"モンスター"のラスベガス戦が間近に迫っている。世界スーパーバンタム級4団体統一王者・井上尚弥(大橋)が5月4日(日本時間5日)、ラスベガスのT-モバイルアリーナでラモン・カルデナス(アメリカ/29歳/26勝・14KO・1敗)を迎え撃つ。
この興味深い一戦を前に、ボクシングの老舗専門誌『リングマガジン』のシニアライター・コラムニストを務めるキース・アイデック氏に見どころを尋ねた。
井上対カルデナスはどんな戦いになるのか? 絶対不利が予想されるカルデナスに勝機はあるのか? そして、この興行はどんなイベントになり、井上が今後アメリカでさらに大きな存在になるためには何をすべきなのか?
決戦を前に、アメリカで長年ビッグファイトを取材してきたベテラン記者の言葉にしっかりと耳を傾けておきたい。
【「井上にとっては"ショーケース"の試合」】
――井上対カルデナス戦にどのような興味を持っていますか?
キース・アイデック(以下、KI): 井上がアメリカに戻ってくることを、アメリカのボクシングファンは何年も待ち望んでいた。対戦相手はファンが望んでいたレベルではないかもしれない。カルデナスは『リングマガジン』のスーパーバンタム級ランキングで9位にランクされている選手。悪いボクサーではないが、ご存知のとおり、井上はまったく別次元の王者だ。スーパーバンタム級で彼を脅かすような選手はそう多くはない。
WBC世界バンタム級王者・中谷潤人(MT)がこの階級に上げてきた場合を除き、ファン、関係者はほとんどの試合を「井上が簡単に勝つ試合」と見なすのだろう。ただ、たとえそうだとしても、ここで井上がアメリカに戻ってくるのはすばらしいことだと思う。日本では今週がゴールデンウィークにあたり、主催者は多くの日本人が渡米してくれることを期待している。そうなるかどうかはわからないが、4年ぶりのラスベガス戦とあってアメリカのファンも今回の試合を楽しみにしている。なぜなら、井上は間違いなく現在のボクシング界で最高級の選手であり、最もエキサイティングなボクサーのひとりであるからだ。
――試合予想をしていただけますか?
KI : カルデナスが井上を相手に5、6ラウンド以上、戦うことができるとは考えにくい。攻撃力があまりにも違いすぎる。カルデナスも勝利を目指して勝負を挑むとは思うが、井上の攻撃のレパートリーは多すぎる。カルデナスは14連勝と好調とはいえ、過去の対戦相手のレベルやこれまでのキャリアで成し遂げてきたことを考えると、この試合はそれほど勝負論のある試合にはならないだろう。
井上にとっていわば"ショーケース"(意訳すると自身のお披露目会)と呼べる一戦だ。井上の力量を考えると、ほとんどの試合が"ショーケース"になり得るのも事実ではあるが。私は井上が前半にKO勝ちを飾ると予想している。
【「集客、話題性ならロサンゼルスのほうが理にかなう」】

――会場のT-モバイルアリーナはどんな雰囲気になると見ていますか?
KI : 日本はゴールデンウィークであり、メキシコは最大級の祝日であるシンコ・デ・マヨの週末ということで、主催者はラスベガスでも珍しい日曜夜のビッグイベントでも大観衆が集まることを期待している。ただ、カルデナスは無名選手だ。メキシコ系アメリカ人ではあってもサンアントニオ出身でメキシコ人ではない。もちろんサウル・"カネロ"・アルバレス(メキシコ)のような別次元の人気があるわけではなく、今週末にはシンコ・デ・マヨの週末に、通常見られるほどのメキシコ人の観客は集まらないはずだ。
また、最近のボクシング界の通例どおり、チケットは高価すぎたかもしれない。
――今後、井上がアメリカでもより大きな存在になるためには何をするべきだと思いますか?
KI : 現在の井上にとって最大のファイトは中谷潤人との同国人対決で、その試合の開催地は日本以外にあり得ない。また、その前にWBA世界スーパーバンタム級暫定王者のムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)と対戦するとしても、アフマダリエフはカルデナスよりもはるかに優れた選手ではあるが、アメリカでの知名度は高いとは言えない。そう考えていくと、今後のアメリカ戦略は容易ではないと思う。
ひとつ提案したいのは、ラスベガスではなくロサンゼルスで試合を挙行することだ。高額ギャンブラーが集まるラスベガスのほうが興行収入のうまみが大きいというのはわかるが、集客という面では多くの日本人が住んでいるロサンゼルス開催のほうが理にかなう。大きなイベントを開催できれば話題にもなる。たとえば3人の日本人選手がプレーするロサンゼルス・ドジャースとなんらかの形で絡めるような興行が打てれば、注目度という意味では相乗効果が期待できるように思う。