女子格闘家ファイル(7)

大島沙緒里インタビュー 前編

 柔道の畳からMMAのリング・ケージへと舞台を変え、DEEP女子ミクロ級、DEEP JEWELSアトム級のベルトを手にした大島沙緒里(29歳/AACC)。RIZINでは2021年10月のデビュー以来、国内外の強敵を次々と撃破し、今年2月の『RIZIN LANDMARK 8 in SAGA』でクレア・ロペスに腕十字で一本勝ちを収めて4連勝を飾った。

双子の女の子のママでもある大島に、子育てとの両立や無敗の女王・伊澤星花戦への思いなどを聞いた。

RIZIN4連勝中の双子の母・大島沙緒里、女王・伊澤星花戦へ...の画像はこちら >>

【10日前の試合オファー、旅行に行ってから練習開始】

――ジム(AACC)の同門、浜崎朱加選手の怪我によって急遽『RIZIN LANDMARK 8』に参戦して見事な一本勝ち。試合に向けたコンディションの調整はいかがでしたか?

「朱加さんが出られなくなった時点で、『同じジム、同じ階級の私に試合が回ってくるかな』という予想はしていました。実際は、試合の10日前の金曜日にオファーがあったんですが、翌日からの土日に友達とのふたり旅行の予定を入れていたんです。私がキャンセルすると友達がひとりになってしまうので、悩みましたね」

――短い準備期間なのに、そのうちの2日間を旅行に使うことになるわけですからね。

「そうなんです。でも、周りと相談したら『旅行から帰ってきたあとに、集中して練習すればいい』と。

結局、旅行を楽しんでから練習に打ち込みました(笑)」

――DEEPではミクロ級(44kg)とアトム級(48kg)で戦っていたことを考えると、RIZINは49kgでの参戦なので減量の幅は少なかったのでは?

「ナチュラルウェイトは50kgくらいで、トレーニングをしたらすぐ落ちちゃうので減量の心配はありませんでした。普段は子育てもあるので、限られた時間のなかで苦手な部分を強化する練習を中心にやっています。試合が近づくと、1日に2部練、3部練と、ギュッと詰める感じです。

 AACCはプロ選手の練習時間が夜で、19時半か20時くらいに始まって終わるのが22時過ぎ。細かいところを詰めたりすると、23時半くらいになることもあります。そこから車で自宅に帰ると、寝るのは24時過ぎになるんですよね」

――小さなお子さんを持つ母親としては、ちょっと厳しいスケジュールですね。

「やっぱり、寝る時は一緒にいたいですね。子どもは21時くらいに寝て、朝5時半とかに起きちゃうので、同時にこちらも起こされてという感じです(笑)。今も練習拠点はいくつかありますが、子育てと練習をうまくスケジューリングするために、昼間に練習できるジムも探しています」

【2連敗をするかもしれないことへのプレッシャー】

――強化している苦手な部分というのは、主に打撃になりますか?

「そうですね。横浜のセンター北駅の近くにある『GTジム』でキックボクシングやムエタイ、鴨居駅近くにある『花形ボクシングジム』でボクシングに取り組んでます」

――今年2月のクレア・ロペス戦では、打撃でも積極的に打ち合う場面が見られました。

「ちょっとスタイルを変えました。これまでは、ボクシングよりムエタイを習うほうが多かったので、構えが後ろ重心だったんです。そうすると、タックルにいくタイミングが遅れてしまう。

クレア戦が決まる前は、ボクシングに週2日ペースで通っていたので、自然と前重心になっていましたね」

――袈裟固めの状態から何回か返されましたが、最後は腕十字を極め切りましたね。

「『絶対また返される』と思ったので自分から先に回ったら、クレア選手の手が私の体の真ん中に来たので、『あっ、十字』と思って(笑)。クレア選手は元体操選手で体が柔らかくて、フィジカルも驚くほど強かった。自分でも『よく一本取れたな』と思います」

――勝利を決めて大歓声の中、両手で顔を覆ったシーンが印象的でした。

「これまでも勝ったり負けたりしてきましたが、2連敗はしたことがなくて(前戦の2023年9月『DEEP JEWELS&BLACK COMBATアトム級ダブルタイトルマッチ』パク・シユン戦で判定負け)。だから、『ここで負けたらこの先どうしよう』と思っていたんです。

準備期間が短いとはいえ、絶対に落とせない試合だと思って挑んだので、『本当に勝ってよかったぁ』という思いが溢れました。さまざまな思いが詰まった1勝でしたね」

【低身長は決してマイナスではない】

――ここまで17戦13勝、そのうち9勝が一本、1勝がKO。"極め"の力が際立っていますね。

「自分の武器とかはあまり気にしたことがなくて、自分がこれまで何試合したのかもあまり覚えてないんです(笑)。目の前の試合をひとつひとつ積み上げてきた感じ。定期的に試合をしたくて、複数の階級で戦っているから試合数も増えてきましたね。去年は52.5kgでも試合をしましたし」

――ソルト戦(2023年6月24日の『RIZIN.43』)ですね。

1ラウンド、Ⅴクロスアームロックで勝利しましたが、身長差(ソルトは167㎝、大島は149㎝)やリーチ差は気になりました?

「ずっと、私より大きい選手とばかりやっているので、そこまでは。逆に『自分と同じ大きさの選手とやったらどうなんだろう』と思うこともあります。小さいと組みつきやすかったりするので、体格差を逆手にとって戦っています」

――組みやタックルが得意な選手の場合は、体格差がマイナスにばかり働くわけでもない?

「そう思います。私は柔道がベースで胴に組みついたりしますから、身長差があるほうがやりやすいんです。実は、今までタックルを練習したことがそんなになくて......。練習しなきゃいけないとは思っているんですけど、やっぱり組んでから倒していくほうが多いですね」

【女王・伊澤星花への思い】

――試合後の会見では、「RIZINでは4連勝中なので、伊澤(星花/現・RIZINスーパーアトム級王者)さんにも挑戦したいな」との発言もありました。

「いつかはやりたいと思っていますし、クレア選手と試合が決まってから、周りからも『勝ったら言いなよ』と言われてもいました。でも、さまざまな事情もあって、伊澤選手との対戦がすぐには実現しないことは自分でもわかっています。やはりRIZINの女子選手で、伊澤選手とまだ戦っていない人が優先されるでしょうから。だから、ちょっと控えめにお願いしました(笑)」

――RENA選手も2022年の「スーパーアトム級トーナメント」の準決勝で当たる予定だったのが、ケガ(眼窩底骨折)で流れたままですしね。

「そうですね。だから、まずは5月26日の『DEEP JEWELS』(村上彩戦)で勝って、その後も経験を積んでいって、最後に伊澤選手とやれればいいのかなと思っています。今、伊澤選手が1番強いということは理解しています。順番はなかなか回ってこないでしょうし、まずは自分が挑戦するのに相応しい選手になる。それから考えればいいかなと。

RIZINでは山本美憂さんや朝倉カンナ選手とも試合して、『行き詰まっちゃうな』と目標が見えなくなった時期もありました。でも今は、段階的に自分を高めていく方向で考えています」

――モチベーションが上がるプランができたということですね?

「そうですね。挑戦するしかないって感じです(笑)」

――伊澤選手は同じ柔道がベースですが、選手としての印象は?

「年齢も違うし(伊澤は1997年生まれ、大島は1994年生まれ)、あまり柔道をしている時代を知らないんです。ただ、グラップリングのデビュー戦で、私の練習パートナーである杉内由紀さんと引き分けていた。私は杉内さんにめちゃくちゃ取られるので、かなり寝技が強いんだろうと想像できます。でも、自分も打撃が強くなってますし、それを活かして戦えるかなとは思っています」

(後編:双子の母になり柔道を引退→「ちょっと運動を」と始めた格闘技でRIZINのリングに辿り着くまで>>)

【プロフィール】
■大島沙緒里(おおしま・さおり)

3歳から始めた柔道では、2014年9月の全日本ジュニア体重別選手権女子44kg級で優勝。同じ大学で同級生の本野美樹のプロデビュー戦を観戦後にMMA転向を決意し、AACCに入門。2019年の全日本アマチュア修斗優勝、2020年9月のDEEPで女子ミクロ級王者に輝いた。2021年3月のDEEP JEWELSアトム級GPを制し、アトム級の王座も獲得。RIZINデビュー戦となった2021年10月の浅倉カンナ戦を判定勝利。その後も勝利を重ね、RIZINでは4連勝中。