5月3日、有明アリーナ。会場では優勝セレモニーと記念撮影が延々と続いていた。

施設の利用時間制限が設定されていることもあり、関係者はソワソワとしていたが、選手たちはつかみ取った至福の時間を愛しんでいた。それは彼女たちだけのものだ。

 SVリーグ女子チャンピオンシップ決勝、大阪マーヴェラスはNECレッドロケッツ川崎を前日にセットカウント3-0(25-14、25-10、25-21)で破り、この日も3-0(25-22、25-21、25-16)で下し、初代女王に輝いていた。

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 マーヴェラスは相手を寄せ付けない強さだった。身長195cmの箕輪幸がそびえるブロックは難攻不落で、リベロの西崎愛菜を中心にとにかくボールを落とさない。セッターの東美奈が丹念にトスし、剛のファンヘッケ・リセ、柔の林琴奈がスパイクを決めた。そして田中瑞稀、大山遼は高いサーブ効果率などオールラウンドな能力を発揮。宮部愛芽世、塩出仁美など切り札になる"伏兵"までいた。

 まさに、マーヴェラス(すばらしい)な陣容だった。

「やったー、サイコーです!」

 ミックスゾーンでは、リセが日本語でカメラに向かって叫んでいた。横で取材を受けていた宮部が微笑み、記者たちに囲まれながら質問に答える。通路を歩く選手たち、ひとりひとりの顔が誇らしげに輝いていた。

 記者会見場に入ってきた林、田中、西崎の3人の選手は、少しだけ照れくさそうに、しかし晴れがましい顔をしていた。

「昨日は3セットで勝ちきることができましたが、"今日はタフな勝負になる"と覚悟していました。それが、点差が開いても追いつき、追い越すことができた理由かもしれません。チームワークがよかったなって思います」

 マーヴェラスのエースである林はマイクを持って、静かな笑みをたたえてそう語っている。

 マーヴェラス陣営は、勝負に対して"極めて慎重だった"と言える。前日の大勝後も、選手から必要以上の高揚感は伝わらず、劣勢から立ち上がるイメージも準備していた。"肉食獣は相手の命を絶つまで手を緩めない"という勝負の厳しさこそ、彼女たちが絶対的勝利者になれた理由かもしれない。

【去年の悔しさを胸に】

「去年のリベンジ」
 
 それは御旗になっていた。昨シーズンの最後のVリーグ、マーヴェラスはレギュラーラウンド1位になりながら、ファイナルではNECに敗れ、女王の座を逃していた。その無念さは、推して知るべし、だろう。今シーズン、SVリーグでもレギュラーシーズン1位となり、彼女たちは負けるわけにはいかなかった。準備のところで、執念が力を底上げした。

「去年、悔しい思いをしていました。それが今年も決勝でNECとの対戦になったのはうれしかったです。何かの理由があって、こうして戦うことになったんじゃないのかなって」

 林はそう説明したが、ヒロインたちは、物語を、宿命を感じていた。その決意は侮れない。この日、気力を充実させた彼女は、プッシュやブロックタッチを狙った技巧的スパイクを見せていた。

「去年は自分が足をケガして、それが理由で負けたわけではないですが、"チームに迷惑をかけて申し訳ない"と思っていました。だから、"チームのために優勝したい"って決勝に入り、チームを勝たせたることしか考えていませんでした。やるべきことをチーム全員でやると、マーヴェラスはすごく強いチームなんだと、あらためて感じました」

 決勝は1試合目から勢いがあった。マーヴェラスは、試合立ち上がりから田中がサーブでエースを決めるなど"サーブで崩し、ブロックで優位に"という展開を作り、8-0とリード。結局、この差を縮めさせることなく1セット目を取ると、2、3セットもサーブ、ブロックで有利に立ち、ボールを上げ続け、撃ち合いの中でスパイクを決めた。ことごとく先手を取っていた。

 2試合目のサーブ効果率は落ち、なかなか連続でブレイクはできなかったが、勝負どころでしぶとかった。

「NECさんはスタートから勢いよく来ると思っていました。その中で、マーヴェラスの強みであるブロック、ディグ(スパイクレシーブ)は生きていたし、"この仲間なら優勝できる"と思っていました」

 リベロの西崎は言う。不落の守備が勝利をもたらした。

「マーヴェラスはひとりひとりのディグがよくて、システムバレーで(個と組織)の連係がよいところだと、自分もレシーブで感じています。レシーブで拾えているのは、やっぱりブロックが範囲を限定してくれているから。シーズンを通して、ひとりひとりのスパイカーの特徴は得意なコースとか細かく分析しているんですが、ブロッカーがいるから自分も輝けるんだなって」

 そして仕上げは、敗北の痛みが彼女たちを強くした。準決勝、デンソーエアリービーズ戦、1試合目にマーヴェラスは3-0で敗れていた。

「セミファイナルで3-0で負けてしまって......そこから巻き返すことができました。結果論ですが、あの負けがあったからこそ、自分たちがやるべきことが明確になりました。決勝の舞台でもひとつになっていけました」

 林はそう振り返ったが、敗北を糧にする、という変換力こそが最強を生んだか。

「一番見たかった景色を見られました。正直を言えば、思った以上に疲れました(笑)。

次のシーズンが始まるのを、今日は想像したくはないです」

 酒井大祐監督はそう言って笑いを誘ったが、そこまで力を振り絞ったのだろう。

 常勝の精神に達するのは簡単ではない。マーヴェラスは負ける悔しさを忘れず、飲み込まず、骨の髄に染み込ませていた。初代女王はひとつの結実だった。誇るべき祝祭だ。

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