4月25日、大阪。SVリーグチャンピオンシップ準決勝初戦、大阪ブルテオンのロラン・ティリヘッドコーチはジェイテクトSTINGS愛知との試合後、穏やかな表情で称賛を送った。
「(STINGSのオポジット)宮浦(健人)はスーパーパワーで、止められませんでした。ここ数年で非常に上達して、体が大きく、力が強くなりました。常に成長し続け、今日もすばらしかったです」
この日、勝利を収めたSTINGS陣営で、宮浦は両チーム最多の25得点を叩き出し、出色の出来だった。空中で止まり、左腕をしなるように振り、矢が放たれるような迫力。他に18得点のトリー・デファルコ、19得点のリカルド・ルカレッリを含めた"3本の矢"がコートで暴れ回った。
しかし、その矢を放った射手がいた。
STINGSのセッター、関田誠大は別次元の存在だった―――。
「チームのコーディネートに時間がかかったシーズンで、それが最後の最後に合わせられて、きちんと戦えている感じです。それぞれが役割を全うできるようになりました」ブルテオンを下してファイナル進出を決めたあと、関田はそう説明していた。今シーズン、チームは新加入選手が多く、しかもケガ人が続出した。チーム力が整うのに時間を費やした。しかし、ケガ人が戻ってコンビネーションが噛み合うと、真価を見せている。
その戦いを司るのが関田だ。
「宮浦選手、デファルコ選手は得点源でしたが......関田さんが相変わらず、すばらしいな、と」
準決勝の2試合目が終わったあとの会見で、ブルテオンの西田有志は、日本代表のチームメイトでもある関田に敬意を込め、賛辞を送っていた。
「(関田と)マッチアップして、トスがどこに上がってくるのか、どんなペースで、どれだけ(ボールが)伸びるか、どういうアプローチでスパイカーが打つのか......常に精度が落ちなかったです」
関田は異次元のトスワークを見せる。レシーバーがボールを上げたら、少々厳しい軌道でも、落下点に入って構える。そして自在に、スパイカーを操るようにボールを運ぶ。ミドルブロッカーの髙橋健太郎、村山豪のクイックも含め、変幻自在。どこにボールを上げるか、まず予測がつかない。予測を読まれても、違う選択肢に変えてしまう。
【同じ動作でトスを上げる】
STINGSのもうひとりのセッターである道井淳平が、関田について話していたことがあった。
「関田さんと一緒なのは、とても刺激になっています。いろいろ聞いて、学べるので。ほかのセッターの映像も、"どういう動作で上げているか"を確認するために見るのですが、関田さんは違いますね。
ほかのセッターに話を聞いても、関田は別格だという。
「フィーリングですね」
関田自身は、自身のセットアップについて淡々と表現している。
「(たとえば)宮浦選手がバックから入ってきたら、その入り方を見て、適当にピュって(トスを)上げているだけなので。選手の高さをイメージしながら、ここに入るだろう、って。決まっているわけではない」
感覚的なものだけに、相手は論理的対応が難しい。ことごとく裏をかかれる。そして次々と打ち込まれるスパイクに心を砕かれるのだ。
昨年10月、関田にロングインタビューしたことがあった。
「セッター人生で最高のセットアップは?」という問いに対する答えが彼らしい。
「ないです。
彼は、できる限りバレーを単純化しているのだろう。トスのたび、無限の選択肢から最善を選択する。難しいことを簡単にしているのだ。
「セッターとして、"うまくなりたい"という向上心はあります」
関田はそう言って、核心的な話をしていた。
「"勝たせられるセッター"を突き詰めていきたいですね。勝つ方法はいろいろあると思うんですけど......外国人ひとりに頼るのではなく、いろんな選手を使えるのが自分のスタイル。そこを突き詰めて勝ちたい。それで勝てるかは別だし、外国人に頼っても勝って、みんながそれを求めるのはそれでいいけど......自分がやりたいことをやって勝ちたいです」
まさに有言実行で、ファイナルまで勝ち上がってきた。関田が創り出した"領域展開"で、スパイカーたちが暴れ回った。チャンピオンシップでは東京グレートベアーズもブルテオンも、そうやって血祭りにあげた。
「相手がどうくるのか。
ブルテオン戦後、関田は言った。ファイナルに向け、静かな決意だ。
5月3日、有明アリーナで始まるファイナルは2戦先取方式。不条理な展開も含めて、すべてが起こり得る。サントリーサンバーズ大阪との決戦だ。