現地発! スペイン人記者「久保建英コラム」
アトレティコ・マドリード戦で惨敗を喫したレアル・ソシエダ。ラ・リーガ残り3試合で上位進出の奇跡を起こせるのか。
スペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏が、チームの現状をレポートする。
【アトレティコ戦で上位への望みを絶たれる】
レアル・ソシエダはシーズン終盤の今、精神的にもプレー面においても、非常に厳しい戦いを強いられている。マルティン・スビメンディがアーセナルに移籍するというニュースが流れたその日、ラ・リーガ第35節でアトレティコ・マドリードに0-4の完敗を喫し、復活の望みが絶たれ、サイクルの終焉により近づいた。
この日、何のためにプレーするかもわからない状態のラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は、リヤド・エア・メトロポリターノ(アトレティコの本拠)で姿が見えなかった。勝利への強い意欲と飢えを露わにしたアトレティコに対して、試合開始直後から受け入れがたいほど集中力を欠き、驚くほど多くのチャンスを与えてしまった。前半7分、10分、11分と、わずか4分間でラ・リーガ史上最速のハットトリックを記録したアレクサンデル・セルロートは、過去にイマノル・アルグアシル監督が残留を望むも、求める年俸を支払えずに手放した元ラ・レアルのストライカーだ。前半30分には古巣相手に4点目を奪い、5点目に近づくクロスバー直撃のシュートも放ち、キャリア最高の夜を締めくくった。
短時間に大量点を奪われたことで、ラ・レアルの守備陣やGKアレックス・レミロに対し、多くの批判が浴びせられた。だが、守備陣がひどいプレーであったのは間違いないが、攻撃陣も同様に悪いパフォーマンスだった。
そんななか、久保建英だけが相手に抗うパフォーマンスを見せた。劣勢な状況であっても常にボールを求め、相手と対峙することを試みた。前半終了間際にはスビメンディにチャンスとなるクロスを入れたが得点には至らず、次節セルタ戦を考慮した監督判断によりハーフタイムで交代となった。
【欧州カップ戦出場権争いから脱落】
アトレティコ戦の大敗はチームの士気だけでなく、順位にも影響を及ぼした。6季連続で欧州カップ戦出場権獲得を目標に掲げているラ・レアルに対し、厳しい現実が突きつけられたのだ。
直接のライバルであるセルタ、ラージョ・バジェカーノ、マジョルカが揃って勝ち点3を獲得しただけでなく、勝利を収めたバレンシアにも追い抜かれた。これにより勝ち点43で12位に後退したラ・レアルが、来季再びヨーロッパの大会に参加するというのは夢物語に近い状況となった。
ヨーロッパリーグ出場圏内の6位ベティスとの勝ち点差は15もあり、7位セルタとの勝ち点差も6と大きく開いている。そしてカンファレンスリーグ出場圏内の8位ラージョとの勝ち点差は4。9位マジョルカはラージョと同勝ち点で並んでいる。ラ・レアルはこの4チームに直接対決の結果で負けているため、最終的に勝ち点で並んだ場合、順位が下になる。
今季のリーグ戦も残り3試合となるなか、ラ・レアルは次節でセルタをホームに迎えるが、アトレティコ戦のひどいパフォーマンスを考えれば、非常に厳しい試合となるだろう。さらに、ここ最近の不甲斐ない出来に対し、サポーターから抗議のブーイングを受けると予想されるため、ホームであっても精神的に追い込まれることになるかもしれない。
勝ち点6差のセルタとの一戦は、欧州カップ戦出場権争いに向けた直接対決であり、その権利を勝ち取るためのラストチャンスとなる。勝てば生き長らえ、さらに3点差以上の勝利を挙げれば、直接対決の結果で上回ることができる。
その後、第37節で残留争いを続けるジローナをホームに迎え、最終節では大きな目標のないレアル・マドリードとアウェーで対戦することになる。
しかし、現在の順位やチームの成績不振を考慮した場合、残り3試合でのチャンスはほとんどないに等しい。ラ・レアルに必要なのは"奇跡"であり、この最終局面で低迷するチームを引っ張らなければならない久保の、バロンドールを獲得できるレベルに近い活躍だ。
たとえそれが難しいとしても、久保は数字を残さなければならない。ゴールやアシストはもちろん、チームメイトと連係できない場合は個人で局面を打開し、違いを生み出す必要がある。
【近年の成功と比べ現在は残念な順位】
ラ・レアルがこの厳しい状態を改善できない場合、今季は12位に終わった2017-18シーズン以来の悪い成績で終了する可能性がある。しかし、その当時とは状況が大きく違う。チームの完成度は高く、選手の市場価値は高額で、予算も他の多くのクラブに比べてはるかに多くなっている。にもかかわらず中位に沈んでいるのだ。
下位のチームとは勝ち点に開きがあるため、これ以上順位を下げることはないだろう。しかし、最終的に中位以下で終わった場合、クラブの利益だけでなく、来季以降のプロジェクトが大きな打撃を受ける。
ラ・レアルの現状は、1部復帰(※2007-08~2009-10の3シーズンは2部)を果たすも、経済破綻に見舞われた2010年代とはまったく違っている。近年、ダビド・シルバや久保といった重要な選手やすばらしい若手選手の獲得に成功し、アルグアシルの指揮の下、チャンピオンズリーグ出場権を獲得するまでに至った。
クラブの予算や規模などを考慮した場合、ラ・レアルの現在の位置づけは、バルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードに次ぐ2番手グループ。アスレティック・ビルバオ、ビジャレアル、ベティスがライバルであり、ここ数年低迷しているセビージャもそれに含まれるかもしれない。目標はヨーロッパリーグの出場権獲得で、2季前のようにチャンピオンズリーグを目指して争えることもある。
欧州カップ戦の出場権を獲得したここ5シーズンは大成功だと言えるが、クラブのレベルを考えると妥当な成績であり、出来すぎというほどではない。だからこそ今の12位という成績は、ラ・レアルの本来あるべき順位をはるかに下回っていると思う。今のチームにはもっとできる能力があるはずだと、クラブ内部の人間を含め誰もがそう考えているからこそこの順位は残念だ。
ラ・レアルは来季、Bチームを率いていたトップリーグ経験のないセルヒオ・フランシスコを監督に迎える。新体制でチームを構築するにあたり、大幅な給与調整や、スビメンディやナイフ・アゲルドといった主力の退団など、今後直面する多くの問題を解決しなければならない。
(髙橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)