現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」

 レアル・ソシエダは国王杯準決勝第2戦でレアル・マドリード相手に延長戦にもつれ込む熱戦を繰り広げたものの敗戦。ただ、その勢いを生かしてラ・リーガでは調子を上げ、来季の欧州カップ戦出場権獲得に向けラストスパートの状況だ。

 今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、チームの現在の様子と次節マジョルカ戦の展望をレポートしてもらった。

【久保はレアル・マドリード戦で活躍】

 レアル・ソシエダはふたつアウェーゲームをまったく異なる状況のなかで堅実なプレーを見せ、どちらの試合でも価値ある内容のパフォーマンスを発揮。忘れられない1週間を過ごした。やっと本来の力を取り戻したと言っていいだろう。

久保建英は「数段上の選手」 レアル・ソシエダは最後のスプリン...の画像はこちら >>
 これまでずっと調子が上がらなかったラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)にとって、早急に士気を上げることとプレー面の強化が必要とされていた。過密日程から解放された彼らは、その問題点をここ2試合で素早く修正し、7得点を挙げた。国王杯では決勝進出にあと一歩のところまで迫った。リーグ戦では勝利し、数週間ぶりに来季の欧州カップ戦圏内に返り咲いた。

 ラ・レアルが復活を遂げられた立役者のひとりは久保建英だ。彼はここ2試合で132分間プレーした。そのうち105分は、サンティアゴ・ベルナベウでの国王杯準決勝第2戦レアル・マドリード戦(4-4)。そして27分は、スーパーサブとしての役割を担った、先週日曜日のラ・リーガ第30節ラス・パルマス戦(3-1)。どちらも後半に違いを生み出す活躍を見せた。

 レアル・マドリード相手に第1戦(0-1)の逆境を跳ねのける必要があるラ・レアルは、本来の持ち味や気概を取り戻し、復活の兆しをみせた。

 前半、久保はエドゥアルド・カマビンガにうまくマークされ、試合に入るのに苦労した一方、ラ・レアルはアンデル・バレネチェアとパブロ・マリンの活躍によって輝いた。後半に入ってからは久保がチームを背負い、止まることなくカマビンガと対峙し、凌駕した。パブロ・マリンの2点目では起点となるクロスを入れ、ミケル・オヤルサバルの3点目では、ペナルティーエリア内に切り込んでアシストを記録するなど、要所要所で重要な役割を果たした。

 延長戦まで戦った久保は他の選手同様に体力が尽き、足が止まっていったが、クラブの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』のミケル・レカルデ記者は「期待どおり彼は決定的な存在となった。3点目を演出し、カマビンガを赤面させた」と現地での評価はポジティブなものであった。

 国王杯から敗退したものの、この試合で選手たちが得たものは大きく、この後のリーグ戦にもいい影響が出ている。

【ラス・パルマス戦でも好プレー】

 ラス・パルマス戦、イマノル・アルグアシル監督は疲労した選手たちを休ませる際、久保とオヤルサバルのどちらを先発させるかを決める必要があり、前者をベンチに置いた。オヤルサバルの最近の前半での働きぶりと、久保の試合を揺さぶる能力を考えれば、この判断は理にかなっていたのだろう。

 采配は的中し、オヤルサバルが前半5分に今季の15点目を挙げると、途中出場の久保は疲れを感じさせることなく前に走り続けて主役を演じ、終盤にラス・パルマスを崩壊させた。

 久保は持ち前のスピードやドリブルの能力などを駆使し、自分が望むベストのタイミングでインサイドやアウトサイドでマーカーを振りきった。終了間際に40メートルのカウンターの後、オーリ・オスカルソンの決定機を演出したが、惜しくもゴールにはつながらなかった。

 その前には、セルヒオ・ゴメスの素早いFKのリスタートに誰よりも早く反応し、スペースに入り込み、GKの体勢を崩しつつDFをかわす余裕を見せながら、ラ・リーガ第30節のベストゴールになり得たゴラッソを記録するも、オフサイドで幻となった。

幸いにも試合結果に影響しなかったが、久保がこれまで何度か言ってきたような"煙に巻かれたゴール"となってしまったことは、つくづく残念だ。

 私の同僚であるホルヘ・セラーノ記者も、「久保の出場が試合の流れを変え、相手より数段上の選手であることを証明した」といかにこの試合でインパクトを残したかを語っていた。

 そして、先述のミケル・レカルデ記者は「久保にこれ以上のものは求められない。ホン・アランブルのゴールシーンで見せた動きはすばらしく、いくつかのクオリティの高いプレーは、まさにセンセーショナルだった」とベタ褒めした。

『エル・ディアリオ・バスコ』紙のベニャト・バレト記者は、「彼のやったプレーはすべて信じられないものであり、あのゴールが認められなかったのは残念だ。2アシストで試合を終えるべきだった」と評していた。

【レアル・ソシエダは残り8つの"決勝戦"へ】

 国王杯とヨーロッパリーグから敗退し、1週間に2試合の過密日程から解放された今、ラ・レアルと久保は欧州カップ戦の出場権を再び獲得するため、残る8つの"決勝戦"に向けたシーズン最後のスプリントに臨む。

 来季のラ・リーガはチャンピオンズリーグ(CL)の出場枠増加がほぼ確定しているため、ラ・レアルには同大会参加の可能性もまだ残されている。直接対決を控えている5位ビジャレアルとの勝ち点差は7である(第30節終了時)。

 しかし8位のラ・レアルは欧州最高峰のCLに気を取られてはならない。というのも、まずはUEFAカンファレンスリーグ(ECL)出場圏内の座を確固たるものにし、順位が上にいるライバルを蹴落としていかなければならないからだ。

 4月12日にレアレ・アレーナで対戦するマジョルカは、まだ十分に来季の欧州カップ戦出場の可能性がある。

しかし、現在2連敗中。ここ6試合でわずか1勝とベストの状態ではなく、ラ・レアルに勝ち点1差の10位に後退している。

 ラ・レアルの選手や多くのサポーターは、長い間この一戦を待ち望んでいた。その理由はホームで行なわれた昨シーズンの国王杯準決勝第2戦で、PK戦にもつれ込んだ末に敗退した悔しい経験があるからだ。さらに、勝ち上がりを決めたマジョルカの選手たちが試合後、ラ・レアルを嘲笑した様子(以前の対戦でミケル・メリーノがマジョルカにやった行為を真似たもの)をSNSに載せるなど、両クラブの間にはある種のライバル関係が生まれていた。

 過去にラ・レアルを率いたことがあるマジョルカのハゴバ・アラサテ監督の下には浅野拓磨がいる。ケガさえなければ、久保との日本人ダービーが実現する予定だった。

 彼は30歳にしてマジョルカで自分の居場所を見つけている。ハードワークを武器にここ7試合連続で先発し、2ゴールを決めている。直近のゴールは2-1で勝利したエスパニョール戦の先制点だった。

 久保建英がここ2試合好調だったように、ここ最近の浅野もマジョルカにとって攻撃の主軸であった。この一戦は試合の均衡を破ることができる、タイプの異なる日本人選手同士の価値ある対決となるはずだったが、浅野がケガでこの試合を皮切りに数試合欠場してしまうのは残念だ。

 先発が予想される久保にとって、ラ・レアル移籍前に自分の名を馳せた古巣との再戦となり、左サイドバックのホアン・モヒカと対峙する役割を担う。そして、昨シーズン苦しめられたボランチのサム・コスタがモヒカのサポートに入ることが予想されるが、彼をどう攻略するかが鍵となるだろう。

 ラ・レアルはいつもと同じように、両ペナルティーエリア内でのパフォーマンスが重要だ。空中戦に強いマジョルカに対しては自陣で守備をより強固にし、タイトで高さのある相手の守備陣に対しては効果的なプレーをする必要がある。

 それにプラスして、レアル・マドリード戦で見せたハイプレス、ラス・パルマス戦で見せたようなスペースを生かした攻撃の流動性を再現できれば、この一戦で大きなものを得られるはずだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)

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