いま日本が欧州最強国と戦えば(5)~ノルウェー

 ワールドカップでの最高位ベスト16の日本が目標を「優勝」に設定した。そこで世界の「ワールドカップ優勝候補」の現在地を比較検証しながら、森保ジャパンの"今"を探った。

 第5回は進境著しい"ダークホース"、ノルウェー代表だ。

 ノルウェーが「ワールドカップ優勝」を標ぼうしたら、欧州では冗談に聞こえるだろう。ワールドカップ出場は3回だけで、最後に出場したのは1998年フランス大会だった。EUROでも過去にEURO2000に出場したのみで、この時はグループリーグで敗退した。

 世界のサッカー界で、ノルウェーは長く"アンダードッグ"として扱われてきた。しかし、世界トップレベルを誇る欧州では、クラブ間の戦いも含め、常に熾烈な競争が行なわれている。そのなかから、ビッグクラブの主力になるような選手が台頭すると、代表も一気に力をつける傾向がある。EURO2024ではジョージアがベスト16に勝ち進んで話題になった。バレンシアの守護神ジョルジ・ママルダシュビリや、パリ・サンジェルマンで欧州王者になったフヴィチャ・クヴァラツヘリアが相手を蹂躙した。

 いまノルウェーは、マンチェスター・シティのアーリング・ハーランドが世界有数のストライカーとして注目を浴び、新時代の扉を開いている。マルティン・ウーデゴール(アーセナル)、ユリアン・リエルソン(ドルトムント)、アレクサンダー・セルロート(アトレティコ・マドリード)など、チャンピオンズリーグ(CL)でベスト16以上のビッグクラブの選手も一斉に頭角を現わした。

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 時代の波に乗って、各ポジションに人材を輩出している。
20歳のアントニオ・ヌサ(ライプツィヒ)、21歳のオスカー・ボブ(マンチェスター・シティ)など、次世代も控える。ほかにウルバーハンプトンのヨルゲン・ストランド・ラーセンは、エールディビジ、ラ・リーガ、プレミアリーグで二桁得点を連続して叩き出した身長193センチのFWだ。

 2026年ワールドカップ欧州予選で、ノルウェーは4戦4勝と幸先のいいスタートを切っている。アウェーでモルドバに5-0、イスラエルに4-2と大勝。そしてイタリアをホームで3-0と叩きのめすと、アウェーでエストニアに1-0の勝利を挙げた。

【イタリアの守備陣がタジタジに】

 ハーランド、セルロートというふたりのストライカーを擁した布陣は強力である。イタリアのハイプレスに対し、ハイボールを蹴るのだが、身長195センチ前後の巨漢FWふたりがボールを収めてしまう。体をぶつけると押し負けるだけに、不用意に飛び込めない。

 ふたりは戦術的な動きにも優れ、3トップ構成の一角でポジションを変えながら、前線で拠点を作ってイタリアを翻弄。セルロートは名手ジャンルイジ・ドンナルンマ(パリ・サンジェルマン)の股を抜く左足シュートを決め、ハーランドはドンナルンマをきれいに抜き去って得点した。ラ・リーガ、プレミアリーグで得点王を争う実力は伊達ではない。

 3トップの左は、スピードとトリッキーな技を併せ持つヌサが勇躍した。

誇張ではなく、北欧のネイマールといったところか。イタリア戦もカウンターでボールを運び、セルロートにラストパスで得点をアシスト。その後、味方が収めたロングボールを受けると、電撃的に右足を一閃し、ゴールネットを揺らした。

 ノルウェーのディフェンス陣に世界的に有名な選手はいない。しかし、イタリアの反撃も完封。セットプレーを与えても、高さで負けないのが優位点だ。

 翻って、森保ジャパンはノルウェーの高さをはね返せるか。イタリア戦ではMFモアテン・トルスビー(ジェノア)がGKエルヤン・ニーラン(セビージャ)からのロングボールを見事に収め、起点になっていたが、この時点でかなりてこずることになるだろう。イタリアの屈強なディフェンスでさえ、全員の平均身長が190センチ近い相手に"制空権"を握られてタジタジだった。

 森保一監督はアジア最終予選では3バックを使ってきた。理由のひとつは単純にセンターバックを増やし、守備力を高めたいのだろう(攻撃的な戦いを提唱するが、それにしては3バックの距離間が近すぎる。持ち上がるプレーもなく、ビルドアップの工夫もない)。

しかし、3人いようと5人いようと、放り込まれるだけで劣勢に回るだろう。守備を極めたイタリアの守備陣も太刀打ちできなかった高さとパワーだ。

 ノルウェー代表を率いるのは、デンマークのコペンハーゲンを率い、あらゆるタイトルを勝ち取った戦術家ストーレ・ソルバッケンである。2010-11シーズンには同国クラブ史上初のCLベスト16に導いた。イタリアの3バックを易々と篭絡したように、森保ジャパンのズレや弱点も見抜くはずだ。

 森保ジャパンは「史上最強」の布陣と言える。各ポジションに人材が揃った。しかし、ハーランドのようなビッグクラブの主力はひとりもいない。ドイツに勝っても不思議はないが、ノルウェーに負けても驚きはないだろう。戦況次第でどうにでも転ぶ。実力はFIFAランキング10位のドイツから38位のノルウェーという広い幅の間のどこかにある。

 森保ジャパンが本来、目指すべきはベスト8だが、それも簡単なことではない。

カタールワールドカップではドイツやスペインに勝利したが、それは試合のひとつにすぎない。優勝にたどり着くには、紙一重の試練をいくつも乗り越えなければならず、だからこそ優勝国は8カ国に限られているのだ。

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