どんな相手であれ、得点を多く決めて勝利するのは簡単なことではない。国を背負った戦いならなおさらだ。

 6月10日、大阪。2026年ワールドカップアジア最終予選、日本はインドネシアを6-0と大差で下した。すでに大会出場を決めていた日本にとっては、祝祭のようになった。

 最大のトピックになったのが、レアル・ソシエダに所属する久保建英だろう。10番を背負っただけでなく、初めてキャプテンマークも巻いた。そしてアシスト、ゴールも決め、プレーヤー・オブ・ザ・マッチを受賞している。

 久保は森保ジャパンで存在感を増しつつあるが、ワールドカップで勝ち進むために望まれる姿に近づいているのか?

サッカー日本代表で存在感増す久保建英 だがワールドカップ本大...の画像はこちら >>
「タケ(久保)の最大の武器はコンビネーション力」

 レアル・ソシエダでは現地の関係者たちは、そう言って口を揃えていた。連係でプレーを高め合える。その異能こそ彼の真髄だ。

 インドネシア戦も、久保は真価を発揮していた。

 久保は2シャドーの一角に入ったが、同じシャドーの鎌田大地、ボランチの佐野海舟、トップの町野修斗と、周辺の選手とのコンビネーションは秀逸だった。

 たとえばチーム2点目のシーン。

久保はショートコーナーから鎌田とのパス交換だけで視界を開いていた。町野へのクロスは阻まれたが、落としを受けると、左足でシュートコースを作り、右足で蹴り込んでいる。スモールスペースで落ち着き払って連続的に技術を出せる点は瞠目に値した。

 その後も、久保は町野とのワンツーで抜け出し、GKの鼻先で合わせた左足シュートなど、"人を使う術"が実に長けていた。3点目のシーンでは、佐野とのワンツーでインサイドに入ると再び受け、ライン間に入ってきた鎌田の足元にピタリとつけ、これがアシストになっている。タイミングの取り方がうまい選手とは相乗効果を生み出せるのだ。

「一番意識していたのは、"布陣の部分で、僕が悪い意味で目立たないように"ってところですね」

 久保は試合をそう振り返ったが、むしろ彼と鎌田がチームを回していた。これまでこのふたりを長くピッチに立たせてこなかったことは、森保ジャパンの編成の遅れだ。

【「ここからはそんな余裕はない」】

「何回か、ネガティブトランジションでボール奪取してからのいい攻撃ができていましたし、よかったと思います。後半は鎌田選手がお役御免で交代し、僕によりボールが集まるようになって。みんなが結果を残すことで、(途中で出た)他の選手もチャレンジできたと思います」

 後半も佐野海舟がドリブルで持ち上がった攻撃が阻まれたあと、久保はライン間でボールを受けると、裏に走り込んだ町野に向け、完璧な浮き球のパスを左足で送り、これが再びアシストになった。ラ・リーガで限られた空間のなかですりつぶされるようなマーキングを受けているだけに、インドネシアの守備はいないに等しい感覚だろう。

「リーダー」

 今回、久保は森保一監督にそんな役目を与えられていたが、見事に期待に応えた。リーダーであることを自然に受け入れ、気負いよりもモチベーションにできるところは生来的な資質と言える。ふてぶてしいまでの"陽キャラ"で、どこまでも前向きなところはスーパースターの匂いがする。"陰キャ"はどこかに悲壮感を漂わせるものだが、彼にはそれがない。失敗も成功につなげる揺るぎなさだ。

 もっとも、今回の久保に与えられた役目やタスクが世界の強豪と対峙する際にベストかというと、疑問は残る。

 そもそも、世界ではアタッカーにキャプテンマークを任せるのは、相当に円熟した場合がほとんどである。キャプテンはボランチ、センターバックの主力選手がなるケースが多い。なぜなら、後方や中央でチームを見られる選手のほうが全体に目を配れるし、効率的に士気を高められるからだ。アタッカーはゴール、もしくはゴールに関わる仕事に集中するため、ある程度のエゴも必要で、「負担を背負わせるべきではない」というのが世界の定石だ。

「これで(キャプテンマークを)4年間は巻くことはないのかなって(笑)。ここからはそんなに余裕はないと思うので。

思い出としてしまっておこう、と。遠藤(航)選手に巻いてもらって......そのうち、(代表が)長くなってきたら巻くことになると思いますけど、今はキャプテンやりたいわけではないんで、やんなきゃいけないならやります、って感じで......」

 久保は監督や遠藤に気を遣いながら語っていたが、本人がこれから始まる現実を一番理解していた。

 さらに、ポジションについても議論の余地がある。

 久保がトップ下で自由にプレーしたのは悪いことではないが、世界のトップレベル(たとえばFIFAランキング10位以内)とは違う攻防になる。率直に言って、この日は相手が弱すぎた。欧州や南米の強豪の守りを崩すのは簡単ではないし、もっと押し込まれることでピンチの回数も増える。インドネシア戦で日本のウィングバックは得点にも絡んで健闘したが、三戸舜介はラミン・ヤマルには手も足も出ないだろうし、森下龍矢もヌーノ・ゴメスには立ち往生するはずだ。

 やはり、久保や三笘薫や中村敬斗がサイドをスタートポジションに仕掛けて崩し、サイドバックにフォローさせながら、自由に動くほうが合理的だろう。久保は連係力の高さでチームを優位にできるだけでなく、サイドから単騎で崩せるだけに、スペインのヤマル、アルゼンチンのリオネル・メッシのようなポジションのほうがベターのはずだ。

「代表は強くなっていると思います。でもアジア最終予選に勝ったからといって、世界との差が縮まったかはわからない。それはここからの(アメリカ遠征などがある)9、10、11月シリーズで、口だけでなく内容で示せたらって思います」

 久保の言葉である。

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