圧倒的な強さを見せつけ箱根駅伝総合優勝を果たした青山学院大。2015年の初優勝以来、実に11大会で8度目の優勝と黄金期が続いているが、今シーズン青学大史上最強と言われた4年生の出走者6人が卒業。
果たして原晋監督はどのようなチームづくりを行なっていくのか? チームの中心となるべき選手は誰になるのか?
【取材を通して感じた4年生6人の個性】
これだけのスターがそろっていたのは、青学大といえど、初めてだったかもしれない。
箱根駅伝を4回走り、そのすべてで結果を残した太田蒼生。取材でも太田はいつも自分のスタンスを大切にしているのが伝わってきた。何にも影響されない芯の強さと言っていいだろうか。
「若の神」と呼ばれ、3度山上りに挑戦して優勝を引き寄せた若林宏樹。座談会に出席してもらうと、ほかのメンバーの発言などを聞きながら、大人に気をつかう面を見せてくれた。気づかいの人と感じていた。
6区で前人未到の56分台に突入した野村昭夢。私は野村のことを「キャプテン・キャラ」と思っていた。本人は「全然そんなことないですよ」と笑って話すが、太田とは違う内面の強さを感じていた。
そして高校時代は世代トップと目されていた鶴川正也。大学入学後には苦戦を強いられ、ようやく4年生にして箱根駅伝にデビュー。
「多士済々というか、本当に個性が豊かな同級生たちでした」
そう話すのは、キャプテンの田中悠登。これだけの個性を、ひとつの方向へとまとめていく「巻き込み力」には目を見張るものがあった。
そして今回の箱根駅伝では野村の区間新に触発され、思いきって突っ込んだのが7区の白石光星。「スター」に囲まれた環境で気後れすることなく、自分の力を伸ばしていった白石を見るにつけ、この学年は全員で強くなっていったのだなあと思う。
4年生は、2月上旬に町田寮から巣立つ時を迎える。それは、6人の箱根駅伝優勝メンバーが抜けるということを意味する。
「来年の箱根駅伝は大変かもしれませんが、後輩たちには頑張ってほしい。実際、優勝できるポテンシャルはありますよ」
そう話すのは、鶴川だ。大駒が数多く抜けるが、それを埋め合わせる後輩たちがたくさんいるというのだ。
来年の箱根駅伝では、3区から7区までの連続する5区間に加え、今回は田中が走った復路の重点区間、9区の穴を埋めなければならない。
青学大はこの11年間で8度の優勝を遂げているが(まさに黄金期である)、では、優勝した大会で4年生がどれだけ走っていたか、見てみることにする。
2015年 2人(藤川拓也、高橋宗司)
2016年 4人(神野大地、久保田和真、小椋裕介、渡邉利典)
2017年 4人(一色恭志、秋山雄飛、池田生成、安藤悠哉)
2018年 3人(田村和希、下田裕太、近藤修一郎)
2020年 4人(鈴木塁人、吉田祐也、谷野航平、中村友哉)
2022年 2人(飯田貴之、高橋勇輝)
2024年 3人(佐藤一世、山内健登、倉本玄太)
2025年 6人
6人も卒業したチームは、これまでなかったのだ。その意味では、原晋監督にとってもチャレンジングなシーズンになる。
【軸となる箱根経験者と待たれる2年生世代の台頭】
今回の優勝チームでは、1区・宇田川瞬矢(3年)、2区・黒田朝日(3年)、8区・塩出翔太(3年)、10区小河原陽琉(1年)が残る。頼もしいのは、来年も黒田が残ることだ。黒田が順調であれば、2区で間違いなくトップ、あるいは首位が見える位置でたすきを渡せるだろう。それほど、黒田はレースで外さない。黒田がいることによって、青学大は間違いなく往路で流れに乗れる。
課題となるのは、3区・鶴川、4区・太田の穴になるが、1年生に期待がかかる。
高校時代、世代ナンバーワンの実力を誇った折田壮太、昨年11月の世田谷246ハーフで優勝し、箱根駅伝でも10区の最終候補者に残っていた安島莉玖、そして高校3年時に5000mで13分34秒20のタイムをマークしている飯田翔大といった面々の成長がポイントとなる。
つまり、10人のメンバーはそろうが、彼らが大駒としての働きができるかどうかが重要となる。昨年、鶴川は春のトラックシーズンから絶好調で、駅伝の季節に入ってからも好調を維持した。
来年度に向けて大きかったのは、今回の箱根駅伝で、1年生の小河原が10区で区間賞を取ったことだ。これが同級生たちへの大きな刺激になっているのは間違いない。そしてまた、この2年間でまだ箱根駅伝の出場者がいない2年生にとっては、来年度が背水の陣といってもいい状況となる。来年の青学大は学年間の競争意識が激しくなる。これは、青学大が強くなるための条件のひとつだ。
ただし、もうひとつ大きな課題がある。
これまで優勝したチームのなかで、5区、6区の選手がそろって卒業したことはなかった。
今大会が終わったあと、瀬古利彦氏と話す機会があったが、「結局、箱根駅伝は"山"なんですよ。早稲田が優勝した時を振り返っても金さん(哲彦・現解説者)が5区を走った時でしたから」と話していた。
その意味で、4年間で3度、5区を担当した若林が卒業する穴は大きい。よくよく考えてみると、優勝できなかったのは若林が2年生の時に体調不良で走れなかった時だけなのだ。
加えて、野村の「56分台」の穴も大きい。普通に考えれば、ここで2分のマイナスとなる。もちろん、今年も野村のほかに山下り候補は育成しており、58分台で走れるポテンシャルの選手はいる。しかし、総合優勝を決めるほどのインパクトを与えられる選手がいるかどうかというと、それはまた別の話になる。
こうして来年度を概観していくと、6人の卒業生の穴を埋めたうえで、特殊区間要員を養成する必要があるということだ。
ふつう、これだけの課題を解決するのは難事で、「ミッション・インポッシブル」に思える。しかし、青学大の部内競争力はこのミッションを可能にするかもしれない。
新入生も含め、今年も春から青山学院から目が離せない。