後編:東京GB・柳田将洋が感じた新リーグの魅力と課題
将来の完全プロ化を視野に入れ新たに創設された「大同生命SV.LEAGUE」。2017年からプロ選手として国内外で活動してきた柳田将洋(東京グレートベアーズ)は、完全なプロリーグを目指すうえで欠かせないのは、ファンの存在と強調する。
昔は「"アスリート像"を装っていた」という柳田だが、ファン一人ひとりに対して、素の自分で接することは、バレーボールが社会のなかで根付くうえで大切な要素になるという。
【バレーボールだけをしていればいい時代ではない】
東京グレートベアーズは「大同生命SV.LEAGUE」(以下、SVリーグ)発足に先駆けて2022年からプロチームとして活動している。毎試合、試合のあとに主将がマイクを握り、来場者への感謝を述べる時間を作っている。その後、選手全員が会場を一周。訪れたファンと目と目を合わせ、手を振る機会を設けている。勝った試合だけではなく敗れた試合のあとも、である。
柳田は語る。
「僕自身、切り替えの早い性格なので、仮に負けてしまった時でも、ファンの方に挨拶することには何の抵抗もありません。むしろ、見にきていただいたことに対しての感謝の意を態度に表わさないほうが、失礼に当たるのではないかと考えています。勝とうが負けようが、ファンの人は必死に応援してくれて、僕らのことを支えてくれている。それに応えるのは当然だといつも思っています」
ホスピタリティを充実させる面においては、長く企業スポーツとして発展してきたバレーボールにはまだまだ課題が残されている。もちろんSVリーグに変わり、チームの姿勢も選手の態度も大きく変わっていることは確かだが、一方で企業スポーツ的な体質を残しているチームが存在するのも否めない。
「うちの選手はチーム創設当時からクラブの理念を理解しているので、僕が『何か言ったほうがいいかな』と思う選手はいませんね。
そして、そう考える選手がほかのチームにも増えていることも感じています。それはポジティブな変化だと思いますね。特に今はバレーボールだけをしていればいい時代ではありません。それでは今までのVリーグと何も変わらないですから」
柳田個人でいえば2017年、25歳のときにプロ宣言をし、その後、ドイツや国内リーグでプロプレーヤーとして活躍してきた。プロとしての先輩からSVリーグの選手にアドバイスはないかと尋ねると、即座にこんな答えが返ってきた。
「ファンの人との接し方というのは、おそらくその人のパーソナリティに関わる部分なのであまり他人が言えることはないですね。とにかく自分なりにファン一人ひとりに対して、素で接することしかないと思っています。自分を作り込んで接しても、たぶんバレちゃうんで。ファンの前で演じたり、取り繕っても、そんなのはすぐにバレますよ」
ただしファンへの接し方については柳田自身、プロになったばかりの頃から現在まで、かなり変化していると振り返る。
【「昔は僕、素顔を見せるのが嫌だったんですよ」】
海外リーグに参加していた時期があったことも影響し、ファンからは手紙をもらう機会が多いという。
「昔は僕、素顔を見せるのが嫌だったんですよ。自分の素の部分は見られたくないと思っていて、いわゆる"アスリート像"を装っている時期がありました。でも、ファンの方からいただいた手紙を読んでいると、本当にいろいろな境遇の人がいることに気づきます。なかには病気にかかってしまったけれど、僕のプレーを見て治療を頑張っているとか......。そうやってファンの方たちは自分の人生をかけて応援してくれている。であれば、こちらも本当の姿を知ってもらうべきだと思うようになったんです。
時にはファンの声がけに圧倒された時などには、思わず動きが固まってしまうこともあります(笑)。でもそういう素のリアクションも人間としては大事かなと思いますね。そういった反応も、僕ら選手とファンの方とのやり取りのひとつ。同じコミュニティの中で育んだ関係性だと思うので大切にしたい」
2024-2025シーズン中は、手紙はもちろん試合会場で来場者が書いてくれたメッセージカードにもすべて目を通した。
「初めて見に来たけれど楽しかったとか、『ハイキュー!!』が好きで見に来ましたけど実際の試合も面白かったという意見が思ったより多くて、今シーズン、SVリーグになって初めて来場してくださった人が多いんだなという現状にもあらためて気づくことができました」
新リーグからバレーボールに接した人がさらにバレーボールを好きになり、「バレーボールが生活の一部として根付いてくれればいいなと思っています」と目標を語る。
第一歩を踏み出した新リーグのなかで、おそらくこれからも柳田は旗手的な存在となっていくだろう。今後も柳田のプレーのみならず、その言動からも目が離せない。
Profile
やなぎだ・まさひろ/1992年7月6日生まれ。東京都出身。186㎝。アウトサイドヒッター。2023年から東京グレートベアーズ所属。東洋高から慶應義塾大に進学し、3年次に初めて全日本メンバーに登録される。2015-16シーズンにはVプレミアリーグで最優秀新人賞を受賞、2017年にはプロ選手となり、ドイツ、ポーランドの海外リーグでもプレーした。日本代表でも長年活躍し続け、直近では2023年は杭州アジア大会代表として銅メダル獲得に貢献した。