現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 久保建英はラ・リーガのレガネス戦で挙げた今季公式戦7得点目で昨季の得点数に並び、今季6回目のマッチMVPに輝いた。ベストな状態でかつて所属したレアル・マドリードとの国王杯準決勝第1戦に臨む。

 スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、大一番を展望してもらった。

【久保はレアル・ソシエダのタリスマン】

 レアル・ソシエダは、タフで過酷ながらも、エキサイティングで希望に満ち溢れた一週間を迎えている。スペインサッカー界の2大巨頭と、わずか数日のうちに2つの異なるコンペティションで、ホームとアウェーでそれぞれ対戦する。

久保建英はレアル・ソシエダの「お守り」大一番のレアル・マドリ...の画像はこちら >>
 ラ・レアル(※レアル・ソシエダの愛称)の全サポーターにとって、今一番重要なのは言うまでもなく2月26日(現地時間)にレアレ・アレーナで行なわれる強豪レアル・マドリードとの国王杯準決勝第1戦だ。

 ラ・レアルファミリーにとっては苦い記憶のパンデミックに悩まされず、ホームに集結する大観衆に見守られながら、決勝に向けて大きな一歩を踏み出す一戦となる(※レアル・ソシエダがアスレティック・ビルバオと対戦した2019-20シーズンの国王杯決勝は、新型コロナウイルスの感染拡大により1年後に延期。さらに無観客で開催されたなか1-0で勝利し、33シーズンぶり通算2度目の優勝を成し遂げた)。

 3月2日開催のラ・リーガ第26節バルセロナ戦も、来季の欧州カップ戦出場権を獲得する上で重要な一戦となる。

 この2つはクラブにとって是が非でも勝利したいビッグマッチだが、久保にとってもかつて所属した2つのクラブとの戦いとあって、大きな思い入れがあるはずだ。だが残念なことに、先週末のラ・リーガ第25節レガネス戦でMFレナト・タピアとの諍いによって出されたイエローカードにより、累積警告でバルサ戦は出場停止となった。

 ラ・レアルはひとまず、国王杯の戦い方を考えなければならない。久保は直近2試合連続で先発しているとはいえ、さまざまな状況を加味すると、レアル・マドリード戦で再びスタメン入りする可能性は非常に高い。だが、イマノル・アルグアシル監督がよりスペースを突いて相手にダメージを与えることを狙い、シェラルド・ベッカーを起用するオプションも考えられる。

 久保はレガネス戦で今シーズン公式戦7点目を決め、またしてもチームの勝利に貢献した。

彼がゴールを決めた試合でチュリウルディン(※レアル・ソシエダの愛称)は無敗を誇り、"タリスマン(お守り)"となっている。今の久保はラ・レアルにとって欠かせない存在であり、それを証明し続けている。

【久保に優位な状況を作りだす】

 久保は2022年夏の加入以降、公式戦で23ゴールを挙げている。22試合で得点を挙げ、21試合で勝利し、引き分けはわずか1試合のみ(ラ・リーガでは20試合で得点を記録し、19勝1分)。ラ・レアルの歴史上、ラ・リーガでゴールを決めた試合で久保以上に負けていない選手はチキ・ベギリスタインしかいない(21試合18勝3分)。

 久保がこの無敗記録を更新するまであと一歩に迫るが、ラ・レアルでアシストを記録した試合においても敗北を喫した経験がない。これまで16試合で17アシストを記録し、13勝3分という好成績を残している。

 久保は2シーズン前、ホームでレアル・マドリード相手にゴールを決め、見事2-0で勝利している。彼が集中力を高めて再びゴールを決め、チームが一丸となって最高のパフォーマンスを発揮できたなら、"タリスマン"の力によって勝利を収めることができるだろう。

 キリアン・エムバペ、ヴィニシウス・ジュニオール、ジュード・ベリンガム、ロドリゴを擁する強力な攻撃陣を抑えるためには、守備での奮闘が欠かせない。さらにラ・レアルが初戦をものにするためには、相手の警戒から久保を解き放つことが重要となる。

 今季のレアル・マドリードはケガ人が続出し、守備に大きな問題を抱えている。サイドバックは誰も久保を抑えられないだろうし、それをサポートするセンターバックやMFの多くも久保の存在を消すことはできない。

 そのためラ・レアルはボールを奪ったらすぐに速攻を仕掛けてスペースを探し、久保が相手DFと1対1に持ち込める局面を作るべきだ。あるいは左サイドにプレーを集中させた後、素早く右サイドに展開し、久保にボールを預けて優位な状況を作り出す形を見つけなければならない。

 久保が対峙した相手を突破してクロスを狙うか、ペナルティーエリアに進入してシュートを打つことが、今のレアル・マドリードからゴールを奪い、勝利に近づく上で重要な方法となるだろう。

 また、右サイドの深い位置でボールを保持した久保がダブルマークを受けている時に、相手を十分引きつけ、ペナルティーエリア手前にグラウンダーのマイナスのパスを送り、アルセン・ザハリャン、ジョン・アンデル・オラサガスティ、ブライス・メンデスなどのスナイパーに強烈なシュートを打たせることも勝利の鍵となる。これは最近、ラ・レアルに成果をもたらしている形のひとつだ。

【いい状態でビッグマッチに臨める】

 久保にとってヨーロッパリーグの決勝トーナメントプレーオフ第2戦ミッティラン戦と、ラ・リーガ第25節レガネス戦は、その後に訪れる重要な一週間を迎えるために重要なものとなった。

 久保は厳しい結果となったベティス戦(0-3)をベンチから見守り、ミッティラン戦には休養が取れた状態で先発出場した。この一戦は戦力を落とすと思われたが、イマノルが選んだ先発メンバーにレギュラー陣が多数含まれたことは驚きだった。

 ラ・レアルは5-2の圧勝を飾ってラウンド16進出を決めたが、久保は主役を演じることはできなかった。攻撃の多くは中央か左サイドから生まれていたが、そのような状況は久保が出場した試合では大変珍しいことだ。そんななかでもキーパスを3本出したものの、イマノルはチームの好結果と久保の調子を考慮し、消耗を避けるため後半途中にシェラルド・ベッカーと交代させる決断を下した。

 レガネス戦は控え組を多数起用し、リフレッシュされた主力を何人か投入することで勝利を目指したが、ミッティラン戦の早めの交代とベッカーの出場停止により、久保は再び先発起用された。

 アグレッシブにプレーした久保は、前半と後半でまったく異なるプレーを見せ、イマノルから与えられた65分間を存分に生かした。チームがすばらしい出来だった前半は、ペナルティーエリア内からのシュートが枠を逸れるなど精度を欠いたが、チャンスメイクという点では見事な働きぶりだった。ザハリャン、オーリ・オスカルソン、マルティン・スビメンディとの連係により、目を見張るようなハイレベルなテクニックを何度も見せ、ラ・レアルの攻撃に貢献した。

 一方、後半は最初のプレーでトレードマークのゴールを決め、チームに2点目をもたらした。右サイドでボールを受け取ると、フアン・クルスを股抜きしてペナルティーエリア内に進入。アドリア・アルディミラと対峙しながら中に入り、角度のないところからファーサイドを狙ったシュートは、マルコ・ドミトロヴィッチの守るゴールを破った。

 このゴールはラ・レアルにさらなるアドバンテージをもたらし、3-0の快勝に貢献。直近のホーム13試合で11回目の勝利となったが、チームは痛い代償も払った。久保がイエローカードの累積により次節バルサ戦で出場停止となったからだ。

 この状況をポジティブに捉えるなら、週末に休養を取れるため、久保はレアル・マドリード戦で実力を存分に発揮できる。レガネス戦でいい感触を得て、いい状態でこのビッグマッチに臨めるだろう。

(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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