6月22日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のセカンドチームであるラ・レアルBは、2部昇格プレーオフ決勝をヒムナスティック・タラゴナと戦い、2試合トータル4-3で勝利している(ファーストレグはアウェーで1-3と勝利、セカンドレグは90分で0-2となり追いつかれたが、延長戦で1-2にした)。これで来季の2部昇格が決まった。
「欧州最高の育成型クラブ」
そう絶賛されるラ・レアルの面目躍如といったところか。
トップチームも、主力の半数が下部組織スビエタ出身。欧州カップ戦のベスト16に入るような有力クラブでは、ここまで高い比率はほかに例がない。昨シーズンも10代のDFジョン・マルティン、FWアルカイツ・マリエスクレーナなどが台頭した。
監督も、育成を経てトップチームを率いるのがひとつの流れとなりつつある。
イマノル・アルグアシル前監督は、スビエタでの仕事ぶりが高く評価されてトップチームを率いるようになると、歴史に残る成果を残し、昨シーズン限りで退任した。新たに監督に指名されたのが、昨シーズンまでラ・レアルBの監督を務めたセルヒオ・フランシスコだった。フランシスコはラ・レアルBをシャビ・アロンソ(現レアル・マドリード監督)から引き継ぎ、2部昇格の道をつくり、アルグアシルからトップを継承するわけだ。
新生ラ・レアルは、どんな構想を持っているのか。スビエタ組中心の構成となることは間違いないだろう。ただ、有力な外国人選手がいなければ、長丁場を勝ち抜けない。
そして何より、久保建英は来季もプレーするのか―――。
2025-26シーズンに向け、ラ・レアルの補強の動きは鈍いが、驚きはない。例年、8月になってからの選手獲得が多く、マーケットの動向を見極め、腰が重い傾向がある。その結果、好人材を逃しがちではあるのだが......。来季、クラブの補強戦略としては、まずモロッコ代表ナイフ・アゲルドのレンタル契約延長をウェストハムと結ぶことだろう。昨シーズンの在籍選手ではここ数年で、久保に次ぐ結果を残した選手で手放せない。本来なら買い取りたいところだが、移籍金は2500万ユーロ(約42億円)とやや高額だ。
【久保の移籍にはネックが......】
次に、ポストプレーができる大柄で得点力のあるセンターフォワードは欠かせない。理想は、かつて在籍したスウェーデン代表アレクサンデル・イサク、ノルウェー代表アレクサンダー・セルロートか。北欧系のストライカーと相性がいいだけに、アイスランド代表オーリ・オスカールソンを獲得したが、将来性は感じられるものの昨季は3得点と不発で、ポストプレーも未熟だ。
もうひとり、活動量が多く、プレー強度も高く、なおかつゴール前に入れるMFも求めている。一昨シーズンまで在籍していたミケル・メリーノがモデルだろう。
一方、スペイン代表マルティン・スビメンディの移籍が確実視されている。行く先は、ほぼ合意が伝えられたアーセナルか、猛烈な巻き返しを見せるレアル・マドリードか。6000万ユーロ(約100億円)近い移籍金になるはずで、それは補強資金となる。スビメンディのポジションは、エスパニョールにレンタルしていたウルコ・ゴンサレスを戻すのではないか。
そして久保も、2029年6月末まで契約が残っているが、移籍先候補はいくつも報道されている。興味を持つクラブがあるのは間違いない。アーセナル、リバプール、パリ・サンジェルマン、バイエルン、バルサなどはプレースタイルを含め、符合性もある。ただ、現時点でそれぞれブカヨ・サカ、モハメド・サラー、ウスマン・デンベレ、マイケル・オリーセ、ラミン・ヤマルと、ポジションの重なる有力アタッカーを擁している。控え要員では、移籍金6000万ユーロはネックだ。
「移籍違約金6000万ユーロ満額でない限り、放出はない」
それがラ・レアルの基本姿勢だろう。
だとすれば、中東のオイルマネークラブは別にして、欧州では相当な有力クラブ以外は手が出しにくい。
また、ラ・レアルにとって久保売却は割の悪い商売でもある。
なぜなら、たとえ移籍違約金6000万ユーロで売却できても、移籍の場合の権利を半分持つと言われるレアル・マドリードに3000万ユーロが渡ってしまう。久保の貢献度を考えた場合、損失が大きい。3000万ユーロで久保に代わるタレントを獲得するのは至難の業だろう(かつてレアル・マドリードからマルティン・ウーデゴールをレンタルしたような形はあり得るが、それも不透明だ)。
今の動きのままだと、久保はラ・レアル残留の可能性が高い。それを「停滞」と決めつける人もいるが、本当にそうだろうか? ラ・レアルはあくまでラ・リーガ上位を目論むチームである。冒頭に記したように、若い選手たちを中心に意気上がる状況で、トップチームは新監督で挑む「新体制」となる。
久保が新チームでリーダーとしてシーズンを過ごし、北中米ワールドカップに雄姿を見せる。そしてふさわしい新天地へ―――。