現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
久保建英は今シーズンここまでケガなく過ごし、キャリアハイの出場試合数、出場時間を達成。また彼のウィットに富んだ日々のコメントは、地元メディアやサポーターから高く評価されているという。
今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、そんな久保の近況を伝えてもらった。
【ここまでケガなくプレー】
レアル・ソシエダのイマノル・アルグアシル監督は、スター選手たちを酷使し続けた例年と異なり、今シーズンは明確なローテーションポリシーを打ち出して、できる限り選手たちをフレッシュな状態に保とうと努力してきた。
久保建英もそうした起用のなかのひとりとなった。試合終盤に交代したり、ベンチスタートになったりと、これまで以上にローテーションされていることから、チーム内での重要性が失われてきたように感じられるかもしれない。しかし、実は今シーズン、すでにキャリアのなかで最も多く試合に出場している。ここまで公式戦46試合に出場し、2022-23シーズンの44試合を上回っている。何の問題もなければ、残り6試合すべてに出場して52試合となり、日本代表での7試合を加えると、とんでもない数字となる。さらに出場時間(3,030分)も2シーズン前の最長記録を更新している。
久保が今シーズン出場しなかったのはわずか5試合のみ。ラ・リーガのバルセロナ戦は累積警告による出場停止、格下相手の国王杯最初の2試合(ホベ・エスパニョール戦、コンケンセ戦)は招集外、ヨーロッパリーグのニース戦とラ・リーガのベティス戦はベンチだった。
これだけ出場できているのは、ケガをまったくしていないからだ。久保を警戒する対戦相手は以前にも増して厳しくマークしてくるが、審判団はラフプレーから彼を守ってはくれない。しかし、幸いにもフィジカル面に問題を抱えることなく、いつでも出場できる状態を維持してきた。
それは久保自身のフィジカル管理がよかったこともあるが、イマノルのローテーションの効果が大きいだろう。特に厳しい試合が続いたシーズン前半は何度もメンバー変更を行なってきた。久保には常に細心の注意を払い、重要な試合にはフレッシュな状態で先発させ、いくつかの試合ではスーパーサブとして起用するなど、最高の状態で起用できるように取り組んできた。
チームメイトの多くがケガで戦線離脱してきたことを考えると、試合数はミケル・オヤルサバルに次いでチームで2番目に多く、出場時間は5番目に長い久保のケースは奇跡に近いと言える。
【評価の分かれたビジャレアル戦】
ラ・リーガ第31節のマジョルカ戦から1週間以上空いたことで、第32節のビジャレアルとの大事な一戦に久保は比較的フレッシュな状態で先発した。ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は前半、失点シーンとその後の2、3分の混乱を除けば、ボールを持ち、流動的かつ攻撃的なサッカーを展開するなど、ここ最近では最もよいパフォーマンスを見せた。
久保はいつものように相手から厳しいマークを受けるも、攻撃を加速させる絶対的な鍵となり、前半終了間際にはセルジ・カルドナと対峙しながら2度チャンスを生み出した。
1度目はゴールに向かう柔らかいクロスをファーポストに入れたが、相手GKとクロスバーに阻まれた。2度目は悪魔のような加速でサイドを突破し、右足で完璧な低空のクロスをあげ、ルカ・スチッチの決定機を演出してみせた。
しかし後半に入り、イマノルがシステムを5-4-1に変えたことで、ラ・レアルから攻撃的なプレーが完全に消え、酷いパフォーマンスに終始した。久保も存在感が薄れ、後半41分に交代するまで姿が見えなかった。彼の成績はパス成功数20本、パス成功率80%、キーパス1本、デュエル勝利5回、被ファウル2回、ボールロスト11回、クリア1回だった。
この試合での久保は、チームの数少ないチャンスを作り出したひとりであることは間違いないが、プレーにほとんど関与しない時間が長かったと、地元のメディアは指摘している。
クラブの地元紙『ノティシアス・デ・ギプスコア』のミケル・レカルデ記者は各選手を採点するにあたり、「久保はとてもすばらしいプレーを3回見せたが、プレーにかかわらない時間が長すぎた」と寸評した。
私の同僚のホルへ・セラーノ記者も、「プレーが断続的だった。前半は相手のサイドバックが低い位置にポジションを取ったことでチャンスを作れていたが、ハーフタイム後のシステム変更により、パフォーマンスが悪化してしまった」と同意見だった。
一方、『ディアリオ・バスコ』紙のベニャト・バレト記者は、「得点とアシストを記録してピッチを去るチャンスがあったし、ボールを持っていない時もハードワークし、アマリ・トラオレやホン・アランブルをサポートした」と攻守に渡る働きぶりを称賛した。
【現地で評価される久保の発言】
久保はビジャレアル後に「地獄だったよ。負けるゲームじゃなかったとたまに言う時はあるが、今回は引き分けに値しなかったと思う」と感想を述べた。
このような発言は、久保が公の場で話すたびにいかに興味深い人物であるかを示すほんの一例に過ぎない。常に話題になるコメントを提供してくれるという点で、地元メディアは彼の発言を高く評価し、求めている。ラ・レアルに移籍してきた当初から流暢なスペイン語でサン・セバスティアンの街や文化、クラブを気に入っていることを話し、最初の瞬間から溶け込んでいる。
ほとんど常に包み隠さず自分の意見を述べ、ユニークかつ個性的なタッチを加えた発言はラ・レアルのサポーターだけでなく、サッカーファン全般に好まれている。それは試合やチームバスのスタジアム到着時、年に数回の公開練習で子どもたちから最も声援が飛ぶ選手のひとりであることからもわかる。これらすべてが久保に居心地のよさを感じさせ、メディアに対しても心を開いて話してくれる環境となっているのだと思う。
彼の受け答えはウィットに富み、しばし笑いを誘い、時に真剣だ。どんな質問であっても避けることなく、空虚なフレーズを使わず、中身のある話をしてくれる。レフェリーやラ・リーガ、チームのパフォーマンスを批判することも気にしない。そして何よりもサポーターから高く評価されているのは自己批判する点だ。
今日のサッカー界は選手が自由に発言できない、特有の堅苦しさと真面目さに染まっている。ラ・レアルでも常にはっきりとした口調で話し、率直に答える選手はほとんどいない。だからこそ、久保が話す言葉にどのような価値があるのかがわかるのだ。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)