堂本光一 インタビュー

 F1参戦5年目を迎えた角田裕毅。開幕戦はレーシングブルズから出走したが、第3戦の日本GPからレッドブルに抜てきされ、5連覇をめざすマックス・フェルスタッペンとともに参戦している。

 芸能界屈指のF1ファンである堂本光一さんは角田について、「今とてつもないことにチャレンジしています」と語る。角田はこれまでの日本人ドライバーと比べてどこがすごいのか? 堂本さんに語ってもらった。

【F1】堂本光一が角田裕毅への期待を熱く語る 「こんな感情に...の画像はこちら >>

【これほどワクワクすることはない】

堂本光一 4月の日本GPから角田裕毅選手がレッドブルに移籍し、マックス・フェルスタッペンのチームメイトとして戦っています。メディアではあまり大きく取り上げられていませんが、これは途轍もないことだと僕は思っています。

 F1に参戦しているのは全10チームで、ドライバーは各チームにふたり、つまり世界中にわずか20人しかいません。そのなかでもレッドブルは2022年と2023年にコンストラクターズ・チャンピオンに輝いたトップチームです。

 そして角田選手のチームメイトであるフェルスタッペンは、過去4年連続でドライバーズ・チャンピオンに輝いています。現代のF1において彼の右に出るドライバーはいないといっても過言ではありません。

 F1には過去にアイルトン・セナやミハエル・シューマッハといった伝説のチャンピオンドライバーが存在します。それぞれの時代によってマシンやレギュレーションがまったく違うので単純な比較はできませんが、フェルスタッペンはセナやシューマッハに肩を並べる、時代を代表するスーパースターです。

 そんなドライバーと組んで、角田選手は今、チャンピオンチームで戦っているのです。僕は国内でF1中継がスタートした1987年からレースを見続けていて、その間に何人もの日本人ドライバーが誕生しましたが、これまでそんな状況はありませんでした。

 日本人初のレギュラードライバーの中嶋悟さんが1987年にF1デビューした際、イギリスのロータスに所属して、アイルトン・セナのチームメイトになりました。

2004年に佐藤琢磨選手がB・A・Rに所属し、のちに世界チャンピオンになるジェンソン・バトンとコンビを組んでいますが、ロータスとB・A・Rはいずれもチャンピオンを争うトップチームといえるような状況ではなかったと思います。

 これまでF1で表彰台に上がった日本人ドライバーは3人います。鈴木亜久里さん、佐藤琢磨さん、小林可夢偉さんですが、最高位はともに3位。優勝した日本人ドライバーはいません。角田選手は今、これまでの日本人ドライバーのなかでもっとも優勝や表彰台に近いところで戦っているのです。ファンのひとりとして、これほどワクワクすることはありません。

【日本人初優勝へ立ちはだかる壁】

 もちろん日本人初優勝という偉業達成の前には高いハードルがいくつも立ちはだかっているのはわかっています。中嶋さんの時代は、トップチームとそれ以外のチームの競争力の差が大きかったですが、今のF1は接戦です。トップから中団グループまでのタイム差がとても小さく、予選で1秒以内に10台以上というレースも珍しくありません。それほど競争が激しくなっています。

 しかも今シーズンは、マクラーレンのマシンが高い競争力を発揮しています。レッドブルのマシンも速いですが、すごくナーバスで扱いが難しいところがあります。

 何よりも大変なのは、チームメイトがフェルスタッペンであることです。

現役最強のドライバーである彼とつねに比較され、パフォーマンスの差が大きいと、レッドブルのドライバーとして失格の烙印を押されてしまう......。

 たとえば、昨年までフェルスタッペンのチームメイトだったセルジオ・ペレスは、シーズン中盤以降、不振が続き、契約期間が2026年シーズン末まであったにもかかわらず、解雇されてしまいました。開幕から結果を出せなかったリアム・ローソンもわずか2戦で角田選手と入れ替わるかたちでレーシングブルズへ降格されています。

 ただ最近は、フェルスタッペンとコンビを組むドライバーに対する見方が変わってきているような気がしています。これまでは、フェルスタッペンは速く走れるのだから、マシンのポテンシャルを引き出せないとチームメイトがダメなんだという評価になっていました。でも、現在はフェルスタッペン自身も「今年のマシンはよくない」という言い方をするようになっています。

 実際、フェルスタッペンは日本GPの予選でポールポジションを獲得したあと、「アタック中は、いくつかのコーナーでなんとかマシンがコース上にとどまってくれと祈るような感覚で走っていた」とコメントしていました。時速300kmを超えるような世界で祈りながらマシンをドライブするのは恐ろしいことですが、今年のレッドブルは名手のフェルスタッペンですら操るのが難しいマシンなのだと思います。

 それでも角田選手は鈴鹿、バーレーン、サウジアラビアの3連戦を通して、マシンとチームに確実に慣れてきている印象があります。レッドブル2戦目となるバーレーンでは、9位に入賞しています。角田選手にはさらにレッドブルのマシンに適応していって、今後のキャリアにつながる結果を残してほしい。

【応援の輪がもっともっと広がってほしい】

 日本GPは現地で観戦してきました。

レースの週末には、会場となった鈴鹿サーキットに3日間で26万6000人もの観客が集い、すごく盛り上がっていました。今年の鈴鹿には角田選手がトップチームのレッドブルで走ることになったので、たくさんの"にわかファン"が来ていたと思います。

 僕はF1がもっと盛り上がって、日本のなかで角田選手やモータースポーツが市民権を得るためには"にわか"がすごく大事だと考えています。

 今、メジャーリーグにそれほど詳しくない人たちも、「今日の試合で大谷翔平選手はホームランを打ったの? ドジャースは勝ったの?」と会話していますよね。それと同じようにF1のレースが開催された翌日には、「今回のレースで角田選手は何位に入ったの? レッドブルの成績は?」と話題になってほしい。

 そのためにもメディアでF1をもうちょっと大きく取り上げてほしいと思いますが、まずは角田選手が表彰台や優勝という結果を出すことが大事ですよね。やっぱりスポーツは、結果がすべてのところがあります。

 今シーズンの角田選手は、表彰台に上がるチャンスは十分あると思います。そういった意味では、第5戦のサウジアラビアGPは期待していました。マシンはレッドブルに合っている高速サーキットですし、市街地なのでアクシデントも多い。それをうまく避ければ、上位入賞もあり得ると思っていたのですが、よりによって角田選手が1周目にアクシデントに巻き込まれてしまいました。中継を見ながら心底ガッカリして、すごく落ち込みました。

 こんな感情になったのは久しぶりです。かつて肩入れしていたセナやシューマッハがレース序盤でなんらかのトラブルやクラッシュがあったりしてリタイアしてしまったら、レースそのものに興味を失ってしまうというか、ぽっかり心に穴が開いたような感覚になっていました。

 でも、最近は特定のドライバーを応援するのではなく、レースそのものを楽しめていたのですが、角田選手が登場してからは変わりました。彼の走りが気になり、F1中継を観戦する際は、いつも角田選手のラップタイムを追いかけながら応援しています。それはやっぱり角田選手ならば何かやってくれるような空気をまとっているからだと思っています。

 僕だけでなく、国内のモータースポーツファンの間では、日本代表として世界最高峰のF1の頂点をめざして戦っている角田選手を応援しようという機運が高まっています。その応援の輪が、日本国内でもっともっと広がってほしいと思っています。

【プロフィール】
堂本光一 どうもと・こういち
1979年生まれ、兵庫県出身。日本人初のフルタイムF1ドライバーの中嶋悟氏がデビューした1987年頃からF1のファンに。堂本光一&井上芳雄主演ミュージカル『ナイツ・テイル -騎士物語-』ARENA LIVEが2025年8月2日(土)~10日(日)に東京ガーデンシアターで上演される。
公式Instagram【koichi.domoto_kd_51】

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