わずか4分間、されど4分間。

 今年3月、約2年ぶりに日本代表に招集された町野修斗(ホルシュタイン・キール)に与えられたのは、バーレーン戦4分間、サウジアラビア戦0分間、という短いものだった。

 交代出場のストライカーに与えられる時間が長くないのは常だが、日本代表へのブランクもあるなかで力を発揮するには十分な時間だったとは言いがたい。ただ、プレーで派手な見どころをつくるまではいかなかったが、町野にとっては貴重な時間となった。

町野修斗2年ぶりの日本代表は出場わずか4分間「少し焦りはある...の画像はこちら >>
 4月5日に行なわれたマインツ戦後のミックスゾーンで、町野に聞いた。

── 久々の代表招集で感じたことは?

「みんなうまいですし、ハードワークもできますし、日本のトップレベルのなかにもう一度、戻るというので刺激を受けてきました」

── 得たものは精神的なことのほうが大きい?

「はい。2年間、選ばれずに悔しい思いしてきたので。まずは少ない時間でしたけど試合に出られて、ワールドカップ出場を決める瞬間にも立ち会えたので、それらをポジティブに捉えて、次のチャンスをつかみとれるようにしたいです」

── カタールワールドカップの頃よりもチームは進化している?

「そうですね。相手もバーレーン......サウジはアジアのなかでは強豪でしたけど、試合の内容的にも圧倒できていましたから。カタールの時と相手は違いましたけど、個の能力も上がっているんじゃないかなって思います」

── ヨーロッパと日本を往復する大変さも経験した。

「初めて経験しましたね。時差(ボケ)が取れないまま帰ってきました。こっちに帰ってからは寝られたし、スケジュールもゆっくりだったので、大丈夫だったんですけど」

── 代表から持ち帰ってきた課題は?

「うーん、最近は(キールで)点を取れてないので少し焦りはありますけど、点を取る以外にも最低限やるべきことはしっかりとやらないと。今日の試合に関してはかなりできたと思う。

最低限のことをやって、結果も取れるようにしたいです」

 短い言葉の端々に、代表に行ったからこそ感じる焦燥感のようなものが見え隠れする。そんな刺激を受けただけでも、今の町野にとっては十分だったのかもしれない。

【カタールでの悔しさを胸にドイツへ】

 そもそも、2022年カタールワールドカップのメンバーに湘南ベルマーレの町野が選出されたのは、「追加招集」という形だった。左サイドバックなど守備的なポジションで期待されていた中山雄太(当時・ハダースフィールド/現・町田ゼルビア)が負傷し、フォワードの町野にお鉢が回ってきた。

 ところが、というべきか、当然、というべきか。ドイツ戦からクロアチア戦までの4試合で、町野がピッチに立つことはなかった。日本代表のフィールドプレーヤーでピッチに立つことができなかったのは、町野と柴崎岳(当時・レガネス/現・鹿島アントラーズ)のふたりだけだった。

 ワールドカップ後の2023年シーズン、町野は爆発した。

 リーグ戦19試合出場で9ゴール3アシスト。ガンバ大阪戦では1試合4ゴールの大量得点を決めるなど、活躍ぶりは派手だった。湘南は5連敗ののち4連敗するなど決して好調とは言えなかったが、そのなかで町野が新天地を求めていることは口にせずとも見てとれた。

 2023年の夏、移籍ウィンドウが開くと6月29日という極めて早い段階で、町野は当時ドイツ2部だったホルシュタイン・キールへの完全移籍を発表した。

 当時のキールの地元紙は「ワールドカップ戦士がキールという小さなクラブに来てくれる!」と報じ、大騒ぎとなった。

「奥川雅也が所属していたこともあって、キールは日本人に愛されているようだ」という記事もあった。ワールドカップで出場時間のなかった町野だが、キールではそのような丁重な扱いを受けた。

 2023-24シーズン開幕戦、キールはブラウンシュヴァイクに1-0で勝利。先発出場した町野は、後半アディショナルタイムの劇的ゴールをアシストしている。筆者はこの試合を取材していたのだが、喜びながらも案外落ち着いた様子だったことをよく覚えている。

「デビュー戦は気合いが入りすぎてダメになるので、冷静にプレーしました。(周囲からの)期待に応えるにはまだゴールを取れてないですし、ボールロストのシーンもあったので、この環境にもっと慣れてミスを減らしたいです」

 町野は試合後、冷静に話していた。

【2年目のキールで求められる役割】

 対戦相手のブラウンシュヴァイクに当時所属していた遠藤渓太(現・FC東京)は、町野が高校卒業後に横浜F・マリノス入りした際の2年先輩。その遠藤は「町野にアシストはつくのかな。こんなところで対戦するなんて、感慨深いです」としみじみ話していた。

 町野はキール加入初年度の2023-24シーズン、31試合に出場して5得点6アシストと申し分ない結果を出し、クラブ史上初の1部昇格にも大いに貢献した。

 だが、湘南時代の2023年3月に招集されて以降、代表から声がかかることはなく、今回が約2年ぶりの招集となったわけだ。

 町野のキールは現在最下位に沈み、このままだと2部への自動降格が待っている。そのため、マインツ戦はアウェーにもかかわらず勝ち点3を取るべく戦った。

 町野は1トップで出場してポストプレーの起点になりながら、ディフェンスにも奔走。タフなプレーを強いられた。結局、勝ち点1を持ち帰る結果となり、「(勝てたかどうかは)半々かな。個人的にも前でけっこう起点になれたし、最後にパスが出てくれば決定機というシーンも何個かあった」と半分納得の様子だった。

 一方で、ゴールの願望も口にする。

「みんな残留したい気持ちで、週末に向けてやれることはやっている。ただ、結果がまだ出ていない。最後に残れるように、僕も力になりたいですし、僕が(ゴールを)決めるしかない。決めたいです」

 代表を離れること約2年で、やっと戻ることができた。町野にとっては、ようやく北中米ワールドカップ行きメンバー争いのスタートラインに立った──というあたりだろうか。

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