リーグ・アン日本人選手の明暗(前編)
現地5月17日にリーグ戦の全日程を終えたフランスのリーグ・アン。今シーズンは冬の移籍期間に古橋亨梧がレンヌに、関根大輝がスタッド・ランスにそれぞれ新加入したことにより、実に6人もの日本人選手がプレーすることになった。
過去に例を見ないほどの大接戦が繰り広げられた今シーズンのリーグ・アンのなかで、それぞれの選手はどのようなシーズンを過ごし、いかなる収穫と課題を手にしたのか。
まずはモナコの南野拓実、オセールのオナイウ阿道、そしてレンヌの古橋という3人の日本人アタッカーの今シーズンを振り返ってみる。
この3人のなかで、最も多くの収穫を手にしたのは、加入3年目を迎えたモナコの南野だ。リーグ戦31試合に出場し、そのうちスタメン出場は27試合。6ゴール3アシストは昨シーズンの9ゴール6アシストよりも下回る数字だが、逆に出場試合数は30から1試合増え(出場時間も2127分から2246分に増加)、スタメン出場も2試合増やすなど、アディ・ヒュッター監督からの信頼を高めた印象だ。
それを象徴していたのが、最終節のRCランス戦でゲームキャプテンを任されたことだ。
「彼は昨年と同じようにいいシーズンを過ごし、先週のリヨン戦ではとても重要なゴールを決めてくれた。彼は今日のスタメンで最も経験のある選手なのでキャプテンマークをつけたが、それに値する選手だと思う」
南野にキャプテンマークを託した理由をヒュッター監督はそう明かしたが、本来のキャプテンであるスイス代表のMFデニス・ザカリアがベンチスタートだったとはいえ、おそらくチームメイトも南野がキャプテンマークをつけることに違和感はなかったはずだ。
主軸のロシア代表MFアレクサンドル・ゴロヴィンが度重なる故障で、トップフォームを取り戻せずに大事な後半戦を欠場した。それとは対照的に、今シーズンの南野は大きな故障もなく、安定したパフォーマンスを持続した。
【南野はモナコとの契約を延長】
チームが最大の目標としていたチャンピオンズリーグ(CL)出場権の獲得。それに向けて最も大事なシーズンの後半戦に重要戦力として期待に応えたことが、南野にとって最大の収穫となったと言えるだろう。
その最たる例が、CL出場権争いの直接対決となった第29節(4月12日)のマルセイユ戦と、指揮官のコメントにもあった第33節(5月10日)のリヨン戦におけるパフォーマンスだ。
南野はその大事な2試合でいずれも貴重な先制ゴールを奪い、チームの勝利に貢献。CL出場権(ストレートイン)獲得の原動力となったことで、指揮官とチームメイトから揺るぎない信頼を得ることができた。
チームの大黒柱は、重要な試合で重要な仕事ができるか否かにかかってくる。今シーズンの南野はCLでも活躍して、グループフェーズ突破に貢献するなど勝負強さが際立っていた。それこそが、モナコで主力以上の存在になれた最大の要因だろう。
ヒュッター監督から「とても多くの才能を持ち、賢く、ケガもしない。それに複数のポジションでプレーできる。我々にとって彼は大きな強みだ」と称賛された南野は、3月にモナコとの契約を2027年まで延長。成熟したベテランの域に到達しつつある南野を見るにつけ、ますます来シーズンが楽しみになってくる。
【オナイウがクリアすべき課題】
一方、オセールのオナイウ阿道は、微妙なシーズンを過ごすことになった。
2021年からフランスでプレーするオナイウにとって、リーグ・アン挑戦は今シーズンが2度目のこと。前回は2022−23シーズンにトゥールーズで途中出場をメインに34試合に出場して2ゴールに終わった。今シーズンは同じようにベンチスタートの試合が多かったなか、終わってみれば31試合の出場で4ゴールを記録。
ただし、リーグ・ドゥで戦った昨シーズンはレギュラーFWとしてチーム最多15ゴールを量産した。そのことを考えると、本人にとっては成長を実感できたシーズンとは言えなかったのではないだろうか。
ターニングポイントは、第2節のナント戦だ。ニースとの開幕戦ではスタメンを飾って勝利に貢献したオナイウだったが、そのナント戦でレッドカードをもらったことがシーズン最大の誤算となったことは間違いない。
しかも、チームはその試合で敗戦を喫すると、オナイウが出場停止となった続く第3節(ル・アーヴル戦)でも勝ち星を落としたことで、クリストフ・ペリシエ監督は基本布陣を4−2−3−1から5−4−1(3−4−2−1)に変更。そのことも、オナイウの立場を難しくした。
以降、開幕戦で2トップの一角を務めたオナイウはベンチスタートが定位置となり、しかもその間に新戦力のハメド・トラオレがブレイク。連敗脱出と5戦無敗の立役者となったことで、オナイウはスタメンから遠ざかることとなってしまった。
とはいえ、ペリシエ監督が昨シーズンにリーグ・アン昇格に貢献したオナイウを最後まで見捨てることはなく、むしろ辛抱強く途中出場でチャンスを与え続けた。そこはオナイウにとって、ポジティブな材料だったと言える。
ただ、2シャドーの一角という慣れないポジションでどのように振る舞えば持ち味の決定力を発揮できるか、という課題については、最後まで明確な解決策を見つけられなかった。
【古橋とレンヌの契約は2027年まで】
そして、冬の移籍でセルティック(スコットランド)からレンヌに加入した古橋は、想像以上に苦しむこととなった。
加入早々に監督交代劇に襲われるなど、想定外の状況はあった。それでも、加入直後のストラスブール戦(第20節)でスタメンを飾って以降、古橋の出場機会は激減。結局、出場はわずか6試合(出場時間120分)に終わり、ゴールやアシストどころかシュートさえも遠かった。
本来であれば、この約半年はリーグ・アンに適応するための期間にしたかったところだろう。しかし残念ながら、それさえもできなかったというのが実情だ。
来シーズンに向けて、フロントは新しいスポーツダイレクターの招聘を決めており、場合によってはハビブ・ベイェ監督の去就にも影響する可能性がある。今夏に監督交代があるのかどうかは、当然ながら古橋の来シーズンの行方にも大きく影響するはず。
もちろん、古橋の契約は2027年まである。自ら出ていかなければ、来シーズンにレンヌでリベンジするチャンスは残されている。
いずれにしても、日本代表として来年のワールドカップ出場を目指す古橋にとっては、悩ましい夏を迎えることになりそうだ。
◆後編>>「明暗を分けた中村敬斗と伊東純也 2部降格組の夏はいかに?」