女子格闘家ファイル(7)

大島沙緒里インタビュー 後編

(前編:女王・伊澤星花戦へ「まずは挑戦するのに相応しい選手になる」>>)

 RIZINで4連勝を飾るなど勢いに乗る大島沙緒里の次戦は、『DEEP JEWELS 45』(5月26日/東京・ニューピアホール)でDEEP 女子&DEEP JEWELS ミクロ級ダブルタイトルマッチ 。DEEP JEWELS 同級王者の村上彩(フリー)とふたつのベルトを懸けて対戦する。

その次戦への意気込み、格闘家としてのターニングポイント、今後の目標について語った。

大島沙緒里が双子の母になり柔道を引退→「ちょっと運動を」と始...の画像はこちら >>

【柔道時代と格闘家になってからの違い】

――次戦はDEEP女子とDEEP JEWELSのダブルタイトルマッチですが、相手の村上選手は柔術の黒帯の選手ですね。

「1年前くらいに、1度だけグラップリングの練習をしたことがあるんですが、ホントに強かったです。その時は、どちらも本気ではなかったと思いますが、お互いに一本が取れませんでした。『いつか試合をするかもしれない』と意識していたんですけど、今まで戦ってきたどの選手よりも寝技ができると感じました。

 私も柔道をやっていましたが、今はそちらになかなか時間を割けなくて......柔術家は下から戦うのが得意で、たとえばクローズドガード(相手を自分の両脚の間に入れて、動けないように閉じ込めるガード)に入られた時は抜け出せない。その技術の高さには驚かされます。

対策も考えていて、引き込んできた場合とか、いろんな展開を考えて練習しています」

――ふたりとも寝技が得意ですが、タイプは少し違いますか?

「そうですね、村上選手は、正確で技術的な寝技を展開するイメージ。キープして制圧できる感じです。私は一本を取ることを急いでしまうので、後でよく怒られます(笑)。『もう少しキープして、パウンドを打って様子見してもいいんだよ』とか」

――取り急いでしまう理由は?

「グラップリングの練習をしている時、抑え込むという習慣がないんですよね。次々と仕掛けて取りに行く感じです。少し焦りがあるのかもしれません。

ブレイクで戻されたりするのも嫌ですし、判定勝ちは狙っていなくて『1本で勝ちたい』という気持ちが強いので」

――柔道時代からそうですか?

「柔道時代は違いました。柔道を3歳から始めたというプライドもあって、後から入ってきた後輩に投げられたくなくて守りに入ることが多かったんです。それでも練習では強かったのですが、試合ではなかなか力を出し切れませんでした。

 逆に格闘技では、練習で弱くて(笑)。打撃が怖いと感じることが多く、練習では打ち合わなかったんですけど、ちょっとずつ逃げないようになってきました」

【「ちょっと運動を」からRIZINへ】

――試合では積極果敢に打ち合う場面もありますが、別のスイッチが入るんですか?

「試合ではアドレナリンが出ているのもあると思うんですけど、当てられたらやり返さないと負けちゃうので。試合中は痛みも感じないし、怖いとも思わないんですよね」

――RENA選手は打撃力が高い選手ですが、スパーリングなどで相手をすることはありますか?

「やります。当たり前ですが、うまくて強い。

こっちのレベルに合わせてくれますけど、全然かなわないです。RENA選手は寝技も強いですよ」

――AACCには女子のトップ選手が集まっています。いい練習ができるなどメリットもある一方で、"同門対決"を避けると試合が順番待ちになることもあるのでは?

「そうですね。でも正直なところ、自分でもここまで来られると思っていなかったんです。もちろん格闘技を始めた時は上を目指していましたが、DEEP JEWELSにはパク・シウ選手もいたり、強い選手がたくさんいたので、RIZINまで辿り着くとも思いませんでした」

――柔道では国内トップクラスでしたが、格闘技ではそこまで自信が持てなかった?

「そうですね。ただ柔道も、19歳以下の大会(全日本ジュニア・2014年)では優勝したんですが、その時は44kg級でしたから。

20歳以上になると48kg級からなので、私の体格(149cm)だと体重が足りなくなって厳しかった部分があります。ただ、私と同じ位の身長の選手でもオリンピックに出たりしていますし、ただ単純に自分が弱かったから、大きな舞台には届かなかったということです」

――柔道時代の最終目標は、やはりオリンピック?

「オリンピックは最終選考にも出られなかったので、視界に入っていませんでした」

――柔道でのキャリアを終えた後に格闘技の道に進んだのは、戦うことに未練があったからですか?

「柔道は、結婚して子どもができたので引退しました。子どもが生まれた後も『まだ柔道を続けたい』という気持ちがありましたが、子育てを優先したんです。でも、その後に東海大学柔道部の同級生(本野美樹)が格闘技の試合に出場すると聞き、応援に行ったら『自分も......』となったんです」

 でも、最初は軽い気持ちで始めたんですけどね。日々の家事と子育てに追われて、まったく体を動かせていなかったので、ちょっと運動をしたくなったんです」

――それが、今ではRIZINのリングに上がっているわけですから、人生はわからないものですね。

「やっぱり、勝ちたくなるんです(笑)」

【双子の娘は戦う母をどう見ている?】

――格闘技の世界で「やっていける」と思えた、ターニングポイントとなった試合はありますか?

「柔道を20年間やったあとだったので、当初はMMAに没頭することができませんでした。

でも、『DEEP JEWELS』(2020年9月)でパク・シウ選手に判定負けして、その後に出場したアトム級グランプリ(2021年3月)でまたパク選手と当たる可能性があるとわかった時、気持ちが変わりました。パク選手は練習の虫だそうで、努力の天才と聞いていましたし、『同じくらい練習しないとダメだ』と火が付きました」

――女子格闘技全体を見ると、以前に比べて話題が少なくなった印象もありますが、その点についてどう感じていますか?

山本美憂さんも引退されましたし、注目度が落ちたことは感じています。RIZINに、DEEP JEWELSの選手が多く出ていますし、新たな対戦カードを組むのが難しい状況なのもあると思います。

 あと、RIZINの49kg級は海外では一般的な階級でないため、海外選手を招くのに影響があるのかもしれません。52kg級の選手が体重を落とすか、2月に戦ったクレア選手はアメリカの団体では47.6kgで戦っているので、RIZINでは少し上げていました。そんな状況もあって、海外の選手とのマッチメイクが難しいのかなと」

――そんな状況でも奮闘する大島選手の姿を、双子の娘さん(5歳)はどのくらい理解しているんですか?

「子どもが1歳になる前に格闘技を始めて、ミクロ級のベルトを獲った時(2020年)は泣いていました。

たぶん怖かったんでしょう。今では、試合後にリングに上がれることがあることがわかっていて(笑)。BLACK COMBATとの対抗戦で負けた時は、『なんで入れないの?』という感じでした」

――ここまでは、強いお母さんを見せられているんじゃないですか?

「そうだといいですね。娘たちは格闘技のことを『ヤーヤー』と言っています。柔道で一本を取るときの掛け声の『ヤァ!』から来ているんだと思うんですが、『ママ、ヤーヤーの練習に行くの?』と聞いてきます(笑)」

――お子さんの話をされる時の大島選手は、笑顔があふれますね。試合で勝利した姿を娘さんに見せること以外に、戦うモチベーションは何ですか?

「周囲のさまざまな方の理解と協力があって格闘技を続けることができていますし、その方たちのためにもという思いもあります。あとは、とにかく次の試合を絶対勝つこと。そして最終的には、RIZINのベルトを巻くことですね。まだまだ上を目指して戦っていきます!」

【プロフィール】
■大島沙緒里(おおしま・さおり)

3歳から始めた柔道では、2014年9月の全日本ジュニア体重別選手権女子44kg級で優勝。同じ大学で同級生の本野美樹のプロデビュー戦を観戦後にMMA転向を決意し、AACCに入門。2019年の全日本アマチュア修斗優勝、2020年9月のDEEPで女子ミクロ級王者に輝いた。2021年3月のDEEP JEWELSアトム級GPを制し、アトム級の王座も獲得。RIZINデビュー戦となった2021年10月の浅倉カンナ戦を判定勝利。その後も勝利を重ね、RIZINでは4連勝中。