井上浩樹インタビュー 後編

(中編:井上尚弥の衰えは「まったく感じない」 いとこの浩樹は9月のアフマダリエフ戦のポイントを「スピード」と分析>>)

 6月8日、有明コロシアムで日本人世界王者同士が激突する。WBC世界バンタム級王者・中谷潤人とIBFバンタム級王者・西田凌佑による2団体統一戦だ。

 30戦無敗(23KO)という圧倒的な戦績を誇る中谷は、豪快なKO劇で"ビッグバン"の異名をとる。一方で技巧派の西田は、比嘉大吾やエマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)といった強豪を退け、10戦10勝(2KO)と地道に評価を積み上げてきた。

 来年には井上尚弥との"東京ドーム決戦"も計画される中谷にとって重要な一戦だが、西田は決して侮れない相手。この注目の一戦を、井上尚弥の従兄・浩樹はどう見ているのか。併せて、ウェルター級で再スタートを切った自身の戦いについても語った。

中谷潤人vs.西田凌佑を井上尚弥のいとこが展望 自らはウェル...の画像はこちら >>

【中谷vs.西田の展望】

――中谷選手と西田選手との2団体王座統一戦、どのような試合になると見ていますか?

「西田選手は策をしっかり練って、それを遂行する能力が高い選手です。中谷選手を相手に、どんな作戦を用意してくるのかがポイントだと思います」

――両者ともサウスポーで、身長やリーチも大きな差はありません。戦い方の違いはどこにありますか?

「一番の違いは、得意とする距離感だと思います。西田選手は、自分の間合いを保つのがうまい。一方の中谷選手は、相手の得意な距離を"潰す"イメージがあります。遠い距離でもロングフック、ロングアッパー、ワンツーと多彩な攻撃があって、距離が詰まったらアッパーのダブルやボディ、ボディと見せかけてのフックなど、次々と仕掛けて崩していく。自分の距離を作るのがうまい西田選手と、そこを崩す中谷選手、お互いがどう距離を制するかが見どころになると思います」

――どんな展開になると思いますか?

「中谷選手としては、ジャブを当てて駆け引きをしながら、いきなりロングフックを打ち込むとか、そうやって崩していくんじゃないかと。その大きなパンチに対して西田選手は、細かく中から返して、ポイントを積み上げていくことを狙うんじゃないかと思います。

 西田選手が勝利に近づくには、いかにパンチをもらわずに、的確に打ち返すことができるか。被弾が増えれば中谷選手のペースになりますが、細かく外して、細かく返すことができれば、西田選手にもチャンスはあると思います」

――その先の井上尚弥vs.中谷潤人を期待する声も大きいですが、西田選手はそう簡単な相手ではないと。

「そうですね。西田選手にも十分勝機はあると思います。仮に中谷選手があっさり勝つようなことになったら、想像をはるかに上回るすごい選手、ということになりますね」

――尚弥選手を近くで見てきた浩樹選手から見て、尚弥選手と中谷選手、それぞれの強みをどう見ていますか?

「スタイルはまったく違いますよね。ただ、共通しているのは、ふたりともボクシングが大好き、戦うのが大好きということかと。その本質的な部分は、試合中にもにじみ出ていると思います。だからこそ、お互いにリスペクトし合っている感じがしますね」

【復帰戦でKO勝利「俺だって」】

――浩樹選手自身の話になりますが、3月31日、ミハイル・レスニコフ選手(ロシア)に3ラウンドKOで勝利。おめでとうございます!

「ありがとうございます」

――前回の試合まではスーパーライト級でしたが、今回は67キロ契約、ウェルター級での試合でした。今後の予定は?

「正直、今からスーパーライトに戻すのは、しんどいですね。一度ウェルター級でやってみたくて試合を組んでもらったので、今後もこの階級で戦うことになると思います」

――3キロ程度の差ですが、減量の負担はかなり変わりますか?

「かなり大きいです。これまでは、減量のために練習している感じでしたが、今回は減量に追われず楽しくコンディション作りができました」

――KOしたパンチは左ボディでしたが、狙いどおりでしたか?

「はい。

その20秒くらい前、僕がロープ際で詰まった時に相手がワンツーで入ってきたタイミングで、カウンターで左ボディを打ち込んだんです。そこで相手が『うっ』と声を漏らして、ものすごい力でクリンチしてきたので、『これは効いてるな』と。クリンチが解けてからジャブ、右フック、左ボディとつなげました。

 練習の段階から『ボディで崩していこう』というプランでやっていました。相手はアマチュア経験も豊富で、ジャブや中間距離の駆け引きがうまい選手。その駆け引きのなかで、どこかでボディを当てていこうと」

――序盤でのKO勝利でしたが、反省点は?

「2ラウンド目くらいまでは相手の動きが予想以上によくて、パンチがなかなか当たらなかった。『このままだとポイントが取れないな』とちょっと焦りました」

――最後は、相手が四つん這いの状態で立てませんでした。

「技術の高さ、距離の取り方のうまさは本当にすごかった。でも、パンチ力や体の強さはそこまで感じなかったので、『どこかで削っていける』とは思っていました。結果的にKOできてよかったです」

――KOした3ラウンド、作戦を変えたとか、ギアチェンジしたということがあったのでしょうか?

「2ラウンドの後半くらいから、『自分もペースを上げないと、どんどん相手のペースになっちゃうな』と思ったんです。だから少し体の動きを増やして、足の動きも速くしたら、少しずつパンチが当たり出したので『このペースでいこう』と。そのまま3ラウンドに入った感じですね」

――スーパーライト級まではグローブが8オンスで、今回から10オンスに変わりました。

使用感に違いはありましたか?

「手が入りやすくなったというのが一番大きいです(笑)」

――そこですか(笑)。

「はい(笑)。自分は体も手も大きいので、バンテージを巻くと、8オンスではかなりきつくなってパンパンになっていたんです。それに比べて10オンスはすんなり入って、『これはいいな』と」

――試合でのパフォーマンスには影響がありましたか?

「試合に大きく影響することはないですけど、若干ブロックはしやすいかな、という感覚はありましたね。ただ、それは相手も同じ条件なので、有利・不利は感じないです」

――今、日本のボクシングは軽量級が盛り上がる一方で、世界戦を控える佐々木尽選手(八王子中屋ジム)や同じジムの平岡アンディ選手を筆頭に、中量級も注目され始めています。そうした流れのなかで、浩樹選手への期待も高まっていると思いますが、どのように受け止めていますか?

「『俺だって』と思うことは大事だと思っていますし、ほかの選手たちもそういう意識でやっているはずです。みんなで切磋琢磨して、『中量級も日本人は強いんだぞ』ってことを証明していけたらいいですね」

――浩樹選手の今後の展望について、何か決まっていることはありますか?

「まだ具体的には何も決まっていません。でも、ウェルター級を主戦場として、しっかり上を目指していきたいです!」

【プロフィール】

■井上浩樹(いのうえ・こうき)

1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、2人の父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。

2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回TKO負けを喫し、引退を表明したが、2023年2月、約2年7カ月ぶりに復帰。同年8月、WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦に勝利し、王座に返り咲いた。2024年2月、東京・後楽園ホールで、東洋太平洋同級王者・永田大士との王座統一戦に敗れた。2025年3月、ミハイル・レスニコフに3RKO勝利を収めた。
20 戦 18 勝 ( 15 KO ) 2 敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。

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