個人的には8月終わりぐらいから調子が良くなくて、故障したりして出雲は自分の出来としては30%ぐらい、全日本は70%ぐらいの出来でした。箱根では100%の力を発揮できるようにと思って走ったのですが、3区で太田蒼生(青学大)さん、佐藤圭汰(駒澤大)さんに力の差をまざまざと見せつけられてしまいました。この悔しさを忘れてはいけないですし、来年の箱根ではふたりに力負けしないように勝負していきたいなと思っています」

 負けず嫌いの表情が言葉の端々から感じされる。箱根で勝つために個人の力を上げていくためにもトラックシーズンでは結果を残していかなければならない。

「4月からのトラックシーズンは、10000mでは昨年、平林さんが出した27分55秒15というタイム、5000mでは13分30秒を切ることを目標にしています。5月の関東インカレでは、しっかりと結果を出して、力をつけて、来年の箱根駅伝に繋げていけたらと思っています」

 2年前、平林はこの学生ハーフで優勝してエースとして名乗りを上げ、現在の活躍に繋げていった。この学生ハーフの結果をはじめ青木のこれまでの実績とポテンシャル、さらにトラックシーズンで目標をクリアしていけば、箱根で力の差を見せつけられた太田や佐藤、さらに吉居駿恭(中大)ら大学生トップランナーの尻尾をしっかりと掴めるはずだ。