【かつては約23万人が来場】
吉田拓矢(茨城・107期)が4年ぶりにGⅠ開催を制し、年末に開催される「KEIRINグランプリ2025」の出場権を獲得。優勝後には「ずっと信じられない感じで、喜び方がわからなかった」と照れ笑いを浮かべた。
4月29日から5月4日の6日間にかけて名古屋競輪場で開催された「第79回日本選手権競輪」、通称「ダービー」は、ゴールデンウィークでにぎわう競輪場に、興奮と歓喜をもたらすとともに、ファンの心に仲間との絆というエモーショナルな思いをもたらしてくれた。
このダービーの歴史は古く、初開催は1949年。競輪界初の特別競輪として創設され、過去には最大で約23万人もの観衆を集めたほどの熱狂を生み出していた。その歴史と伝統は脈々と受け継がれ、今開催でもその熱気は競輪場を包み込んだ。決勝では、観客席は満席状態で、そり立ったバンクを二重三重の人がぐるりと取り囲み、大歓声が沸き起こっていた。
決勝を走った岩本俊介(千葉・94期)が「お客さんが大きな拍手で迎えてくれた」と語れば、菅田壱道(宮城・91期)も「周回中からお客さんのすごい声援が聞こえた」とその盛り上がりに驚いていた。
そんな大注目のダービーに出場できるのは、約2200名いる男子選手のなかで、わずか162名。実力別に全6カテゴリー(級班)に分かれた上位3カテゴリーに位置するS級に在籍し、かつ賞金獲得上位者などから順次選抜されるため、まさに今の競輪界をけん引するトップ選手によって争われる頂上決戦の位置づけだ。
【頭をよぎった2年前の失格】
優勝候補筆頭は、グランプリ2回、GⅠ優勝8回を誇る古性優作(大阪・100期)で、その絶対王者にみちのく超特急の異名を持つ新山響平(青森・107期)、関東のエース眞杉匠(栃木・113期)、そして吉田拓矢ら実力者たちがどう挑むかに注目が集まっていた。
結果は前述のとおり、ゴール手前で眞杉を交わした吉田拓矢に凱歌があがったが、そこには、勝利のために連係した眞杉―吉田の栃茨ライン(栃木と茨城の選手で作るライン)の戦略があった。
ふたりは2月のGⅠ開催「全日本選抜競輪」の決勝など、これまで幾度となくラインを組んできた間柄。今回の決勝でも事前に作戦を練り、新山、菅田、阿部力也(宮城・100期)の北日本ライン、そして古性らにどう対応するかを決めていた。
レースは「北日本が前を取ると思っていたので中団を取れればいい」との思惑どおりの並びとなり、その北日本ラインの後ろに古性、そして眞杉、吉田がついた。残り2周となったところで、吉田は「眞杉が思ったところでいってくれればいい。

吉田はその眞杉をピタリと追走。第4コーナーに差し掛かろうとするところで先頭の新山をとらえると、最後の直線でついに眞杉が前に躍り出た。「あとは(眞杉を)抜けるかどうかだ」と吉田は必死に踏み込む。古性、菅田も追いすがり、並びかけようとしたところで、菅田が落車。その影響でほんのわずか眞杉、古性のスピードが緩み、そのスキをついて吉田が1着でゴール線を通過した。

今回は、眞杉が落車に絡んでいたのか、眞杉は失格になるのか......。「自分の確定より眞杉が失格していないかが気になりました」(吉田)。数分後、場内放送により、1着吉田、2着眞杉が確定。勝利者インタビューでは真っ先に眞杉の名前を出し、「(オールスター後から)ずっと僕のことを気にかけてくれて、今日も勝負権のあるところまで連れて行ってくれたので、仲間に助けられて勝てました」と感謝の言葉を口にした。
【もっと強くなりたい】
吉田は現在29歳で、眞杉は26歳。今回の決勝に残った20代の選手はこのふたりのみ。優勝会見でふたりの関係性について質問されると、吉田はうれしそうに答えた。
「上下関係はないです。僕も取っつきやすいですし、向こう(眞杉)もなんでも話してくれるし、いい関係だと思います」
戦友というべきか、男同士の友情というべきか、会見場はその言葉に少しだけ温かな雰囲気に包まれた。さらに吉田は今回の結果に満足することなく、さらなるレベルアップも約束した。
「今回は(眞杉に)獲らせてもらったので、また前後で走れるように、僕がもっと強くならなきゃいけないなと思いました。自信を持って眞杉の前に回れるようにならないといけないなと思います」

ただ切磋琢磨しあってきた仲間だからこそ、こうしてふたりはGⅠという大舞台の決勝まで登ってきたことは否定できない。これで吉田は2度目のKEIRINグランプリ出場が決まった。この結果にきっと眞杉は闘志を燃やすはずだ。ふたりの結束力とライバル心が、今後の競輪界の発展を後押ししてくれることは間違いないだろう。