5月17日、京都。アジアチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝で、大阪ブルテオンはイランのフーラード・シールジャーン・イラニアンをセットカウント3-1(25-19、19-25、25-18、25-19)と撃破し、ファイナリストになっている。

「タフな試合でしたが、しっかり集中して"私のキャリアのなかでもベスト"と言える勝利でした」

 ブルテオンのロラン・ティリヘッドコーチ(HC)はそう言って、自らのチームを祝した。

 その日、彼らはこの大会の2位までに与えられる世界クラブ選手権への出場切符を手にしているが、その栄誉に値するシーズンを過ごしてきたと言えるだろう。SVリーグレギュラーシーズン1位は、長丁場の44試合を戦い抜いた結果だった。チャンピオンシップでは初代王者を逃す苦渋をなめたが、シーズン最後に報われる形でアジア代表の座をつかんだ。

「ブルテオンはタフな相手でした。とても組織的で、ディシプリンのある好チーム。我々のアタックが拾われてしまい、レセプションがすばらしかったです」

 フーラードのベールーズ・アタエイHCも絶賛するほどだった。ティリHCが率いたブルテオンの集大成の一戦だったと言えよう。

西田有志「すごく刺激的」 大阪ブルテオン、海外クラブとの邂逅...の画像はこちら >>

「試合は楽しかったです!」

 フーラードを下したあと、ブルテオンのリベロ、山本智大は明るく振り返っていた。コート上でも笑顔が見えたが、それは彼の異能だろう。いつもリラックスしていることで、どんなボールにも対応できる。SVリーグ、ACLと、ベストリベロ賞の受賞は伊達ではない。

ブルテオンの守護神だ。

「昨日(の準々決勝の相手)はもっと打ってきたので、今日は暇していたくらいですよ(笑)。それでも要所では、いいディフェンスできたと思うし、何より楽しみながらプレーできたんで。なかでも、(イアルバン・)ヌガペト選手と対戦できたのは楽しかったです!」

 フランス代表のヌガペトは東京五輪のMVPで、パリ五輪でも優勝メンバーになっている。バレー界のファンタジスタで、自由な発想を用い、巨体を思うままに動かし、奇想天外な技を繰り出す。この日の出来は、トップフォームから比べたら程遠かったが、スパイクは空中でタイミングを変えられるし、レシーブなどもボールを飼い慣らすようで柔らかく、変幻自在。背面ショット、フェイクセット、(右利きだが)左手打ちなど、究極のトリックスターだ。

【ひとつのサイクルの終焉】

 4セット目の終盤、山本はヌガペトの渾身のスパイクを、ほとんど至近距離で受けている。その刹那、左腕を反応させ、上腕の外側あたりでボールを上げた。その神業が得点につながったのだが、直後、ヌガペトがネット越しに山本に話しかけていた。

「ヌガペトは『どこで、どうやって上げたんだ?』みたいなことを聞いてきました。(上腕で上げる)練習はしていないですよ(笑)。

あれは、ボールが来たから咄嗟に手を出した感じですね。上げられてよかったですけど、たまたまですよ。普通は(左上腕の外側を指差しながら)腕のこんなところでは上げられないんで。ポジション取りがよかったのかなって思います」

 神がかったディグ(スパイクレシーブ)は彼の真骨頂で、それは軌道を読むポジショニング力に土台があるが、片腕だけで上げるのは、もはやミステリーだ。

 ブルテオンの選手たちは、単純に世界との邂逅を楽しんでいた。

「世界のクラブ、海外の選手たちが本気でやってくる、というのは、すごく刺激的でした」

 ブルテオンの主砲、西田有志もそう明かしていた。

「彼らと戦うことで、自分たちのプレーレベルが上がるところしかない。特にヌガペトはバレーボール界のトップで、リスペクトしている選手で、久しぶりに対戦しても、すごく面白かったですね。バチバチなんですが、それが楽しい。彼のギアが上がると、2セット目は止められたシーンもありました。あれだけ影響力がある選手はすばらしいなって」

 ブルテオンの選手たちは異国のチームとの対戦を楽しみ、世界への切符をつかんだ。

 もっとも、翌日の決勝はカタールのアル・ラーヤンに0-3(19-25、22-25、17-25)とストレート負け。

アジア王者にはなれていない。

 SVリーグMVPのニミル・アブデルアジズと、イタリア、セリエAでも活躍したノーモリー・ケイタのふたりが、次々と急襲。ニミルは硬軟織り交ぜたスパイクが持ち味のオポジットで、ケイタはとにかく背が高く、跳躍力にも優れ、長身のミドルのブロックの上から叩きつけてくるほどのフィジカルモンスターだ。

「自分たちのベストパフォーマンスで、互角に戦える相手だったので......」

 そう言って、ブルテオンのキャプテンでミドルブロッカーの山内晶大は、冷静に試合を振り返っている。

「各々がやるべきことをして、いろんな想定をして戦わないと難しいですね。相手どうこうよりも、自分たちの問題でした。短期間で彼らはチームを作ってきたわけですが、相手が個人の力を発揮し、手がつけられない形に持っていかれると、きつかったです。ティリ監督を"もっといい形で送り出したかった"っていう悔しさが、今の感情の正直なところですね」

 5シーズン率いたティリHCは今後、日本代表監督としての指揮に専念するという。ブルテオンにとって、ひとつのサイクルの終焉だ。

 最後の会見で、ティリHCは晴れがましい顔をしていた。ずっと連れ添った通訳は、感極まって涙を流した。彼女はそれを詫びたが、そこまで強い絆で"伴走"してきたのだろう。

その絆は選手、スタッフと張り巡らされていた。今シーズン、タイトルには手が届かなかったが、退席する彼らに向かって報道陣から自然に拍手が送られたのは、"ティリ・ブルテオン"への惜しみない喝采だった。

「ブルテオンでの5年間に感謝です」

 ティリ監督は曇りのない笑顔で言った。

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