ブンデスリーガ、レバークーゼンは2位バイエルン・ミュンヘンを16ポイントも引き離し、歴史的な初優勝を成し遂げている。25勝4分けで無敗を誇り、11連覇中の絶対的王者バイエルンにつけ入る隙を与えなかった。

おまけに国内カップ戦でも決勝に進み、ヨーロッパリーグ(EL)もベスト8に進出。未曽有の躍進ぶりだ。

 その立役者と言えるのが、昨シーズン途中からチームを率いるスペイン人、シャビ・アロンソ監督だろう。

 アロンソは現役時代、世界有数のMFだった。レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)を皮切りに、リバプール、レアル・マドリード、バイエルンというビッグクラブでプレーを司り、2度のチャンピオンズリーグ優勝など数多くのタイトルを手にし、「常勝将軍」と"崇められた"。スペイン代表としても欧州選手権(2008年)、ワールドカップ(2010年)で頂点に立っている。

 ただ、監督の経歴は浅く、まだ42歳と若い。

 2017年夏に35歳で現役引退後、UEFAの監督ライセンスを取得し、2018-19シーズン、レアル・マドリードU-14を率いてライセンスを実効化した。2019-20シーズン、故郷のラ・レアルBを率いると、目覚ましいリーダーシップを発揮。1年目は多くの選手をトップチームに導き、2年目で2部に昇格させ、3年目の昨シーズンは2部を戦い、途中からレバークーゼンを率いた。就任当時は17位と1部残留を争っていたが、卓抜とした手腕で立て直し、最終順位を6位まで引き上げ、EL出場権をもたらした。そして今シーズンの無敵ぶりだ。

 その鮮やかな手腕に、今や「世界最高の名将」の呼び声も高いが、その正体とは?

歴史的ブンデス制覇を成し遂げたレバークーゼンのシャビ・アロン...の画像はこちら >>
 筆者は選手時代に2度、監督になってから1度、アロンソに現地でインタビューしている。

 初めてのインタビューは、彼が21歳の時だった。朴訥でシャイだが、言葉に一切の迷いがなく、強い意志を感じさせた。どこか人を引きつける力を持っていて、年齢に似合わない奥行きがあるというのか。兄であるミケル・アロンソが周りに合わせてはしゃぐところがあり、単純な明るさが印象に残っていただけに、思索的な姿は対照的だった。

【パスの練習ばかりしていた】

――君はレアル・ソシエダ、バルサでリーグ制覇を経験した名MF、ペリコ・アロンソを父に持つ"サラブレッド"。

お父さんの影響はあった?

 そう尋ねた時、アロンソが答えた言葉は、今振り返ると重厚感がある。

「正直に言うけど、いつボールを蹴り始めたか、覚えていない。親父がプロ選手だったんで、自然にボールを蹴っていたんだろう。プロになるのも、特別な意識はなかった。当然のことだと考えていた。周囲からは『おまえにはフットボーラーの血が流れている』とおだてられることもあったけど、気にしていなかった。

サッカーに向き合わないと明日はなく、ラクな世界ではないと知っていたから」

 プロサッカーという荒野で生き抜く術と覚悟を、ほとんど本来的に携えていて、それを練り上げてきたのだ。

 アロンソは18歳でラ・レアルとプロ契約するまで、育成専門のクラブ(トップチームがなく、他クラブと業務提携し、人材を供給する)のアンティグオコに所属し、勝負以上に技を磨いていた。

「シャビ(アロンソ)はシュートにあまり興味がなくて、パスばかり練習していたね。それもロングパスを蹴ろうと、取り憑かれたように必死だった」

 アンティグオコの関係者はそう明かしていた。

 アロンソは10代前半まで筋力が弱く、ロングキックは飛距離が出なかった。しかし、頑なにボールを通そうとした。

結果、球速が弱く、パスは何度もカットされ、コーチにはやめるように諭されたが......。

「あそこにボールを蹴ることができれば、必ずチャンスになる。なんで、それをしないの?」

 彼はそう言って譲らなかった。グランド管理者が呆れるほど遅くまで居残り、黙々と壁にボールをぶつけた。その強情さで、アロンソは美しい弾道のキックを身につけたのだ。

「シャビには彼だけの世界がある」

 アロンソは、そう言われてきた。

その世界とは、サッカースタイルに通じるだろう。スペイン、ドイツ、イングランドとプレーを重ねるなかで、それを極めてきた。

【レバークーゼン残留を決断】

「彼はまるでメトロノームだね。チームにリズムを与え、プレースピードを調節できる。何より徒党を組まないから周りに信頼され、集団を動かす器量があるんだ」

 気難しいジョゼ・モウリーニョでさえ、アロンソを手放しでそう褒め称え、自分の分身のように扱っていた。監督の思い描く世界を、自らのプレーで体現できたからだ。

――あなたは、ラファエル・ベニテス、モウリーニョ、カルロ・アンチェロッティ、そしてジョゼップ・グアルディオラの麾下で華々しいタイトルを獲っていますが、一番影響を受けた監督は?

 ラ・レアルBを率いて1年目のアロンソに、そう訊ねたことがある。

「影響は全員だよ。誰かひとりではないかな。結局のところ、監督は本人のパーソナリティだよ。どのように感じ、どのようなサッカーをしたいのか。監督はそれが自分のなかにないといけない。私は子どもの頃から、『もっとサッカーを理解するには?』って、いつも自分に問うてきた。90分プレーして勝ち負けで終わり、なんてあり得ない。どこで何をすればもっと向上できるのか、そのためには何が必要なのか、ずっと考えてきたんだ」

 アロンソは少年時代から監督としての素養を積んできた。監督歴は短いが、過ごした日々は濃密である。おかげで、誰よりも自分だけの世界を展開できるのだ。

「ヨハン・クライフが言っていたことだけど、『一番美しいのは、選手としてプレーすること。二番目に美しいのは監督』。私もそう思う。今は違う形だけど、選手を通じてサッカーを楽しんでいるよ。目標は設定していない。現役の時もそうだったけど、目の前のことを懸命にやってきた。日々、野心的に挑むつもりだけど、楽しみながら進みたい。結果は後からついてくるものさ」

 アロンソはそう語っていが、まさにその積み重ねで、今の快進撃がある。レアル・マドリード、リバプール、バイエルンなど古巣から熱烈なラブコールを受けたが、来シーズンもレバークーゼンを率いる決断をした。彼がそう決めたということは、それだけの必然があるのだろう。

 新たな伝説の開帳だ。